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外出が制限されるコロナ禍で打撃を受けた化粧品業界。その中で新たな施策を次々と打ち、業績低迷を防いだのが日本ロレアルだ。同社はパンデミック以前からCX(顧客体験)に力を入れ、それに紐づくような形でDX(デジタル変革)も加速させてきた。ロレアル リュクス事業本部のキーパーソンに、CRMの活用やライブコマース施策など、直近1年でどのような工夫を行ってきたのか話を聞いた。
執筆:鈴木雅矩、編集:ビジネス+IT編集部 渡邉聡一郎
執筆:鈴木雅矩、編集:ビジネス+IT編集部 渡邉聡一郎
デジタル化で生じた分断を乗り越える
従来、高級化粧品は店頭のカウンセリングを経て販売されていた。しかしパンデミック下では対面接客が難しくなり、外出自粛やマスク生活が広まったことから、化粧品業界大手は軒並み減収となっている。
一方で、ロレアルグループは2020年の第1四半期こそコロナ渦の影響を受け、前年同期比マイナス成長となったが、同年の第4四半期には前年同期比4.8%増とその売上成長率を復調している。ロレアルグループの日本法人である日本ロレアルも2021年には百貨店などを販路とするラグジュアリー化粧品カテゴリにおいて、外資系No.1になるなど、コロナ禍でも堅調な成長をしている。その背景にはさまざまな要因があるが、その1つが同社のCX(カスタマーエクスペリエンス)チームがデジタル部とともに推進したDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。
2019年に発足した同社のCXチームはオンライン・オフラインを相互活用して顧客体験の向上を目指し、手探りながらもパンデミック下の事業を牽引してきた。
そもそも日本ロレアルは10年前から急速なデジタル化を推進しており、業績は従来からリテール(小売)が多くを占めていた。リテールの中心となるロレアル リュクス事業本部は現在ランコムやイヴ・サンローランなど主要8ブランドで構成されているが、デジタル化によってセクションの分断が進んでしまったのだとCXシニアマネージャー三木理寛氏は語る。
「デジタル化のメリットはとても大きなものでしたが、その一方でお客さまとのタッチポイントが豊富になりすぎてしまいました。結果、チャネルごとに顧客コミュニケーションが分断され、ブランドから一貫性のあるメッセージを伝えづらい状況になってしまったのです。この状況を改善するため、CXチームを設立しました」(三木氏)
同社がCXの主軸に据えたのが「O+O」(Online+Offline)、すなわちオンラインとオフラインの融合だ。化粧品は肌に直接付ける商品なので、販売手法として対面のカウンセリングが重視されてきた。デジタル化が進んだ現在も、店頭体験の重要度は変わらない。ここにオンラインの利便性を付け加えることで、CXの向上を図ろうと考えた。
「オンラインとオフラインとの融合は『OMO』(Online Merges with Offline)」という言い方が一般的ですが、弊社では“融合”をよりわかりやすいメッセージとして浸透させるために、あえて『+』を使っています。言葉だけが独り歩きするのではなく、その意味を社員1人ひとりが理解し、行動に移せるよう、わかりやすさを重視しています」(三木氏)
顧客カルテと美容部員のデジタル化でCX向上
CXチームの発足後、ロレアル リュクス事業本部ではさまざまなCX向上プロジェクトが推進された。施策は多岐に渡るが、主軸となったのは『CRM(顧客管理ツール)の活用』と『美容部員のデジタル化』の2つだ。
「自社開発のデジタルツールを導入し、今まで紙カルテがメインだったところを電子化することで顧客情報の一元化を行っています。これにより、美容部員は、自店で得た情報だけではなく、お客さまの各チャネル/各店舗における購買履歴情報を確認することができるため、よりお客さまの状況に合った接客が可能になります。また、デジタル上でカウンセリングもできるようになっていますので、カウンセリングの記録もその中で行うことができます」(三木氏)
カウンセリングツール兼CRMとなる上記のツールを通して得られた顧客データは、各システム・データと連携を行い分析することでマーケティング施策にも生かしている。「店頭のカルテで管理していた顧客情報をデジタルに移したため、経営企画から営業、店頭スタッフまで購買履歴などを把握できています。購入データをデジタル化した恩恵は大きく、現在はECサイトで顧客に応じて最適な商品表示ができるようになっています」と三木氏は続ける。
もう一方の『美容部員のデジタル化』では、ITの力で店頭スタッフの力を引き出すべく、オンラインカウンセリングやライブコマースを実現できるデジタル基盤を整えている。人材面では『eBA(eビューティアドバイザー)』と呼ばれるオンライン専門の美容部員を配置。さらに販売活動の一環として、社の管理のもと美容部員がSNSに投稿を始めた。
これらふたつのデジタル施策に加え、顧客向けデジタルツールを開発。顧客のWebカメラを連動してホームページ上で化粧品の色合いを試せる「Virtual Try On(ヴァーチャルトライオン)」や、スマホで肌情報を分析できる「E-Youth Finder(イーユースファインダー)」などをリリースして、購買体験を拡充した。
「施策を通して実現したかったのは『購買体験の最大化』と『顧客との長期的なお付き合い』でした。『O+O』を推進することで、お客さまにはオフラインと同じ感動を体験してもらいたかった。結果としてオンラインでの購入体験の満足度が向上し、再来店していただけるようになる。この方針を定量的に評価するため、KPIには『LTV(顧客生涯価値:顧客1人あたりが企業にもたらした価値の総計)』を導入しました。デジタル化によって、購入していただくチャネルを問わず、長期間リピートしてくださるお客さまを増やすことがDXチームの役割です」(三木氏)
CXを向上させるという同じ目的のもとで、デジタルが必要であればDXチームがサポートするという、二人三脚で同社の「O+O」の取り組みは進んでいる。
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