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「GDP(国内総生産)だけでは、消費者の生活実態を捉えられない」──。野村総合研究所(NRI)は、GDP以外の重要な要素をGDP+消費者余剰と考えている。日本のGDPが増えていない一方、日本人の生活満足度が向上していることの背景にあるのは、この要素のせいだ。一方、この消費者余剰も伸び悩み始めている。「消費者余剰を生む」にはデータの特質をとらえるべきというが、どんなことを考慮すべきなのか。
経済成長に寄与する“消費者余剰”に着目
「日本人の生活レベルが着実に向上している」──。NRIが実施する生活者1万人アンケート調査によると、自分の生活レベルを「上」「中の上」と意識する回答が年々増えている。
これに「中の中」を加えると、全体の4分の3にも上る。NRIの此本臣吾会長兼社長は、実質GDPの成長率や所定内賃金水準などの主要な経済指標が低迷している中でも、「生活者の実感が意外に悪くない」と調査結果の感想を述べている。
とくにインターネット活用度の高い人ほど生活満足度が高い傾向にある。その要素の1つが、主観的な生活実感を向上させる消費者余剰にあるという。
消費者余剰とは、消費者が「最大支払ってもよい」と考える価格と実際の取引価格の差分で、GDPには計測されない数字。「購入価格以上のメリットを得られた」と感じるもので、デジタルが消費者余剰を増幅する。たとえば、デジタル化された音楽や動画は、CDと比べてコンテンツの複製コストが限りなくゼロに近く、消費者余剰が大きい。
消費者余剰をより拡大させるのが、LINEなどのコミュニケーションツールやグーグルの検索、フェイスブックのSNSなどの無料デジタルサービスになる。NRIは、国内におけるLINEとFacebook、Twitter、Instagramの4つが生み出す消費者余剰を約20兆円と試算する。
他の無料と有料のデジタルサービスを加えた2016年の消費者余剰は、実質GDPの約3割に相当する161兆円になる。結果、2013年から2016年の実質GDPの成長率は年平均0.7%だが、それに消費者余剰を加えると、3.8%になる。スマートフォンの普及が1人あたり消費者余剰を増やし、成長率を高めてもいる。
NRIによると、他の先進国でも同様の傾向見られる。欧州委員会の調べでは、EU(欧州連合)主要国の生活満足度は2015年ごろから上昇傾向にある。経済が停滞するイタリアの生活満足度が向上しているのは、「生産者余剰(GDP)から消費者余剰(体験価値)へのパラダイムシフトが起きていることに起因する」と、NRIは予測する。
これまではGDPが上がると、生活満足度も向上すると思われていた。実際には所得水準が上がると、この「所得と生活」の相関は希薄になる。NRIが他に生活満足度と強い相関にある指標を調べたところ、経済や社会のデジタル化の進展度合を示すDESI(The Digital Economy and Society Index)が浮かび上がってきた。
DESIは、コネクティビティと人的資本、ネット利用、デジタル技術の統合活用、デジタル公共サービスの5つの因子で、デジタル経済社会度を評価する指標だ。
デジタル推進国ほど生活満足度が高い
だが、日本にはDESIがない。そこで、NRIは近いものとしてネット利用やデジタル公共サービス、コネクティビティ、人的資本の4つの因子に重み付けをしたDCI(Digital Capability Index)を考案した。
EUのDESIと同じように、生活満足度と1人あたり所得、生活満足度とDCIとの相関を見ると、後者の方が強いことも分かった。つまり、生活満足度の向上は、DCIを向上させる施策にあるということだ。
そこで、DESIの高い国の1つであるデンマークを調べると、国全体のデジタル化を積極的に推進していることが見えてきた。1968年から日本のマイナンバーに近い共通番号(CPR)を整備し、2001年にはCPRとデジタルIDによる電子署名を実現する。2003年には医療データの個人ポータルサイトも開始する。
1人ひとりの国民がどんな治療を受けて、どんな処方で、どんな投薬だったのか、オンラインでいつでも確認できる。デジタル化が最も進むエストニアも、デジタルIDの取得を義務化し、運転免許や健康保険、交通定期などを兼ねるデジタルID経由で、電子行政手続きも可能にする。此本社長はエストニアがデジタル化により、少数の役人で運用を可能にしている用に見えたと説明、「日本と比べ、役所内の風景も大きく異なる」とした。
【次ページ】日本の「満足度」もデジタル化で向上?
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