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- 2023/01/10 掲載
2023年のメタバースが「2007年のセカンドライフ」のように失敗しない7つの理由
連載:根岸智幸のメタバースウォッチ
セカンドライフブームの背景
まず、2007年のセカンドライフのブームはなんだったのかを確認しておこう。ユーザーがアバターとなって生活する仮想世界はそれまでもあったが、セカンドライフは以下の点で際立っていた。
- 3D CGで表現された立体的でリアルな世界。
- ユーザーが建物、ファッション、交通手段、武器などあらゆるものを創作できる。
- 仮想通貨リンデンドルによる経済活動があり、現実の通貨と交換可能だった。
2006年から2007年にかけては、セカンドライフ内の不動産売買で100万ドル相当のリンデンドルを稼いだ人物がマスコミに取り上げられ、有名企業が相次いでセカンドライフに進出。日本でも電通が複数の島を確保して「バーチャル東京」をオープン。みずほ銀行やTBSも進出した。
セカンドライフが“失敗”した理由
しかし、ブームは長続きせず、電通が期待したような経済効果はなかった。月間アクティブユーザー数(MAU)が100万人と喧伝されたが、現在はTwitterですら3.3億人、最大手のFacebookは29.3億人だ。全世界で100万人程度、日本人だけなら数万人程度では地方の小都市以下の賑わいにしかならないので当然だろう。セカンドライフのユーザー数が伸びず、世間に浸透しなかった主な理由は以下の3つだろう。
- 要求ハードウェアのスペックの問題があった
- iPhoneのようなスマホがなかった(詳細は後述)
- マスコミや企業の期待が過剰すぎた
2007年当時、セカンドライフの3D CG世界を楽しめるPCは非常に高価で気軽に買えなかった。また、初代iPhoneの発売は2007年6月だが性能が低く、数も普及していなかった。
なかなか増えないユーザー相手に企業がサービス提供を続ければ、赤字を垂れ流すことにもなる。ブームが終息したのは当然だろう。
ただし、15年後の現在もセカンドライフは運営が続き、ユーザーによるイベントも複数開催されている。失敗は「外野」が貼った失礼なラベルなのかもしれない。
2007年と2023年では何が違うのか
2023年以降のメタバースは、2007年以降のセカンドライフのようにブームが失速することはなく、より加速すると筆者は考えている。2007年と2023年ではいくつも重要な違いがあるからだ。1. iPhoneの登場とスマホの普及
2007年以降の最も重要な変化は、iPhoneの登場とスマホの急速な発展・普及だ。
2007年の世界PC出荷台数は2.7億台、スマホは1.2億台。2021年の世界PC出荷台数は3.4億台、スマホは13.5億台。この膨大な市場からの収益がさらに技術改善に資本投下された結果、CPUもしくはSoCのプロセスルールは45nmから3nmまで微細化し、スマホの性能は毎年2倍、3倍と急激に向上し続けた。
iPhoneのようなスマホの普及はCPUやSoCといった半導体だけでなく、関連する通信、センサー、バッテリ、AIなど多彩な分野で急激な発展をもたらした。その結果、ドローンや自動運転、ロボットなど新しい分野も急速に発展した。この変化はiPhone以前の初期のスマホ、ブラックベリーなどでは不可能だったことだ。
『フラット化する世界』で有名なトーマス・フリードマンは2018年の著書『遅刻してくれて、ありがとう』の中で、技術の進化がさらに技術の進化を促進するこの急激な変化は今後ますます加速するとしている。
2. GPUの進化
メタバースの必須技術である3D CGを描画する半導体であるGPUの性能の性能も劇的に進化した。スマホの普及による半導体製造の微細化によって膨大なゲートを集積し、描画性能が向上していった。
2007年にPC用GPUのハイエンドだった『NVIDIA GeForce 8800 Ultra』の浮動小数点演算性能は387.1ギガFLOPS。搭載グラボは829ドル程度だった。
2022年に発売された最新の『NVIDIA GeForce RTX 4090』は83テラFLOPS。搭載グラボは1,599ドルから1,900ドル程度。価格は倍以上だが米国の物価は2007年から2022年のインフレ率が2.8倍。それに対して性能は214倍なのでコストパフォーマンスは600倍とも言える。
CPU内蔵GPUですら、2007年のハイエンドGPUの倍近い性能を持つ。たとえば2020年に発売されたインテル第12世代CPU『Core i5-12600K』に内蔵されている『UHD Graphics 770』は724.4ギガFLOPSの性能だ。
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