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SNSなどの評価や信用を基盤とする「評価経済/信用経済」が話題だが、インターネット上の評価はお金で簡単に買えてしまうという“穴”がある。そこでオウケイウェイヴが打ち出しているのが「感謝経済」だ。感謝経済とは何か、ブロックチェーンを基盤とすることで何が変わるのか。オウケイウェイヴの代表取締役社長 松田 元氏に話を聞いた。
評価経済と感謝経済とは、どう違うのか
──前編では、資本主義経済の限界やテクノロジーの進化によって、食べログやUber、ジーマ信用(芝麻信用)に見られるような「評価経済」が徐々に浸透し始めていることをお聞きました。また、その先にあるのが人々の感謝を軸にした「感謝経済」であると。
松田氏:そうですね。インターネット上にある評価はお金で買うことができるかもしれませんが、ブロックチェーン上に記録した感謝はお金では買えません。そこが両者の最も大きな違いです。
──評価や感謝に対価を支払うには、実名、あるいは実社会の自分とサービス上での自分が紐付いていなければなりません。ですが、Twitterや掲示板サービスに顕著なように、日本では匿名の文化がまだまだ根強いですよね。
松田氏:我々が取り組んでいるブロックチェーンの世界で、匿名の文化はすべて塗り替えられると思っています。インターネット時代からブロックチェーン時代に切り替わる大きなポイントが、まさにそこです。
さらに昔は、インターネットで実名をさらすなんてこと、あり得なかった。ですが、FacebookやLinkedInの普及により、名前で検索するとヒットするのが当たり前になりました。
また匿名制のSNSでも、情報開示請求をすれば発信者を特定できます。ですが、そんな面倒なことをしなくても、自分がインターネット上で活動したことを明示した方が、ベネフィットが得られるのであれば、明示しますよね。
ブロックチェーン時代へ移るということは、インターネット上の活動が、みんなに承認された改ざんしづらいレコードシステムに半永久的に残るということです。今がちょうど過渡期なんです。
──「インターネットで活動したことが自己に紐付けられて残っていく」ということが、なぜユーザーの利益になるのでしょうか。
松田氏:自分がインターネット上でした活動が、社会の評価と結びつくようになるからからです。これはまさに我々が評価経済の先にある感謝経済でやろうとしていることなんです。
実社会ではすごく普通に見える人でも、ネット上で1日100回、場合によっては年間3万回ぐらい困っている人を助けたとします。今は履歴書に書くと、アホだと思われるようなことですが、それがブロックチェーンでトークンとして蓄積されると、やがて実社会で評価されるようになると思いませんか? 同じ人間がやっていることなんですから。
これは実際、すでに起こり始めていることです。企業が雇用する際、その人がネット上でどういう行動を取っているのか、FacebookやTwitterを確かめるのは今や普通です。
自分という人間の社会生活の行動とネット上の行動を一貫させる、という風にトレンドが変わってくれば、自己防衛するという意味でも、匿名で変なことをするようなことはなくなると思います。
オウケイウェイヴが目指す感謝経済プラットフォームとは
──では、オウケイウェイヴが考えている「感謝経済プラットフォーム」について、概要を教えてください。
松田氏:私たちは「OKWAVE」や「OKBIZ.」、およびその付随サービス、米国で展開しているデジタルグリーティングカードサービス「Davia」など、いくつかメディアのプラットフォームを持っています。
それらを総称したモノが「感謝経済プラットフォーム」。つまり、オウケイウェイヴという会社、ないしグループ企業が織りなすその一連のサービスプラットフォームを「感謝経済プラットフォーム」と呼んでいます。
このプラットフォームの中では、今までお金の世界や、資本の世界では評価されなかったような人たちでも、他者を助けたり、他者の利益に利するようなことをした場合に、何かしらのベネフィットを提供します。つまり良いアクティビティ、あるいは良い振る舞いをした場合に、良いことが起こるということ。物心含めて豊かになってもらいたいという思いから、感謝経済プラットフォームと名付けました。
