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東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に向けて沸騰する国内の「ロボット開発競争」。2014年ごろから始まった「第三次ロボットブーム」では、この期間に800機種を超えるロボット製品が発表されてきた。しかし残念ながら量産にもたどり着かず、プロジェクトを終えることも少なくない。本稿では、主要20ジャンルでその量産化について徹底分析した。
生存確定への最大の関門は「量産化」
前回の連載記事では、「生存ロボット」の条件が3つあることを解説した。
1. 同一のロボットであること
2. 同一の運用内容であること
3. 複数拠点・複数オーナー
この条件のうち「3.複数拠点・複数オーナー」をクリアしたかどうかを考察するにあたって、「量産化に漕ぎつけたかどうか」が判断基準になると言える。この場合の量産とは「2台以上」と定義している。
言い換えれば、「量産化されていない≒生存失敗(PoC死)」となる。当然ながら量産化すれば、生存確定ではないということではない。そこから、さらに販売の成功という大きな関門も待っている。
日本のロボット業界の量産化率は約63.7%
筆者が所属するアスラテックでは、全世界をターゲットに、サービスロボットの開発動向に関する調査を2014年から行っている。その中で、日本の企業・団体が発表したロボット製品は、将来のものも合わせると848機種ある。この848機種を基に分析を行ったところ、日本の全ロボット製品の量産化率は「63.7%」だった。
63.7%の算出方法は、以下の通りだ。
・量産率 = 量産機種数 ÷ (全発表数 - 将来に量産予定日がある機種)
分類 |
全発表数 |
将来量産予定機種数 |
現在までの量産機種数 |
量産率 |
ホビー |
94 |
4 |
87 |
96.7% |
介護・福祉 |
94 |
21 |
56 |
76.7% |
見守り・コミュニケーション |
77 |
14 |
43 |
68.3% |
検査・メンテナンス |
64 |
14 |
21 |
42.0% |
アミューズメント |
57 |
4 |
2 |
3.8% |
教育 |
48 |
8 |
38 |
95.0% |
家事支援 |
44 |
5 |
37 |
94.9% |
荷物搬送 |
38 |
7 |
18 |
58.1% |
重作業支援 |
35 |
9 |
14 |
53.8% |
受付・案内 |
34 |
4 |
12 |
40.0% |
食品産業 |
25 |
7 |
17 |
94.4% |
清掃 |
24 |
4 |
14 |
70.0% |
レスキュー |
24 |
10 |
2 |
14.3% |
探査 |
23 |
6 |
6 |
35.3% |
医療 |
16 |
3 |
12 |
92.3% |
警備 |
64 |
14 |
21 |
42.0% |
移動支援(個人用) |
14 |
6 |
5 |
62.5% |
物流 |
12 |
1 |
7 |
63.6% |
移動支援(業務用) |
8 |
4 |
2 |
50.0% |
健康管理 |
7 |
2 |
3 |
60.0% |
計 |
848 |
164 |
436 |
63.7% |
(注意書き)
※この記事において登場する製品に関しては、筆者が所属するアスラテックの「サービスロボットの開発動向に関する調査~全世界版~」に掲載されている製品を基にしている。またここで示されるデータは、各社が発表している情報をもとにアスラテックが独自に集計している。
※当該期間に発表されたプレスリリースや報道において、国内で開発されたロボットとして取り上げられた製品のうち、工場などで使われる産業ロボット以外のものを「サービスロボット」としている。それらのサービスロボットについて追跡調査を行い、製作が完了した時期(商品の場合は発売時期)とジャンルをまとめた。
プレスリリースなどで発表されていても、開発途中のロボットは含めていない。なお、サービスロボットのジャンル区分は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2010年に発表した「2035年に向けたロボット産業の将来市場予測」におけるサービス分野のロボット分類に準じ、そのいずれにも該当しないロボットについては「その他」に分類している。
