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熟練技能者の高齢化や退職などを背景に、人手不足の問題が深刻化する建設(建築・土木)業界。実際に、技能労働者340万人のうち、今後10年間で離職する50歳以上の労働者が110万人にものぼるという試算が出ている。さらに、コロナ禍をキッカケに、建設業において重視されてきた「三現主義(現地・現物・現場)」の見直しを迫られている。これら課題を解決するべく、今、建設業界のデジタル化が急速に進んでいるのだ。ここでは、建設業の中の「建築」「土木」それぞれの領域のDXの事例を解説する。
「土木」と「建築」の違い
はじめに、建設業のDXの構造を語るにあたり、建設業に含まれる土木と建築の違いを整理しておきたい。
土木とは、トンネル、橋梁、ダム、河川、都市土木、鉄道、高速道路など、人々が生活する上で必要な構造物を作る建設工事を指す。一方、建築は、オフィス、マンション、商業施設、工場、病院、学校などの構造物を作る建設工事を意味する。
特殊な事情が分かる? 建設業の「ステークホルダー全体像」
土木・建築の共通の論点としては、ステークホルダーが多様であることだ。まず、建設工事のプロジェクトの予算を有しているゼネコンと、各工程の実際の施工を担うサブコン・施工会社が別の主体となっている。
サブコン・施工会社には中小企業も多く、十分なデジタル投資の余裕がないことが多い。このことから、デジタル投資やロボット投資などが進みにくいことが課題となっている。
一方、大手ゼネコン企業としては、自社でデジタルや自動化の仕組みを構築し、それを施工会社・サブコンへ提供する形をとるケースが多い。建設業におけるBIMやデジタルツインの活用、ロボット導入などにおいても、ゼネコン側が投資をし、プロジェクトの中で施工会社・サブコンに提供する形で展開が進むこととなる。
ここからは、土木・建築それぞれのデジタル化のポイントを解説していく。
建築DX(1):BIMを活用した「施工・維持管理」の効率化
建築領域はBIMを活用した3Dでの設計や施工シミュレーション、維持管理の最適化が進んでいる。このBIM(Building Information Modeling)とは、3次元の建築物のデジタルモデルのデータをはじめ、企画・設計・施工・維持管理に関わる情報などをまとめて管理できるワークフローだ。
従来から、3DによるVRイメージは、建築前の設計3Dなどとして顧客との合意形成や営業プロセスにおいて活用が進んできていたが、これが設計段階だけでなく、施工や維持管理など、全プロセスに活用が拡がってきているのだ。
このように、建設業においては「設計」→「施工」→「維持管理」の各工程のBIMを用いた
デジタルツイン化により、効率的な工程設計や、現場の安全性向上・生産性向上が図られている。
たとえば、顧客ニーズに合わせた設計BIMを作成した後、より具体的な工事にとりかかる前段階で生産設計を行い、その内容を踏まえ施工BIMへ更新する。その際、設計と施工会社が別の場合は、施工会社が引き継いで施工BIMに更新する流れとなる。
施工BIMにより詳細なモデルができるため、実施工の結果との比較によって建造物の検査も可能となる。建物が完成し、後工程へと引き渡した後もBIMを活用することで維持管理・メンテナンスを効率的・高精度に実施することができる。
どうしても分離発注となってしまう土木とは異なり、建築領域においては「設計」→「施工」→「維持管理」といった工程を一気通貫でゼネコンなどがBIMなどのデジタルツインを活用して実施するケースも多い。業界全体としてアナログ・2Dでの業務から、誰でも判別でき意思決定がしやすい3Dモデルを通じた業務プロセスの変革が求められているのだ。
建築DX(2):「設計とのズレを無くす」センシング技術
建築領域のデジタル化の難しさが、設計情報と現況のズレにある。製造業の工場のように繰り返し業務が行われているわけでなく、日々刻々と変化する建築現場においては、どうしても設計の3Dデータと現況にはギャップが生じてしまう。そのため、現場のリアルタイムの状況を正確に把握し、施工管理や意思決定、作業をするロボットの制御・シミュレーションに反映する必要がある。
その際、レーザースキャナーやドローン、段差を乗り越えるためのクローラー型ロボット、4足歩行ロボットなどを活用して現場をセンシングし、計測したデータを用いて現況をデジタルツインとして反映することが重要になる。
建築領域のみならず、建築後の建物やインフラの検査・維持管理においても、これらセンシングロボットが重要な役割を果たしている。現在は遠隔操作形式であるが、今後は自律型移動への高度化が期待されている。
建築DX(3):大手ゼネコンが開発する「建築ロボット」
建築業界におけるロボット導入に向けた課題はインテグレーターの不在である。
たとえば、製造業においては、ユーザーとしての製造業とロボットメーカーの間に、ロボットSIerや
ラインビルダーと呼ばれるインテグレーターが存在する。彼らがユーザーの要件に合わせて「かゆいところに手が届く」据付・インテグレーションを行うのだ。
一方で建築業界においてはロボット活用が萌芽期であることからも、展開しているロボットメーカーが限られるとともにロボットインテグレーターの数が限定的である。そのため、建設会社がパートナーと連携して自社で開発を主導するケースが多い。
たとえば、清水建設は「シミズ スマートサイト」コンセプトの下、各種建設現場で求められるロボット開発を積極的に行っている。
また、急速に業界内連携が進んでいることが特徴である。技術開発においてはゼネコン同士での競争があり各社がしのぎを削っていた構造であったが、近年では自社として尖らせていくべき競争領域と、他社と協調していくべき領域の振り分けが進んできている。
たとえば、ロボット領域においては、鹿島建設・清水建設・竹中工務店のスーパーゼネコンと呼ばれる大手企業とともに、中堅ゼネコン17社を加えた20社により「建設RXコンソーシアム」が形成され、共同開発をはじめとした各種連携が図られている。
同様にCPS(Cyber-Physical System)の領域においても、自社のみで活用するのではなく、業界他社も含めて外販をする動きが進んできている。元々、建設プロジェクトもJV(共同企業体)で共同受注するケースも多く、他社連携の土壌がある中で、今後業界で企業を超えたオープンイノベーションが加速することが期待されている。
【次ページ】土木DX(1):特殊な土木のデジタル化の全体像
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