- 2024/06/19 掲載
アングル:本格利下げ観測、主要各国で消滅 市場の期待とずれ
[ワシントン 17日 ロイター] - 世界の主要な中央銀行は、半年前には利下げの準備に余念がなかった。パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長も昨年12月の会見で、利下げは「世界中で議論されており、FRBでも議題に上っている」と発言。国際通貨基金(IMF)などは、FRBが前のめりで利下げに動き、インフレ抑制の努力を台無しにするのではないかと心配していた。
こうした懸念は見当違いだったことが明らかになった。
主要中銀は予想以上にしつこいインフレ、経済成長と賃金の底堅い上昇に直面し、昨年末には間近に迫っていると思われていた同時金融緩和はほぼ消滅した。
欧州中銀(ECB)とカナダ中銀が今月利下げに踏み切るなど、小幅な金融緩和は実施されている。しかし欧米のムードは「エンジン始動」から「焦るな」へと変化した。
パウエル議長は先週の連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で、金融緩和の最初の動きは「結果論」になるだろうと述べ、委員が見込む年内の利下げ回数は3回から1回へと修正された。
<乱気流>
エコノミストを対象にしたロイター調査でも足元、年内利下げの回数は1回ないし2回と予想されている。パウエル議長が早期利下げの可能性を示唆して市場を驚かせる前の昨年12月の調査では4回と予想されていた。しかしエコノミストの方が市場の織り込みよりも予想にぶれがない。
例えば、ロイター調査によると、エコノミストは半年前にイングランド銀行(英中銀、BOE)の利下げは第3・四半期以降と予想していた。これは、ほぼ全員が利下げを8月と見込む今の予想とほぼ一致する。一方、市場は昨年12月時点では最初の利下げが5月で、その後年内に3回の利下げが行われると見込んでいた。
ECBの利下げ開始についても、エコノミストが6月と正しく予想したのに対して、市場の織り込みは大きく揺れた。市場は昨年12月に3月からの1年間で140ベーシスポイント(bp)の利下げを予想していが、現在は年内にせいぜい1回の追加利下げを見込んでいる。
しかしECBの政策担当者は以前から、インフレ率を目標の水準に戻す過程で「波乱」が生じる恐れがあると警告。利下げ開始は6月以降になると早期に示すことで、市場の期待が行き過ぎている可能性を示唆していた。
<勝利宣言はなし>
いつものことだが、期待の管理は物語の一部を成している。
「24年中に3回の利下げ」というFOMCメンバーの予測が初めて示された昨年12月、パウエル議長はFOMC後の会見で、インフレに対して「誰も勝利を宣言していない」とくぎを刺した。しかしインフレに関して「真の」、「大きな」進展があったと述べるなど、発言の大まかな基調によって利下げ開始が近いとの見方を定着させたようだった。
パウエル議長の現在の利下げに関する厳格な言い回しは、実際の見通しを示しているのではなく、市場の期待を管理しようという色彩がさらに濃くなっているのかもしれない。つまり、政策金利が予想よりも長く現在の水準にとどまるとの含みを残そうとしている。
FOMCの直前と直後に発表されたデータは、物価上昇圧力の軟化を強く示すものだった。投資家はパウエル議長の発言とFOMCメンバーの新たな予測をほとんど無視し、9月の利下げ開始という予想を変えていない。
ただ、利下げ時期は当初予想から大きくずれており、主要中銀は現在、引き締め的な金融政策によって予想より何カ月も長期間にわたって銀行や企業、家計を圧迫している形だ。これが引き金となって経済が腰折れする可能性を危ぶむ声もある。
インディード・ハイアリング・ラボの北米担当経済調査ディレクター、ニック・バンカー氏は、先週のFOMC決定を受けてこう書いている。「過度に引き締め的な政策が続けば、労働需要の押し下げが行き過ぎて、失業率を現在の4%よりも押し上げるリスクがある。過去2年間ほど、労働市場は無敵に見えたが、鎧(よろい)が永遠に壊れないわけではない」
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