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2018年から東芝は、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を中心に「世界有数のCPS(Cyber-Physical System)企業」を目指すと宣言し、さまざまな企業と共創しながら、新しい取り組みを進めている。先ごろ開催された「TOSHIBA OPEN INNOVATION FAIR2019」の基調講演に登壇した、同社 執行役専務 兼 東芝デジタルソリューションズ 取締役社長の錦織 弘信氏が“新生”東芝の現在、そして未来の姿を伝えた。
どうなる、デジタル世界の覇権争い
冒頭、錦織氏は、世界経済力のトレンドは、欧米から中国・インドへとシフトしつつあることに言及した。特にデジタルの世界では、米国と中国の覇権争いが始まっている。これは「自由市場型資本主義」vs「国家統制型資本主義」の対立でもある。たとえば、EC消費ではアマゾンとアリババ、SNSではフェイスブックとテンセント、Web検索ではグーグルとバイドゥという形で競い合っている。
たとえば無人小売店舗では2016年に「Amazon Go」の第1号店が登場(一般公開は2018年)し、現在米国に約3000店舗がある。だが一方、後発の中国は、2017年に開始した無人コンビニ「Bingo Box」がすでに5000店舗まで展開している。
錦織氏は、「中国は国家統制型で世界一のイノベーション大国を目指しています。政府が個人と企業の情報を掌握し、全国民を社会的ステータスでスコアリングしています。国策によってAI(人工知能)技術活用を進め、米国をしのぐ圧倒的なスピードと規模間で展開を図っているのです」と中国の現状を説明する。
一方で、世界や日本の人口動態についてみると、改めて日本の深刻さが浮き彫りになる。2100年には世界の人口は41%増えて108億になるが、日本人口は減少の一途をたどる。2019年4月に統計局が公開した人口推計によると、2018年10月時点の日本の人口は、前年比43万人(0.35%)減少の1億2400万人。2019年に国連が発表した予測によると、2100年の日本の人口は7500万人と、2018年と比較し40%も減少する見込みとなっている。
ICT関係でも、いわゆる「2025年の崖」が待ち受けている。経済産業省の『DXレポート』では、老朽化するレガシーシステム、IT人材の不足、維持管理の増大など、負の要因が重なり、このままいくと年間の経済損失も現在の3倍となる12兆円まで膨れ上がり、それが継続してしまう恐れが示唆されている。
課題だらけの日本が持つ「強み」とは
「従来までの「第1幕」となるデジタル時代の競争を振り返ると、実はコンシューマーデータの活用が中心だった」と錦織氏は語る。つまりSNS、検索、ECなど、人がアクセスして情報を入手したものを分析し利活用していたわけだ。
「ところが第2幕の競争の場は、エンタープライズ産業用データを活用していくことがポイントになります。人が情報にアクセスするのではなく、工場などの設備にあるセンサーからビッグデータを自動で収集し、AIが解析して、人や機器(ロボットや自動運転車)に提案します。このようなことで、産業変革や経済発展、社会課題を解決する時代になるでしょう」(錦織氏)
IDCのレポートによれば、全世界のデータ総量は2020年で50ZB(ゼタバイト、1ZB=10億TB)、2025年には175ZBに増加し、これに比例して実世界から生じる産業用データも急増している。そこで、このフィジカルの産業データをサイバー世界に持っていき、それらのデータを活用することが重要になってくるのだ。
錦織氏は「日本は課題だらけですが、強みはその解決能力です。過去にも公害問題や石油危機で対応し、燃費の良い自動車を開発しました。現場力もあり、匠(たくみ)の技や高品質、精緻な計画、省エネ・省スペース、おもてなしなど、これらをデジタル化して数値化する時代に必ずなります」と強調した。
そのような中で、日本政府も“人間中心の社会”を志向する「Society5.0」を打ち出している。その実現手段として注目されているのが、CPS(Cyber-Physical System)だ。CPSとは、リアルの世界(フィジカル)からセンサーなどを通じて収集したデータをAIなどコンピューター技術によるサイバー空間で解析し、新しい価値を創出しようとする取り組みである。
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