0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
デジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれる今日、ビジネスにおける競争力の強化や維持には、データ活用が鍵を握るのは間違いないだろう。また、DXを実現するためには、データを起点とした事業モデルへのシフトや改革が必要となり、それを遂行できる人材である「データサイエンティスト」の投入が不可欠だ。データドリブン事業の先進企業には、どのようなデータサイエンティストが所属して活躍しているのだろうか。NEC、楽天、第一生命保険などの企業担当者が自社の現状を紹介した。
データサイエンスはあくまで「目的を達成するための手段」
2019年10月、東京・虎ノ門で開催された「Innovation Leaders Summit 2019 EYイノベーションカンファレンス」では、第一生命保険、楽天、NECなどデータドリブン事業を積極的に進めている企業がパネルディスカッションに登壇。同領域で成功するために不可欠な要因について活発に議論が交わされた。
モデレータを務める、EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング アソシエイト パートナーの小林 元氏が、今回のディスカッションのテーマを設定した。同氏によると、データに基づいた事業推進には大きく3つのポイントがあるという。それは「データ」「ゴール設定や活用方法」「人材やITインフラ」だ。
「これらのどれが欠けてもうまく進まないが、特に人材が重要である」と小林氏は述べ、「人」にフォーカスを当てて議論が進められることとなった。
まず発言したのは、第一生命保険の板谷 健司氏だ。同氏は2000年代初頭からCRM(顧客関係管理システム)を担当し、データ分析基盤の構築やデータマイニングを実施した後、DBマーケティング・情報活用を推進し、2019年に設立された「データマネジメント室」を率いている。
「データサイエンティストがいれば、データをより有効に活用できるようになると言われますが、私は疑問に思っています。ただ『R言語が分かる』『Pythonが使える』というだけではダメで、そこにビジネスへの理解がなければ成果は出せません。我々が求めているのは、まず自分の専門分野をしっかり持ち、結果につながるデータを選別できる目を持つ人です」(板谷氏)
楽天の野村 一仁氏もそれに賛同する。同氏は、楽天グループのモバイルやeコマース、広告事業におけるデータ・AI活用推進を主導している。
「企業で一番活躍するのは、ビジネスに直面してデータを分析している人です。逆に、マシンラーニングなどの精度を向上させる、新しいモデルを作るといったことだけをやってきた人は、企業に入っても苦労する傾向がありますね。データサイエンスは目的を達成するための手段であるという認識が重要です」(野村氏)
日本電気(NEC)でも、データ活用の実践を重視する観点から、2019年に社会人や大学生を対象とする「NEC アカデミー for AI」プログラムを立ち上げた。短期間で実践力を身に着けることがその目的となる。
同社の執行役員で、生体認証・映像、AI、クラウドなど成長領域のデジタルビジネス、および事業変革を担当する吉崎 敏文氏は「データをどう価値に変えていくかという視点が最大のポイントです。この観点にしたがってデータサイエンティストの再定義、SIer(システムインテグレータ)の再定義が求められています」(同氏)
早稲田大学の「データサイエンティスト」育成方針とは?
一方、人材を供給する側である大学は、現状をどう捉えているのだろうか。今回は、早稲田大学から後藤 正幸教授が登壇した。後藤氏によると、同大学では「データサイエンス学部」はあえて創設しない方針であり、その代わりに全学的に共有可能な「データサイエンス推進組織」を設けて、文学部などでも研究可能な体制を整備しているという。
後藤氏は「現場で実践するスキル自体は大学で教えられません。しかし、“サイズの大きいスポンジ”のように、現場力をどんどん身につけられるよう教育することは可能だと思っています」と語る。
早稲田大学では、一般的な前提から、より個別の結論を得る演繹(えんえき)推論、個々の具体的な事柄から一般的な法則を導き出す帰納推論の訓練を実施しているという。「これらはビジネスの世界で日常的に行われていることで、本学では“この仮説は本当に正しいか”という際にデータを使って考えてもらっています」(後藤氏)
【次ページ】データサイエンティストは“チーム”として機能させるべき
関連タグ