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- 2018/08/24 掲載
アリババ幹部が語る、eコマースの「死」と「再生」(2/2)
よりすばらしい体験を消費者に
ルー氏が次に示した事例は、2017年12月5日に上海にできたスターバックスコーヒーの旗艦店(エクスペリエンスストア)である「スターバックス リザーブ ロースタリー上海」だ。スターバックス リザーブ ロースタリーは、スターバックスの本拠地・シアトルに次いで上海が2店目となる新形態の店舗だ。これまでのコーヒーを買う、味や香り、空間を楽しむというスターバックスの体験をより強化することが狙いだ。敷地面積の広い店内に大型の焙煎機が導入され、焙煎・抽出されるまでを自分の体験として感じることができる。
ルー氏は「ドアに入った瞬間、コーヒーを飲むという行為だけではなく、その背後にあるコーヒーの文化を理解すること。それは、コーヒーという文化の背景にある創造性を理解できるという探検と冒険、魅惑的な旅なのだ」と語る。テクノロジーとこれまで培ったデータがあるからこそ、そうした体験をサポートできる。
店内に入ると、ARによるバーチャル体験できるようになっている(専用アプリのインストールが必要)。店内に設置されたポイントで、各セクションの働きとコーヒーができるまでのプロセスがARで体験できる。アリババはこの消費者の旅の一部、つまり店の消費者体験の一部を強化するテクノロジーの部分で大きな役割を担っている。
ルー氏は「重要なのは、コアをどう設計するかだ」と指摘する。消費者はただ商品を買うのではなく、創造的な経験や独自のパーソナライズされた経験を購入するのだ。スタバの消費者体験をどうデザインするか、コーヒーの文化と背後のストーリーをどう展開するか、店に訪れた人をどうトラッキングするかを考慮すると「非常に優れたデザイン」が必要になる。
次に挙げた例は、その点を端的に表している。
アリババとオレオが2017年にコラボして、オレオのギフトセットのデザインをカスタマイズできるというブランディング企画を行った。各ブランドでは、消費者にTmall上で色やフレーバーなどギフトセットをパーソナライズする機会を提供した。
このキャンペーン商品が1日で2万個売れたという。もちろんオレオという商品そのものが非常に人気があったのだが、価格は高くてもクリエイティビティを発揮できるという点が多くの人にリーチできたのだ。結果、ユニークなパッケージのギフトセットはTaobao上で元値の10倍、20倍という高値で取り引きされている。
もはや消費者が買っているのは、ビスケットでもギフトセットでもなく、ユニークな体験なのだ。ユニークで、パーソナライズされた創造性のデザインこそが求められているといえる。
もう一つ、ルー氏が挙げたのはアリババが出資する「盒馬」(フーマー)が展開するリアル店舗「盒馬鮮生」だ。生鮮食品を扱うスーパーマーケットだが、オンラインや配送機能を備えている。
また、店内での精算もアプリ決済が基本となり、3キロメートル以内であればオンラインで注文して配送が可能。さらにその場で調理してもらい、食べることもできる。日本の観光地にある「海鮮市場+レストラン」のイメージだ。
アリババは、この取り組みを新しいリテールについての実験の一つと位置づける。盒馬鮮生は、消費者が実際に足を運ぶ小売りのスペースであり、物流サービスの拠点であり、ダイニングスペースでもあるのだ。
盒馬鮮生は大きな現象を中国で生んだ。盒馬鮮生が実現したのは、オンラインとオフラインの融合だ。新しいリテールの実験であると同時に、地域コミュニティの再編、再開発にもつながっている。
中国には「学区」という概念があるが、盒馬鮮生の3キロ以内のコミュニティが形成されつつあるという。もちろん学区に応じて物価の階層化が顕著にあり、盒馬鮮生の3キロ以内の地域というのは生活水準が高い。そこに人が集まるということは、ただ必要な食料を買うだけではない体験を盒馬鮮生という場に求めているといえる。
