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テーブル席を多く設け、豊富なメニューをラインアップしたことで、幅広い年齢層、特にファミリー客の心をつかんだ牛丼チェーン店のすき家。2000年代より海外にも進出し、今や中国、タイ、マレーシア、メキシコ、台湾、インドネシア、そしてブラジルに広がる。中でも成功を収めているのがブラジルで、2010年にサンパウロで1号店が開店したのを皮切りに、2016年には13店舗まで拡大している。「日本の肉は薄すぎて食べた気がしない」と言われていた日本型牛丼店がなぜブラジルで成功できたのか。現地での取材を通して、その謎を解き明かした。
ブラジルに住む約100万人の日系人を狙い撃ち
日本人の多くがブラジルに持つイメージは「治安が悪い」ではないだろうか。しかし、実際にブラジル・サンパウロに来てみると、ここは日本かと思うような場所がいくつもある。それもそのはず。ここサンパウロには約100万人もの日系人がいるからだ。日系企業も数多く進出しているため、駐在員も多い。
その中でも、リベルダーデ地区は赤い鳥居や提灯、数多くの日本食材屋、日本食レストランが点在していることで有名な場所だ。週末ともなると大判焼きや天ぷらといった日本風の屋台が並び、日系人は懐かしい味を求めに、それ以外のブラジル人は新しい味を求めに訪れ、歩くのも大変なほど混雑する。
ゼンショー傘下の牛丼チェーン「すき家」がブラジル第一号店に選んだ場所は、まさにこの日本人街(現在では中国、韓国も統合され東洋人街とも呼ばれている)、リベルダーデに近い場所だった。
移民が多いブラジルでは中国、韓国、日本、メキシコ、ポルトガルなど、多種多様な国や地域の料理が味わえるが、外食は高い。その中でも日本食は特に高い。
寿司や焼きそばは、すでにその地位を確立し、ブラジルでも人気の日本食だ。高級品の寿司はブラジル人の独特なアレンジが加わっていて驚かされることもあるが、焼きそばは安価でボリュームもあるため、庶民にも人気である。
その次に人気を得つつあるのがラーメン屋だが、こちらはいつも長蛇の列。日本食レストラン全般で言えるのは、並んでようやく席についても食べるまでの時間が長すぎるということだ。
その点、すき家はとにかく安くて速いのが特徴。席について10分も待てば料理がやってくる。高くて時間がかかる日本食文化の常識を覆したのである。
オリジナルメニューでブラジル人の胃袋をつかむ
日本のすき家でもメニューは豊富だが、ブラジルのすき家も負けていない。牛丼メニューは約8種類におよび、シンプルな牛丼に加えて、トマトやチーズを使った洋風なものもある。
その中でもコリコリした食感がいいとブラジル人に浸透しつつあるのが、しめじを使った牛丼「Shimeji na manteiga(しめじバター牛丼)」だ。ピリ辛にバターで炒めたしめじと牛肉の相性が実に良く合う。
その他にも人気の鶏肉を使った丼ものやカレー、定食やKIDSメニューもある。サイズがP/M/G/GG(S/M/L/LL)と選べて、トッピングや単品メニューもある。ブラジルは生卵を食べる文化ではないがontamaとして提供してくれるのもうれしいポイントだ。
ブラジル人はとにかく肉が好きだ。自宅にはシュハスケイラというBBQスペースを備えている人が多い。そこで豪快に塊肉を焼き、仲間と語り合うのが週末スタイルである。
外国人が日本に来て、しゃぶしゃぶやすき焼きを堪能すると「肉が薄い」と感じるという。すき家の牛丼の肉も薄いが、それでもブラジル人に受け入れられつつあるのはサイドメニューの存在だ。
肉も好きだが揚げ物も好きなブラジル人。サイドメニューにポテトフライや唐揚げを選ぶことができるのだ。その量がまた多いので驚かされるのだが、ガッツリ食べたいブラジル人もこの量なら満足できる。単品メニューとしても唐揚げとポテトフライ、牛皿、照り焼き鳥を用意し、サイズも選べる。弱点もしっかりローカルの心をつかむ形でカバーしているのである。
【次ページ】「すき家のラーメン」はなぜ他社の半額なのか?その影の立役者とは…
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