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- 2017/02/07 掲載
失敗しないプロジェクトマネージャーは「管理」より「編集」スキルを持っている
プロジェクト・エディティング(PE)の手法を解説
社会の「プロジェクト化」はますます進んでいく
現代を生きる多くのビジネスパーソンの皆さんは、ほとんどの場合、何らかの「プロジェクト」に参画しているのではないでしょうか。実際に私も、これまでさまざまなプロジェクトに関わってきました。プロジェクトマネージャー(PM)としてのキャリアをスタートさせたのは、2006年に某自動車メーカーの販売店支援およびCSR(企業の社会的責任)事業に参画したときでした。
以来、全国初の自治体防災マップアプリ『杉並区防災マップ』を企画開発し、杉並区に納入したり、同年に育児情報共有サービス『コドモノガタリ』事業を立ち上げたりしています。
そして現在、私はデジタル広告会社「Hurray3(フレイ・スリー)」の社員として、2014年にリリースした動画制作サービス「1Roll(ワンロール)』のPMを担当しています。具体的には、1Rollの啓蒙と営業・販促活動、それを実現するための企画運営に至るまで、プロダクトの売り上げを向上させるためのあらゆる仕事を行なっています。
なぜそのプロジェクトはうまくいかないのか?
これまで私が携わってきたプロジェクトを振り返ってみると、決して成功ばかりではありませんでした。皆さんも経験があるかもしれませんが、なぜ、多くのプロジェクトはうまくいかないのでしょうか。要因のひとつに挙げられるのが「プロジェクトを進めようとする際、メンバーが『プロジェクトは単線的に進むはずである』と考えてしまうから」です。
単線的に進むというのは、プロジェクトの計画段階で、最も効率的に、最短距離でゴールにたどり着くということです。一見すると素晴らしいプランなのですが、これは悪く言えば、自分たちに都合のいい解釈と計画です。
プロジェクトは、立てた計画通りに進むとは限りません。予想していなかった事象や発見、市場の商習慣、競合の対抗、人々の価値観、自社内の環境、人員の心的部署的変化などによっては、当初計画していなかった施策の立案や進め方を求められるのです。
もうひとつの要因は「プロジェクトで起こる出来事の多くは、メンバーとって未知、あるいはブラックボックスだから」です。
プロジェクトを進めるということは、いわば未知の状況を「既知」に変えていく行為といえます。そして、これを実現するためには、プロジェクトを進めていく中でつねに以下のようなPDCAを高速・高頻度に回し続なければなりません。
・正しくできるだけ早くラクに記録する
・現場サイドで頻度高く振り返る
・戦略サイドに報告し、施策に再反映していく
もし現場で遭遇した事象や発見した情報、状況や体験を、適切かつ早く記録し、振り返らないとどうなるでしょうか。戦略へのフィードバックが遅くなり、状況の変化も伴い、プロジェクトの成功率が下がってしまいます。
反対に、この現場の記録と振り返りが早くなれば、フィードバックのスピードと頻度が上がります。スピードと頻度の向上はプロジェクトの適切な見直し、調整を可能とするため、小さな失敗で済んだり、あるいは次の施策を早く打てたりします。結果としてプロジェクトの成功率が上がるのです。
プロジェクト・エディティング(PE)とは何か?