たとえば先の例のように、「OKWAVEで自殺を止めた」など良いアクティビティをした人にコインが集まる仕組みを作ります。そのコインが暗号資産としてコーヒーやドル、ビットコインに変えることができれば、多くの人が良い活動や良い回答をするようになります。そしてそういう活動をするうちに、自然とコインが貯まり、気付いたら家が買えたりする。それが、我々の目指している世界観です。
これは個人の例ですが、エンターブライズの世界でも価値観を変えることができると思います。
たとえば、同じ会社でもある職場では若手がどんどん辞めるのに、別の職場では若手が辞めない。何が違うのかを調べたところ、その部署には仕事中は常に新聞読んでいるけど、ランチで真摯に悩みを聞いてくれる上司がいた。それが若手をつなぎ止めている可能性があるかもしれませんが、評価しようがないわけです。よくわからないので。
──今までの評価軸で漏れていた人も救済できる可能性があるということですね。一方で、「感謝される行動」はこれまで対価がなくてもやってきた、つまり対価を求めずにやる行動で、そこに美しさがあるとも思います。その感謝される行動が、コインやコーヒーなど、モノに交換できるということによって、本来の感謝の意味が変わってくるような気もするのですが。
松田氏:今は感謝が完全に欠落している、真の資本主義なんです。自分のグループや自分の組織の利益を最優先させる形でしか競争原理が働きません。そこに感謝経済という新しい概念を落とすとどうなるか。
おっしゃるように、最初は「その報酬目当てで行動しているんじゃないの」「ありがた迷惑なんだけど」みたいことが増えてくると思うんですよね。
でもこれはある種「感謝の進化」で、僕はいいと思っています。なぜならば、感謝がゼロの状態よりは、金目当てであろうが、なんだろうが、他者をヘルプした方が自分にベネフィットがあるという経済原理が働いた方がいいと思っているからです。
ただ、人間はバカじゃないので、そのうち感謝の「質」に気がつくようになるんですよ。そうすると今度は経済原理が働いてくるので、今まではありがとうで10個のコインだったのが、同じありがとうでも5個しかもらえなくなったりする。なぜなら、それは金目当ての感謝であったり、あるいは軽い感謝であったりするからです。
これが定着すると何が起こるかというと、「粋な感謝」をするようになるんです。気が利くようになれば、感謝のレベルが上がる。そうすることで人類も進化すると思うんです。
感謝経済はユートピアの実現ではない
松田氏:感謝がお金になると思ったら、今まで気付かなかったような感謝を人は探すようになります。たとえばある貧しい国の子どもたちがお腹を空かしていて、100円あれば10人の子どものお腹が満たせ、さらに100円贈った人には200円分のコインが返ってくるというような仕組みを作ったとしても、貧しい国の子どもたちが助かるのは間違いありません。だから、最初はそういう形でもいいと思うのです。
──経済理論を完全に無視して設計すると、ちょっと理想郷の話みたいになりますからね。
松田氏:ちょっと怪しい宗教みたいになって、気持ち悪いじゃないですか。僕がブロックチェーンに惹かれたのは「人間はインチキをする」という前提で組み込まれていることなんです。だから感謝も別にそういう動機付けでいいと思うんですよ。感謝が大事だと言ったって、精神的に相当、崇高なレベルの人しか実践しません。感謝が金になるならと思うのが、僕も含めてその他大勢だと思うので。
──ユートピア的な話なのかなと思ったら、地に足付いた概念だったのですね。
松田氏:ユートピアも、その先の科学的社会主義も、130年前にすでにマルクスで失敗しましたからね。そのため戦争で何人も死にました。それを知っていて、理想郷を立ち上げるのは厳しいですよね。
中国はまさにその好例で、彼らは社会主義や共産主義を標榜していますが、実質ウルトラ資本主義なんです。役人に賄賂を渡して金で上に上がれる、こんな「美しい」資本主義はありません。
誤解してもらっては困るのですが、僕はマルキストでも革新派でもありません。だけど、僕はまだマルクスは負けていないと思っている。資本主義はまだ勝っていないんですよ。
【次ページ】ブロックチェーンは“粋”を表現できるすごく良い技術
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