【連載】現役サプライチェイナーが読み解く経済ニュース
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需要予測AIはさまざまな業界で実用化され始めています。2022年1月には、ソフトバンクと日本気象協会が小売店や飲食店の日々の来店客数を予測するAIを開発した、との発表がありました。さらなる活用の広がりが期待されますが、活用する上で重要なのは目的です。今回は来店客数予測による食材の発注や人員シフトの最適化を目的とした事例を挙げながら、需要予測AIがビジネスで価値を生み出すために必要なステップについて解説します。
需要予測AIで成果を出すための「4つのステップ」
まず需要予測AIでビジネス価値を生み出すためのステップは次の通りとなります。
- 需要予測の活用目的と目指す精度を設定
- 需要予測AIの開発
- 予測結果をオペレーションで生かす解釈プロセスの設計
- AI活用プロセスの定着
もちろん、業界や適用領域に応じたアレンジが必要ですが、筆者が経験してきた需要予測AIについては、このステップが有効なのは間違いありません。来店客数の予測も広義で捉えれば需要予測であり、本稿ではこのステップに沿って解説していきます。
ソフトバンクが需要予測AIを超低価格で提供
今回のソフトバンクと日本気象協会の
ニュースでは来店客数が予測の対象であり、その目的は食材の発注と人員シフトの最適化です。この来店客数の予測に基づく商品、原材料の自動発注は、実はよく聞くものです。つまり、比較的難易度は高くなく、一定の効果が期待できると言えます。これを月額5,390円という低価格で利用できます。
また記事では、次のレベルとして商品別の需要予測を目指すと書かれていました。というのも、この事例では2週間分の予測をターゲット期間としていますが、製造業の商品別の需要予測は1~3カ月、業界によってはもっと先をターゲットにしています。そのことを鑑みると、今回は超短期の予測と言えるでしょう。
需要予測は一般に、近い未来の予測ほど精度が高くなることが知られています。さらに先の未来の予測となるほど、想定外の外的環境の変化や、それを受けたマーケティングアクションの変更などがあります。これらを踏まえても、ソフトバンクと日本気象協会の事例で超短期の予測をターゲットにしているのは理解できると思います。
小売店や飲食店では、各店舗の担当者が食材の発注やシフトの作成を行う場合が多いと思います。発注担当者は曜日の特性、祝日の並び、店舗周囲のイベント、明日の天気などを考えながら、これらの業務を行っています。
ステップ1:目指すべき精度は人口2%の超予測者?
アメリカの研究では、「超予測者」と呼ばれる人が人口の2%程度で存在すると示していました。超予測者は、機密情報を持つ機関と同等以上の予測力を持っています。実際、各業界においてもスター級の予測力を持つプレイヤーがいるのは皆さんも実感していると思います。
筆者の需要予測セミナーには、これまで200社近い企業のプランニング担当者やマネージャーに参加いただきましたが、統計的な予測モデルや予測AIに大きな価値を見いだしていない方も少なくありませんでした。それは、参加者が専門家であり、スター級のプレイヤーが多かったからでしょう。
スター人材が存在することも事実ですが、予測精度は発注者の知見やセンスによって大きく異なる可能性が高く、またスター人材はそのスキルを簡単には継承できないはずです。
これらの点を踏まえ、来店客数の予測AIに求める精度は、少なくとも平均的なスキルの発注者以上、できればトップレベルといった目標感になります。重要なのは、発注のスーパースターを必ずしも上回らなくても良いという点です。AIといえども、こうしたスター人材を超える予測精度を目指すには、コストや時間がかかり過ぎる可能性が高いからです。
しかしスターにはかなわなくても、トップレベル、少なくとも平均以上の精度であれば、十分にビジネス価値を生み出せます。全店舗にスター級の発注担当者を配置することは非現実的ですし、異動や転職などの要因もあるからです。
ソフトバンクと日本気象協会が開発したAIの利用料は月額5390円とのことですが、日単位では200円を切ります。今まで人が発注に割いていた時間を30分程度と考えても、平均以上の精度で予測してくれれば十二分に許容できる価格と言えるでしょう。
まずは需要予測AIの目的や、目標とする精度のレベル感など、広い視野から設定していくことが重要になります。これに続いて、需要予測AIの開発や構築のステップに移ります。
【次ページ】ステップ4:AI活用の成否をわける「2つのポイント」
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