- 2006/06/05 掲載
【連載】ITと企業戦略の関係を考える[第4回/全5回](3/4)
ITは競争優位の源泉となりうるのか
カーの考え方は資源ベース論に近い。ITが、誰でも容易に入手できるコモディティになってしまったため、もはやITだけによってビジネス上の模倣困難性を創り出すことは不可能になってしまった。したがってITは持続的な競争優位の源泉とはなり得ない。それがカーの主張である。
この考え方を根本から揺るがすような反論は見あたらない。たとえば、CIOマガジンの編集長であるアビー・ランドバーグは、インターネットの世界を見れば、アマゾンやeベイのような例があるではないかとカーに反論している。しかし、カーは、それは「ITによって得られた一時的な競争優位をビジネスの領域にうまく転換できたがゆえに競争力を維持していられるのだ」と答えている。
たしかに両社はともに先行的なIT投資で得られた優位性をブランドという別の資源に置きかえることに成功している。特に、eベイの場合には、ネットオークションの参加者が増加することによって、出品される商品が増加し、それがまた入札者を増加させるというネットワーク効果によってネットオークションの市場で圧倒的な市場シェアを獲得した。アマゾンやeベイは、First Mover Advantageを最大限に生かした事例であり、ITによって競争優位を得た事例ではない。
また、ランドバーグは、グーグルの例を持ち出して先進的なITインフラが他社との差別化を生み、高い競争力を生むこともあると主張している。これに対して、カーは、「確かに、非常に小規模な企業であっても、独自の機密的なアルゴリズムを採用することで高い競争力を獲得できるということは、私も否定しません。ただし、グーグルが検索エンジン・ベンダーというきわめて特異な立場にあることを忘れるべきではないでしょう」と答え、グーグルにおける成功が、一般の企業で応用可能なものではないことを指摘している。
ただ、それほど例は多くないにしても、アマゾンのワンクリック技術のように特許権を付与されたITの場合には、ライバル企業による模倣を困難にする要素として持続的な競争優位の源泉となりうるだろう。工業製品と同じように、特許はソフトウェアにおいても模倣を防ぐ重要な武器になりうる。
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