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- 2021/06/22 掲載
R/GA 嶋田氏に聞く、デジタルとアート思考で「根本から変わる」広告ビジネスのゆくえ
伝説的ピアニスト、グレン・グールドをAIが再現
ヤマハは、1982年に50歳の若さで没したカナダのピアニスト、グレン・グールドによる音楽表現で、ピアノを演奏できるAIシステムを、2019年9月7日に公開した。楽譜があれば、未演奏曲でもグレン・グールドらしくピアノを演奏できるシステムだ。システムは、自動演奏機能が付いたピアノとAI(ソフトウェア)で構成される。AIはグレン・グールドのタッチやテンポを取り入れた演奏データをリアルタイムに生成し、ピアノに演奏を指示する。グレン・グールド財団の協力を得て、100時間を超える音源を学習させた。
ただし、ここで嶋田氏は「このようなすばらしい取り組みを実現しても、プレスリリースを打つだけで済ませてしまう企業も少なくない」と指摘する。
この時、日本IBMの立場で支援していた嶋田氏は、斬新なアイデアを持ちかけた。グレン・グールドの音楽表現にAIで迫ることを目玉に、グールドの未演奏曲を披露したり、現代の名演奏家との合奏に挑戦したりという内容のコンサートの開催を、提案したのである。そして、それは実際にクラシックの聖地オーストリアで実現した。
「実のところ、テクノロジーは音楽を邪魔するものだとして、毛嫌いする空気がクラシック音楽の世界にはある。そんな中で、名ピアニストがAIによって“亡霊”のように現れ、さらに現代の一流ピアニストと並奏しながら、独自の音を紡ぎ出すという世界観に、来場者は驚いていた」(嶋田氏)
デザイン思考ではない、アート思考は何を導くのか
グレン・グールドを再現したその新規性は、既存の枠組みを取り払い、「こういうものがあったらどうだろう」という問題提起の追求から来ている。嶋田氏はこれを「アート思考」と絡めて説明する。ここ数年注目を集めている考え方として「デザイン思考」があるが、アート思考とは何が違うのか。「デザイン思考は、すでに分かっている事柄を対象に、フレームワークを使って問題を解決するもの。あくまでもプロセスが対象であるため、デザイン思考ではイノベーティブなものは作れない」と嶋田氏は述べる。
アート思考とは文字通り、アーティストが作品を生み出す時の考え方を意味する。これが、豊かな生活やビジネスの創造に活用できるとして、近年注目されているのである。
【次ページ】世界的に注目されるアート思考
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