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- 2022/12/16 掲載
もう社会保障費は削れない…財政難の日本が決断した「防衛費43兆円増額」の財源とは
ロシアによるウクライナ侵攻で状況が激変
現在、日本の防衛費は、慣例としてGDP(国内総生産)の1%を目安に予算が組まれている。1976年に三木内閣が、防衛費をGDP(当時はGNP)の1%以内に収める閣議決定を行ったことがきっかけである。その後、86年に中曽根内閣がこの制限を撤廃し、「総額明示方式」と呼ばれる予算策定方式を導入したものの、事実上、単年度1%枠が維持されてきた。22年度予算における防衛費は5兆3,687億円となっており、一般会計予算の約5%を占めている。防衛費を倍増することになれば10兆円を超えるので、社会保障費や地方交付税交付金に続く大型の支出項目となる。
防衛費増額の背景となっているのは、言うまでもなく中国(およびロシア)の脅威である。近年、中国による脅威が急激に増大しており、国内では防衛力の強化を求める声が高まっていた。ロシアによるウクライナ侵攻後、中露が急激に接近していることに加え、ロシアは日本を完全に敵国とみなすようになっている。11月には、中露の爆撃機が共同で日本の近辺を飛行し、中国の戦闘機が合流するなど、日本に対する威嚇行為をエスカレートさせている。
もっとも中国による脅威の増大というのは、今に始まったことではなく、数年前から顕著になっていたことである。それにもかかわらず、ここに来て一気に防衛費増額の議論が高まったのは、事実上、米国から要請を受けたことが大きい。
米国は以前から、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対し、国防費を増額するよう要請しており、そのひとつの目安がGDPの2%という数字だった。バイデン政権もこの方針を継続しており、各国に対してGDPの2%という公約を達成することが重要であると主張してきた。
米国の要請は時期を区切ったものではなかったが、ロシアによるウクライナ侵攻が状況を大きく変えた。国防費の拡大に消極的だったドイツがウクライナ侵攻を受けて国防費をGDPの1.53%から2%に引き上げる方針を表明。スウェーデンやデンマークなども2%への増額に向けて動き始めた。
一連の動きはあくまでもNATO加盟国に対してのものであり、米国は日本の安全保障政策についてはよく理解しているので、米国が日本に対して直接的に2%への防衛費増額を求めることはなかった。だが、NATOに対する一連の要請は限りなく、日本への要請に近いものであり、政府もこうした状況を受けて防衛費の増額を決断した。
中国はさらに軍事費を拡大できる余力がある
では、日本にとって大きな脅威となっている中国やロシアはどの程度の軍事費を支出しているのだろうか。2021年における中国の軍事費は約2900億ドルと日本の5倍以上の規模がある。ロシアは約650億ドルと日本よりも多く、中露を合わせると日本の7倍近くになる(図表1)。一方、米国は突出した軍事大国となっており、わずか1カ国で8,000億ドルと中国の3倍近くの規模を維持している。しかしながら、軍事費(防衛費)について議論する際には、金額の絶対値だけでなく、GDPに対する比率にも留意する必要がある。全世界的に軍事費の対GDP比は2%程度が平均となっており、言い換えれば、この水準までなら経済を犠牲にせず軍事費を捻出できる。逆に軍事費がこの水準を大きく超えた場合、経済に対して相応の負荷がかかっていると解釈した方が良い。
米国は軍事費だけでなくGDPも世界1位だが、中国が米国の目前に迫っている。米国の国防費の対GDP比は約3.5%とかなり高く、米国はこれ以上、軍事費を拡大するのは難しい状況にある。米国がさらに軍事力を強化するためには、より高い成長を実現するしかない。
経済に対して無理をしているという点ではロシアが突出している。ロシアの軍事費は日本よりも多いが、GDPは日本の半分以下しかない。ロシアの軍事費の対GDP比は4%を突破しており、米国よりもさらに高い。ロシアは経済制裁の影響を受けないよう、可能な限り国債は発行しない緊縮財政を採用しており、軍事費も多くが税金によって賄われている。ロシア国民の負担はかなり大きいと考えて良いだろう。
では、日本にとって最大の脅威である中国はどうだろうか。先ほど説明したように中国の軍事費は日本の5倍以上の規模があるが、中国はGPDも大きく、軍事費の対GDP比はわずか1.7%に過ぎない。中国はその気になれば、米国並みに軍事費を拡大することが可能であり、理論上は国民に負担をかけることなく、今からさらに2倍の規模まで軍事力を強化できる計算になる。つまり中国の軍事費は、場合によっては日本の10倍以上になる可能性があることを意味している。
【次ページ】日本の防衛費増額、政府はどう財源を確保するのか
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