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総務省の情報通信審議会はこの5月、「Beyond 5Gに向けた情報通信技術戦略の在り方」報告書(案)の取りまとめを公表した。この審議会では「強靱で活力のある2030年代の社会」を目指し、あらゆる産業や社会活動の基盤となる次世代の情報通信インフラ「Beyond 5G」を掲げている。Beyond 5Gの研究開発戦略や知財・国際標準化戦略の具体化などについて検討し、意見募集しているが、そもそもBeyond 5Gとは何なのか。言葉の定義や、Beyond 5Gで実現するインフラ像、社会ビジョンについて解説する。
Beyond 5Gとは何か?
Beyond 5Gとは、5Gの「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」といった機能の高度化に加え、「超低消費電力」「超安全・信頼性」「自律性」「拡張性」といった持続可能で新たな価値の創造に資する機能を持つ5Gの次の世代の移動通信システムを指す。
Beyond 5Gでは、現行の移動通信システムの延長上だけでとらえるのではなく、有線・無線、光・電波、陸・海・空・宇宙などを包含し、データセンター、ICTデバイス、端末なども含めたネットワーク全体を統合的にとらえる。
総務省ではその上でBeyond 5Gで期待されるユースケースや求められる要求条件を整理し、ネットワークのアーキテクチャや構成要素などについて、具体的な「研究開発戦略」を進めていく計画だ。
Beyond 5Gネットワークの全体像としては、「サービス」「ネットワークプラットフォーム」「ネットワークインフラ」「デバイス・装置・端末」で構成されるネットワークアーキテクチャの方向性が次のように整理されている。
「ネットワークインフラ」層は、オール光ネットワーク(伝送・交換の処理を光信号のまま実現できる高速大容量・低消費電力なネットワーク)や、光信号と電気信号を融合する「光電融合技術」の実用化が進むことを念頭に置いている。実用化により、圧倒的な省消費電力・低遅延時間を可能とする「超強力汎用ハードウェア」の実装やクラウドネイティブな制御部とのハード・ソフトの分離が進展していくことを想定している。
「ネットワークインフラ」層の進展によって、「ネットワークプラットフォーム」層は、移動網や固定網、衛星・HAPSネットワーク
(注1)なども含めたネットワークのオープン化、分散化、共有化が進み、それらのネットワークが「マルチネットワークオーケストレータ」で自律的に統合・制御される。
Beyond 5Gネットワークのオープン化、分散化、共有化、統合が進むことで、「サービス層」において多様な分野のデジタルツインが組み合わさり、革新的なサービスが登場することが期待されている。
注1:HAPS(High Altitude Platform Station):成層圏を無人飛行機で飛び続けるグライダー型の中継基地局
Beyond 5Gと6Gの違い
Beyond 5Gと、10年後の次世代規格と目される「6G」の違いとは何か。
そもそもモバイル通信は、アナログの第1世代(1G)から約10年ごとに次世代の規格が採用され、現在(2022年)は4Gを主流に5Gが一部サービスや地域で限定的に利用されている。
6Gは2030年ごろの導入だと想定されるが、今回総務省が想定する2030年代は、「7G」を含む可能性がある。6Gは次の通信規格を指すが、Beyond 5Gは5G以降のすべての通信規格を想定しているということだ。
Beyond 5Gが検討される背景とは
5Gが普及している段階で、なぜ、政府はBeyond 5Gへの対応を急いでいるのだろうか。
コロナ禍でのデジタル化の進展などによって、国民生活や経済活動における情報通信の果たす役割や、その利用に伴うセキュリティの確保が一層重要となっている。
Beyond 5Gは、Society 5.0の中核的な機能を担う次世代情報通信インフラとして位置づけられており、激化する国際競争を背景に、その技術開発はますます重要になっている。
総務省が2020年6月に策定した「Beyond 5G 推進戦略」では、2030年代の社会像として、サイバー空間とフィジカル空間の一体化(Cyber Physical System)を進展させ、国民生活や経済活動が円滑に維持される「強靱で活力のある社会」の実現を目指している。
その実現に向けては、同戦略が提言する「研究開発戦略」や「知財・標準化戦略」を一層強力に推進するための具体的な方策の検討が急務となっている。
諸外国では、国際競争力の強化などのため、研究開発計画の具体化や政府研究開発投資の拡大などを進めている。今後も世界各国で Beyond 5G市場での主導権を握るための取り組みが拡大・進展していくことが見込まれ、日本の研究開発などの取り組みを強化しなければ開発競争に遅れを取り、Beyond 5G市場での存在感を失ってしまう恐れを指摘している。
また、コロナ禍による生活様式の変化により、国内の通信トラフィックは想定を上回り、増加傾向が続いている。そのため、ICT分野の消費電力も増加傾向にあり、今後の技術やサービスの発展などに伴って、ICT分野における消費電力の大幅増加が懸念されている。
政府では、国際公約として2050年カーボンニュートラル実現を目指すことを宣言している。政府全体の方針においても、グリーン・デジタル社会の実現や2040年の情報通信産業のカーボンニュートラル達成などが位置づけられ、ICT分野におけるグリーン化・デジタル化に向けた取り組みの必要性が高まっている。
グリーン化への対応にあたっては、超低消費電力化に向けた研究開発などの取り組みを抜本的に強化していく必要があり、Beyond 5Gネットワーク構築がICT分野におけるグリーン化・デジタル化への鍵となる。
国家戦略としてのBeyond 5Gの推進
岸田内閣では、成長と分配の好循環による「新しい資本主義」の実現を目指している。「
デジタル田園都市国家構想」「経済安全保障」「科学技術立国」の推進を成長戦略の柱として掲げ、デジタル分野を初めとした成長分野に大胆に投資していく方針を示している。
その中で、Beyond 5Gの早期実現に向けて、光ネットワーク技術や光電融合技術を初めとする革新的な情報通信技術の研究開発を推進・加速していく計画だ。
政府の成長戦略の重要な柱となる「デジタル田園都市国家構想」は、地域の個性を生かしながらデジタル技術を活用し、地方を活性化し、持続可能な経済社会を実現することで、地方から全国へのボトムアップの成長を図る構想となる。
同構想の実現のためには、光ファイバーや5G、データセンターや海底ケーブルなどのデジタル基盤の整備が不可欠の前提であることから、総務省は2022年3月に「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」を策定・公表し、以下の3つを柱に取り組むとしている。
- 光ファイバー、5G、データセンター/海底ケーブルなどのインフラ整備を地方ニーズに即してスピード感を持って推進する。
- 「地域協議会」を開催し、自治体、通信事業者、社会実装関係者などの間で地域におけるデジタル実装とインフラ整備のマッチングを推進する。
- 2030年代のインフラとなる「Beyond 5G」の研究開発を加速する。研究成果は2020年代後半から順次、社会実装し、早期の Beyond 5Gの運用開始を実現する。
【次ページ】Beyond 5Gが実現する2030年代の社会ビジョン
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