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  • 2017/02/17 掲載

デジタルトランスフォーメーション(DX)推進、理想は「サッカー」の組織体制だ

IDC Japanが解説

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デジタルトランスフォーメーション(DX)が全社的ミッションとして認識される中で、企業は人材育成や組織づくりにどう取り組んでいけばよいのだろうか? いまIT人材の育成、およびDX推進のための組織づくりの再定義が進んでいるが、実現させる上での課題も多い。IDC Japanの寄藤幸治 氏が、DX推進のためにCEOやCIO、ITベンダーが2017年から取り組むべきことを解説した。
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DXによる変革を実現するための人材・組織づくりとは
(© fotofabrika – Fotolia)


DX実現へ、理想の組織づくりはサッカーに学べ

 デジタル化の波は企業に何をもたらすのか? まず重要なポイントが、DXは企業の活動すべてを変えるということだ。

 IDCでは、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、クラウド、ソーシャルといった第3のプラットフォームとなり得る技術をうまく活用することで、企業に新しい製品やサービス、新しいビジネスモデル、顧客やビジネスパートナーとの新しい関係を通じて新たな付加価値をもたらされることを予測している。

 DXの実現が新たな価値を創出し、競争上の優位性を確立することにつながる。では、そのDXを支える組織と人材をどのように育てるべきか。

 IDC Japanの寄藤幸治 氏は、1970年代にサッカーにおいてトータルフットボールという考え方が登場し、それが現代のサッカーでは当たり前の考えになっているという例を挙げた。

 トータルフットボールの考え方とは、選手のポジションが流動的に変化し、全員が攻撃であり守備であるというものだが、寄藤氏はDXを実現する組織はまさに「トータルフットボールであるべき」という。

 つまり、同じ企業の人たちが、ITにもビジネスにも価値を置いて同じように探究していかないと、企業全体としてDXを推進していくということができないということだ。

 トータルな人材を活かせる組織がないと、企業の変革というものに結びついていかない。サッカーにおいてもトータルフットボールが登場した1970年代当時は非常に大きなイノベーションであったが、いまでは当たり前のことになっているのである。

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IDC Japan
ITサービス/コミュニケーションズ/IPDS グループディレクター
寄藤幸治 氏

 さまざまな技術に基づくデジタル化は、個々にDXのプロジェクトを派生する。当然そこには、さまざまな部門が関わってくる。

 そのときまず考えなければならないのは、複数のプロジェクトが個々にバラバラに動くのではなく、連続性を持って、それぞれが連携すること重要だということだ。

 企業全体として競争力の強化、企業の変革に結びつけるような視点を持って組織と人材を整理していく必要がある。とはいえ、それはあくまでも理想であって、現実は追いついていない。

企業のDX推進を阻害するいくつかの問題

 では企業のDX推進において、またIT部門と事業部門の関係において、現実には何が起きているのだろうか。

 まず存在するのが「シャドーIT予算」の問題だ。由来となった言葉「シャドーIT」とは、もともと企業が運用ポリシーのもと認めたリソース以外のもの、つまり管理下にないIT機器やサービスを勝手に利用することを指して使われ出したものだ。

 現在はこれが転じて、IT部門以外、いわゆる事業部門が独自に予算化したものを「シャドーIT予算」と称するようになっている。

 事業部門が部門の中で「シャドーIT予算」を持つということは、本来は企業としてIT部門が管轄下に置くべきなのにも関わらず、IT部門が把握しないIT化を加速させることになる。

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IDCの国内CIO調査(2016年)結果。これは正社員数100人以上の企業/団体の情報システム予算/意思決定者対象にしたアンケートだ
(出典:IDC)


 左側のグラフでは、「シャドーIT予算」はまったくないと考えているCIOの割合は全体のうち15.4%で、それ以外の企業は「シャドーIT予算」があると考えている。

 さらに見通しとして増える傾向にあると考えている(右側のグラフ)。このことから、少なくともIT予算の面からいうといま企業はDXの名のもとにIT部門と事業部門の距離が開いていると考えられる。