だからこそ、私は、プロジェクトを成功させる確率を高めるために、「プロジェクト・エディティング(PE)」という考え方が重要だと感じています。このPEとは「プロジェクトに関する記録した情報を素材、機会として捉え、編集することで施策を創出していく方法」です。
そして、そこからプロジェクト進行に有効なコンテンツを生み出したり、アライアンスを展開したりします。
さらに、なるべく現場で大本営の方針から大きくそれていない範囲内で振り返り、新たな施策を打つというPDCAのサイクルを早く回していきます。
このようにプロジェクトを進める上で遭遇する事象、発見した情報などを見落とさず、適切に記録し、素材として、さらには機会として編集的にプロジェクトを進めていけるのがPEのスキルと言えます。
これは事業をピボットしたり、ビジネスモデルを変えたりといったドラスティックな話だけありません。小さなことで言えば、売り方のフレーズを変えてみるということかもしれませんし、売り先のニーズや商習慣に合う言い方に変えてみることも、PEのスキルだと思います。
プロジェクト・エディティングとは、「プロジェクト・マネジメント」の手法と何が違うのでしょうか。イメージとしては、PEのほうがより弾力性や柔軟性があるものと捉えてください。
プロジェクト・マネジメントの手法はマネジメント(管理)ですので、プロジェクトを完遂するための予算を決め、タスクリストやガントチャートを作って進捗を確認しながら進めていきます。たとえば基幹システムの開発のような、厳格に要件定義がなされ、成果物のゴールが明確化されたものには、この手法は大いに有効でしょう。
しかし、新規事業の立ち上げやリリースして間もないプロダクトの販促などではどうでしょうか。「売上目標何数千万」といったゴールを達成するためには無数に選択肢があるはずで、そこには弾力性や柔軟性が求められます。PEの手法は、このようなプロジェクトにおいて役立つ手法と考えてください。
プロジェクトを成功させる「PE」の具体的なプロセス
PEの手法を用いてプロジェクトを推進するプロジェクトエディターは、主に以下のような業務を遂行する役割を担います。(2)記録をもとにした振り返り
(3)振り返りから新たな施策や方針の立案、提言
(1)で記録するものは、「施策と結果の組み合わせ」です。どのような施策を打ち、それがどのような結果や反応が得られたかという記録をしましょう。
また、ここでポイントとなるのは、施策実行(見込客やパートナーなどとの会話などで質問されたり、ポロッと話されたりした、“なんか気になること”、“深く考えられないけれど、ひっかかる”ような情報や違和感のようなものも記録しておくことです。
そうした情報にもPEの素材として価値のあるものが埋まっていると考えています。
これらが、振り返りをするためのインプットとして非常に重要です。ビジネスパーソンによって議事録のとり方はさまざまですので、記録の仕方については、個々のやり方でよいと思っています。
(2)と(3)で重要なのは、施策と結果の記録から、どのように振り返り、何を得るかということです。ポイントは、施策と結果をもとに「固有(値)」あるいは「特殊(値)」な結果をいかにして普遍値に変換するかです。
自社プロダクト「1Roll」の販促プロジェクト事例
具体例として、私がPEの手法を使って進めている1Rollの販促プロジェクトの例を紹介します。その前に、1Rollについて簡単に紹介しておきます。このサービスは、制作したい動画広告の用途や業種にあわせて最初に用意されているテンプレートを選ぶだけで、手軽に動画が撮影・編集できるというものです。
1Rollのユーザー(顧客)の中に、プレスリリースの配信会社さんがいます。実は同社は、通常の顧客というだけではなく、1Rollを代わりに売っていただくパートナーでもあります。
同社はプレスリリースの配信サービスを提供しているので、私たちが1Rollを売り込んだ際、同社に「プレスリリース内に動画を埋め込めばリリースがより売れますよ」と伝えたのです。
さらに私たちは、同社が配信するすべてのリリースには必要ないものの、一部のリリースには動画があったほうが効果的であると考え、当初一種類しかなかった定額制の撮り放題プランではなく、1本単位で動画が作成できるチケット制のプランを新しく作って提案。見事成約となりました。
この施策と結果を振り返ったところ、以下のような「固有値」と「普遍値」が導き出せます。
プレスリリース配信会社にチケットプランで提案したら成約した
●今後のアクション
(固有値):同業のプレスリリース配信会社に営業する
(普遍値):動画がなくてもいいけど、「あるとより魅力的になる商材」を扱っている会社に営業する
導き出した固有値は、同じように同業のプレスリリース配信会社に対して営業のアプローチをかけるというアクションです。一方で普遍値は、そこからさらに抽象化して、「動画がなくでもいいけど、あればより喜んでくれる商材」を持っているのはどこかを導くヒントになります。
プレスリリース会社以外にも、売り先がたくさんあるということが分かってきます。これは、施策と結果の記録をもとに振り返りを行うことで見えてくるのです。(この行為は「脱学習」とも言います)。
【次ページ】プロジェクト・エディティング(PE)の手法と心構え9か条
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