1位:ホビー 量産率96.7%
全発表数が94機種に対して、量産件数が87件。将来の量産予定を考慮すると、96.7%ともっとも高くなった。このジャンルの特徴は、参入企業がタカラトミー系、バンダイ系という大手玩具メーカーの参入があることだ。その中でも、タカラトミーは、20機種のロボット製品を市場投入している。タカラトミーの代表的ロボットとしては「Robi jr.」「OHaNAS」「Hello!Zoomer」シリーズなどがある。
この分野のビジネスモデルはすでに固まっていると言える。この後に続く別ジャンルにおいてはコンセプトモデルが多くなってくるが、市場に反応を確認する企業も少ない。同分野では、ほかにも分冊百科方式で提供される組み立てロボット「ロビ」シリーズで有名なデアゴスティーニ、コミュニケーションロボット「ATOM」を提供する講談社などの出版社の存在も目立つ。
2位:教育 量産率95.0%
48機種の発表があり、38機種が量産しているのが教育ジャンルだ。そのうち、現時点では将来の予定として発表されたのが8機種ある。このジャンルには、パナソニックやソニーなどの大手からベンチャーまで幅広い企業が参入している。
カシオ計算機の「Lesson Pod」のような英語を学習できるものから、ソニーの「KOOV」やヴイストンの「ピッコロボIoT」のようなプログラミング教育のためのロボットなどがある。
今後、小学校でプログラミング教育が必修化される流れを受け、ロボット教育が注目されている。教育事業を展開しているヒューマンアカデミーの「ロボット教室」は、在籍生徒数が2万人を超えたという(2018年5月時点)。同社の教材用ロボットは市販製品ではないが、この分野でもっとも台数が出ているロボットかもしれない。
3位 家事支援 量産率94.9%
家事支援の発表製品数は44機種ある。そのうち量産件数37件と、高い量産率を誇っている。しかし、この数字には「ルンバ」に代表されるロボット掃除機が含まれていて、ロボット掃除機以外を見ると量産に至っていない機種が多い。家事を代行するロボットは難易度が高いと言える。
掃除機以外では、全自動衣類折りたたみ機「ランドロイド」が有名だ。ただ残念ながら、発売のリリースが出たものに、出荷に至っていない。現時点では、2018年度内の出荷を目指すという。
コンセプトモデルもいくつか発表されている。レシピ共有サイトのクックパッドが発表した「OiCy Taste」は、レシピと連動して調味料を自動的に計量してくれるものだ。調理の全自動化はまだまだ難しいが、まずはその支援から始まっていくだろう。こうした、家事の一部支援を行うロボットについては、OiCy以外にも今後増えていくことを期待したい。
4位 食品産業 量産率94.4%
すでに17製品が量産化されている食品産業分野。量産率は94.4%と高いが、製品数は少ない。まだ、プレイヤーも市場も大きくなっていないといえる。もっと言えば、量産化された製品も「シャリロボット」や、種を抜いたり、皮をむいたりするロボットが大半だ。ロボットと銘打っているものの、従来の機械との線引きが難しいのは否めない。
それ以外では、注目機種が2つある。1つは、パナソニックの「OniRobot」。手握りの食感を再現したロボットだ。パナソニックでは新しい製品プロジェクトとして飲食事業での展開を目指している。
もう一つは、コネクテッドロボティクスのたこ焼きロボット「OctoChef」だ。同社は、“調理をロボットで革新する”をコンセプトに、調理サービスロボットを開発を行っている。OctoChefはすでに実用済みで、ハウステンボスで採用されている。
こうした食品産業向けのロボットは、人手不足という課題に対して省人化や無人化を目指したものになっている。また、コスト削減だけに終わらず、新しいビジネスモデルを構築しようとしている野心的な動向も多いのが特徴だ。
5位 医療 量産率92.3%
量産化されたロボットは12機種と多くないが、量産率では上位になった医療分野。発表されたロボットは16機種にとどまり、まだ参入数が非常に少ない分野だ。手術支援や服薬支援、リハビリ用などの用途に用いられる。
そもそも、この分野は非常にハードルが高い。医療行為に関わることから各種認定や法規制などの基準を満たす必要がある。
【次ページ】量産化率6~20位の動向、今後に向けた総括
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