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一時、米国をしのぐほどの勢いで興隆し、世界No.1の地位を奪取したと言われた中国のAI産業に大きな変化が生じ、正念場にさしかかっているという。一体なぜそんなことになったのか。中国の投資と技術革新を追跡する人工知能ベースのプラットフォームであるChina Money Networkの創設者であり、『Red AI: Victories and Warnings from China‘s Rise in Artificial Intelligence』の著者であるNina Xiang氏が、中国AIの今を報告した。
本記事は、2021年5月に開催されたエクサウィザーズ主催のオンラインイベント「ExaForum2021」の内容を再構成したものです。
中国のAI産業は「大きいけれど、強くない」
DeepMindの囲碁AI「AlphaGo」が中国の碁の名人に勝利したのは2016年。その後、中国でも急速にAI産業が発達した。Xiang氏によれば、2018年時点で、中国のAI産業には目をみはるものがあったという。
AIベンチャーの数のみならず、俗に“ユニコーン”と呼ばれる推定時価総額10億ドルを超えるような企業も数多く出現した。VC投資も盛んで、AI人材の数や中国人研究者による論文の数も多かった。中国はあっという間に、AI分野で世界一、ないしは米国に次いで2位の地位を占めると言われるようになったのだ。
米国でも警戒心からか「中国がAIで世界をリードしている」「中国が米国を抜いてAI大国になった」「中国に追いつかなければならない」といった報道であふれかえった。しかし、Xiang氏はこうした意見に懐疑的だった。
中国のAIが実際よりも強力であるような印象を人々に与えているという違和感を抱いたのだ。こうした極端な報道や誇張を是正したいと思ったのが、「Red AI: Victories and Warnings from China‘s Rise in Artificial Intelligence」を執筆したそもそもの動機だったという。そして執筆のための取材の結果、Xiang氏は「中国のAI産業は規模は大きいが強くない」という結論に至る。
「中国のAI産業は、基礎研究やブレークスルーという観点では強い存在ではありませんでした。0から1を生み出すのではなく、1を100にするような領域、つまりビジネス応用では、中国のトップAI人材やトップAI産業はすごい力を発揮しました。AlphaGoが碁の名人に勝ったあと、何百もの企業が同様の技術を応用し、さまざまなビジネス用途にAIを実装していきました。公共の安全やヘルスケアなど便利なサービスが次々と生まれました」
「しかし、DeepMindは英国企業で中国企業ではありませんし、彼らの研究開発に中国人は関与していません。最近のAIブレークスルーでもそうです。GPT-3はすばらしい技術ですが、中国が開発したわけではありません。ロボットの分野ではBoston Dynamicsがすばらしい成果を出し続けていますが、これも中国企業ではありません。 中国のAIはビジネス用途への応用に関しては非常にすばらしい。しかし、基礎研究や技術的ブレークスルーに関しては米国が今でも世界一というのが私の実感です」
“無法時代”は終わった
とはいえ、「顔認証」の分野では中国は確かに強みを発揮し、社会導入も進んだ。ただこれは、AI興隆期の中国が“西部劇の無法時代”のような状況だったから可能だったこと、とXiang氏は語る。
「中国で顔認証技術が広く採用された2018-19年当時、規制や倫理に関する指針がなく、データプライバシーに関する認識も広まっていませんでした。まるで西部劇の無法時代のようなものでした。何もかもが新しく社会に応用した事例も乏しい状況でしたから、政府も世論も対応の仕方がわからなかったというのが実情でしょう。そうした中、AI企業はさまざまな用途を試しました。公共の場からプライベートな場所まで、セキュリティ目的で、学生の授業態度の監視目的で、社員証代わりとして、数多くの利用法が考案されました」
しかし、そうした状況もこの1、2年で大きく変化しているという。倫理やプライバシーの問題に関して、政府や個人が注意を払うようになったのだ。個人のプライバシーを守り、倫理的な使い方を促進させるため、政府は取り扱いガイドラインを策定し、AI業界を指導し始めた。
ひとつ象徴的な事件があった。ある地方自治体が公園の入園者管理システムに顔認証技術を導入した。しかし、これに対し、大学の法学部の教授が顔認証を望まないとして地方自治体を訴えたのだ。裁判所はこの教授の訴えを認め顔認証の強要を禁止するとともに、身分証明書など顔認証以外の認証方法も提供しなければならないと市に命じた。
この裁判は報道で大きく扱われて中国全土の注目を集め、SNSでも話題となった。この判例が前例となり、多くの地方自治体が顔認証の強要を禁止し、本人認証に選択肢を設けるよう定めた条例を採択するようになったという。
教室内に設置された学生監視カメラも、中国国内で議論を呼んだ。結局、深く検討することなく単純にAIを応用したケースは解決策ではないという風潮が高まり、こうした分野に技術を提供していたAI企業は、今では別の領域に挑戦しているという。
【次ページ】中国AIベンチャーが共通して抱える4つの課題
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