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- 2019/08/16 掲載
国鉄書体「すみ丸ゴシック」が今も愛され続けるワケ
みんな知らない「鉄道文字」の世界
鈴木氏:中西さんの著者に昔の駅名標は手書きだったと書かれていました。手書きならではの良さってありますよね。中西氏:昔は1つの鉄道会社でも、統一した書体のなかでさまざまな手書きの文字が使われていました。同じ書体でも職人によって違いが見られるのがおもしろいですね。
1960年(昭和35年)、国鉄は「すみ丸角ゴシック体(すみ丸ゴシック)」という書体で掲示類の統一を図りました。はじめて書体見本を作り、誰が書いても統一感のある文字を目指したのです。
ちなみにすみ丸ゴシックは、時代の流れにより文字の製作方法も変わっていきました。刷毛などによる手書き文字から、切り抜き文字や堀り文字になり、やがてシルクスクリーンやインクジェットなどの印刷機器が使われるように。そういう時代の波を乗り越えられた書体として、生き残っているのです。
鈴木氏:興味深いです。中西さんは雑誌『鉄道ジャーナル』で連載を持っていらっしゃいますが、最初に取材したのは、すみ丸ゴシックだったでしょうか。
中西氏:営団(帝都高速度交通営団・東京メトロの前身)の書体「ゴシック4550(ゴシックヨンゴゴマル)」を実際に作ったデザイナー 鎌田経世氏に取材しました。今までバラバラだった案内掲示に「サインシステム(駅や公共施設などを利用しやすくするため、案内サイン・案内板などを総合的に設置すること)」を先駆的に導入した話などを伺いました。
中西氏:鎌田氏が作ったゴシック4550は「縦45:横50」の比率で作られています。それは電車に乗った状態で駅名標を見たときにも、目に留まる時間が延びて記憶に残る横長のデザインとなっています。
ちなみにこのゴシック4550は、文字タイル方式でカッティングシートを1文字1文字切って、新しい駅名ができる度に切り貼りしながら版下を作っていく手法をとっていました。結局、デジタル化には対応せず、東京メトロ発足を契機に指定書体が変更となってしまいます。
文字が「消える」ということ
鈴木氏:手書きからデジタルフォントになるなど技術が進化することで、昔から使われている文字が、 新しい書体に変えられてしまうことがあります。良い書体が消えてしまうということは、 危惧している点です。時代と技術が変わっても、使い続けられ得る書体であること、それを どう引き継ぐのかを考えています。それが僕がこの仕事に就いている意味ともいえます。中西氏:「すみ丸ゴシック」は現在、JR東海の駅名標へ引き継がれ、「スミ丸ゴシック体」の名前で使われており、こうした時代の流れを乗り越えられています。国鉄分割民営化や手書きから写真植字への移行など2回ほど、時代の流れによって書体にも波が押し寄せました。
「書体が変わるかも」という危機感は、思いがけずファンの愛着を意識させることもあります。書体の持つ歴史的背景や希少価値など、事業者がひとつのシンボルとして位置づけ、それがうまく噛み合うと、次の時代に行ける。
もちろん、見やすさや読みやすさも研究されるので、時代に合った文字に変化していく訳です。そのなかで鉄道の文字として「すみ丸ゴシック」が、生きながらえているのは稀有なことです。
紙媒体やパソコンで使われている文字が、そのまま鉄道の文字に反映されることは、汎用性を考えると当然です。しかし高速移動中の車内からでも識別しやすく、鉄道事業者らしさを備え、愛され続ける書体。今後、いわゆるすみ丸ゴシック第2弾のような「鉄道のために生まれた文字」が新しくできれば良いなと思います。
【次ページ】読みやすい文字と、地域のカラー
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