 さらに、人材の問題だ。ITがうまく活用できていない企業にとって非常に大きな問題としてとらえられているのは、ITと業務/ビジネスを結ぶ人材が不足していることだ。

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国内企業の「IT経営」に関する調査(2014年11月、JEITA/IDC Japan)
(出典:IDC)


 寄藤氏は「これは量的な面だけではなく質的な面でもいえることで、ITとビジネスの両方を見て、どういった変革を起こしていけばいいかを考える、こういった人材がいま企業に不足しているのではないか」と指摘する。

 さらに、具体的なCIO/ITリーダーの声を紹介すると、次のとおりだ。

・経営層は、業務プロセス改革や、イノベーションをIT部門に期待している(製造業)
・デジタル「ビジネス」の推進は新規部門が行うべき。ただしガバナンスに懸念(卸売業)
・社会的にも著名な某システムは事業部門が構築したが、IT部門は全く関与していない(サービス業)
・IT要員が特定分野の開発/運用に特化しており、自社事業への理解が乏しい(製造業)
・事業部門が構築したシステムの運用を、IT部門に「丸投げ」されたことがあった(小売業)

 実際、DXを推進しようとするとき、既存のIT部門とは別のイノベーティブな(第二のIT部門的な)部署を設置する企業が多い。

 たしかに、DXの推進を考えたときには、既存のIT部門ではなく事業部門、あるいはそれとも別の独立した組織を設置するというのは的を射た考え方だ。

 しかし、これではガバナンスの懸念が発生する。既存のシステムと共存させればいいのか、さらにさまざまな部門がやり始めたらどう連携を取ればいいのか?

 IT部門の業務知識が少ない従業員、あるいは事業部門やITリテラシーのあまり高くない経営者は、セキュリティやガバナンスに対する意識が低い。

 IT部門がガバナンスの話をすると、非IT部門からはいいわけのように聞こえてしまう。理想は理想だが、現実という点では非常に厳しいところにあるというのが、いまの組織の状況だ。

大手金融機関の組織的なDXへの取り組み

 冒頭で述べた通り、理想の組織体制は、企業全体でITやDXを支える幅広い従業員層のプール(ITへの理解を持つ事業部門、業務知識を持つIT部門)があることを前提に、IT部門と事業部門が協業・共創できる体制、組織同士の関係を作っていくことが必要だ。それには、やはりITを知っている経営者層が強いリーダーシップを発揮することが重要である。

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DXを支える人材/組織の理念形
(出典:IDC)


 組織的な取り組みの例として寄藤氏が挙げるのが、大手金融機関の事例だ。

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CEOの下にCIOを置き、IT部門では基幹系のシステム開発・運用を担当するチームと、それぞれ社内の業務に対応した専門チームがある
(出典:IDC)


 この場合、基幹システムに関わるIT部門以外に、たとえばA事業部という部門の業務を理解した開発運用チームが必ずいるということ。一緒になってシステムを開発し、運用を回しているということになる。

 また、CIOの下にDXをミッションとした業務改革部門として、モバイルやフィンテックといった新しいテクノロジーを活用する、お客との関係性を変えて利益をあげていく、社内の働き方を大胆に変えていく、といったイノベーションを考える部署が存在している。

 この業務改革部門の8割が非IT部門の人だという。もともと業務を回していた社員が自分たちのビジネスのやり方をどういうふうに変えたら今よりもっとよくなるだろう、イノベーションを起こせるだろう、ということを考える。

 そういう人たちがCIOのもと、ITの知識をフル活用しビジネスのやり方を大きく変革しようとしている。これは、IT部門と事業部門の乖離を組織的に解消しようとする1つの例だ。

【次ページ】ある大手流通業は個々に必要なITリテラシーを明示
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