店舗運営という面を考えても、足を運んで商品を購入する場合もオンライン決済で購買データがデジタル化されるということは大きい。どんな商品をそろえれば来店者の期待に応えられるか、小売の現場で最大の難所がここだ。売り場担当者が悩まなくとも、データが教えてくれる。そのデータを活用して、商品のポートフォリオを組んでいけばいい。
さらに3キロ以内であれば配送というフラグを使って、近隣3キロの範囲でのパーソナライズを可能とする。つまり、その地域に住んでいる人たちの「データ」を元に、より嗜好にあった商品を準備できる。近隣の好みに合わせていくことが自然と可能になっているのだ。
スーパーマーケットが物流センターも兼ねることで、店舗としての在庫がゼロであることも小売業として大きなポイントだ。 盒馬鮮生は現在40店舗以上に展開されている。しかし、アリババの目標は中国において小売業者第一位となることではない。ルー氏は「アリババはこの実験の知見を活用して小売業全体の能力を上げていく。目指すのは小売業の変革だ」という。
どのようにデータとテクノロジーを通じて新しい小売業が機能するのか。また小売業全体を刺激して中国を変革することにこそ、狙いがある。
ユニマーケティングが可能にすること
アリババでは「Uni Marketing」(ユニマーケティング)を進めている。データやテクノロジーを使って新しいリテールの時代が来たとしても、ブランドと消費者の架け橋という点では市場が果たす役割に変わりはない。結婚を取り持つように両者の間をつないで、ブランドと消費者の関係性を構築する。これは消費者体験、消費者のジャニーが変わったとしても変えてはならない鉄則だ。重要なのは「相手にどうコミットするか」という点だ。それには消費者、そしてクライアントを知ること、興味を持つことが求められる。相手が何を求めているのか、どういう提案をされたらうれしいのかが分からないと間をつなぐことはできない。
では、具体的にどうするのか。ユニマーケティングでは、アリババが展開するプラットフォーム上のデータを活用して、ブランディングのための施策を展開する。データによってブランドとその消費者の関係性を可視化することで、次の行動が可能になるのだ。
さらに、ユニマーケティングではブランド構築のプロセスが測定可能になる。ルー氏はこのブランド構築の測定可能性について話すのは非常に興味深く、自分だけではなく多くの人が興味のある部分だろうと語る。
「ROI(Return on Investment:投資利益率)」をどう評価するかということはなかなか難しい問題だ。消費者に対して価値を作り出すことが目的となるが、通常、CMや広告キャンペーンといったようにチャネルごとに非常に細分化され、総合的な測定が難しい。
そもそもなぜ細分化されているのか?
それらすべてが消費者価値を創造することにあり、ブランドと消費者の関係を強化することであるのに、なぜそれらが分断されて評価されなければならないのか、どうしてもっと一貫性のあるものを作ることができないのだろうか。
ユニマーケティングでは、アリババのサービスの利用動向や出稿された広告への反応などを分析し、利用者動向を視覚的に表示できる。また、実店舗のマーケティングデータとの連動も可能だ。最終的な目的は、宣伝や口コミを効果的な施策の展開を可能とする点にある。
ユニマーケティングの強みは、中国国内の5億人以上の実購買データやオンライン、オフラインでの行動をビッグデータとして持っている点にある。アジア最大のマーケットとしての中国は、日本に限らず、さまざまなビジネスの大きな拠点となる。そのとき、ユニマーケティングは大きなサポートツールになるのだ。
アリババがデータとテクノロジーを駆使し、オンライン、オフラインをまたぐ新しいリテールの挑戦を始めて2年が経つ。今現在、非常に速いスピードで中国全体の小売業界の多様化が進んでいる。アリババがその先に見ているのは東南アジアの市場だ。ルー氏は「新たなインフラのもと飛躍的な変化が起こるだろう」との見通しを立てている。
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