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- 2016/07/11 掲載
日本企業の「先送り」体質、そのルーツは旧・日本軍にあった(2/2)
それでもなお、組織温存を図ろうとし、「本土決戦」を強行しようとした無責任な軍の在り方と、それをかろうじて止めた昭和天皇の決断の意味を探っていくと、米英軍がいかに柔軟な発想で組織的に対抗してきたかが浮き彫りになってくる。
同時にこの、日本軍は近代化以降、日清、日露と続く戦争に勝利した成功体験の中から日本人が創り上げて来た日本最大の組織体であり、その底流には日本人の思考パターンそのものがあることも見えてくる。
その結果として、陸海軍の間には対話がなかったこと、適材適所の人事を行う機動性の無さと、無責任体制。そして閉鎖的な共同体組織であったことで、内部闘争が常在し、実戦知(リアリズムとそれを導く情報)に乏しく、高級参謀たちは「べき論」を基礎とした机上の空論に終始し、現状分析能力が欠如しており、変化に対応できなかったことなどの問題点を挙げることができる。
「旧・日本軍」を今も引きずる現在の日本的組織
このことは統制経済下での日本企業の在り方を固め、戦後においては会社本位主義として企業組織の中に生き残っている。先の戦争以降、ゼロから立ち上がった日本企業は、護送船団方式と言われる手厚い政府の保護の下でひたすら輸出で日本経済を支えてきた。戦後の経済を立て直し、経済大国と言われるまでは目標をアメリカを始め、先進国を徹底的にまねることで高度経済成長を成し遂げ、石油危機を乗り切ることができた。
だが、その構造が日米経済摩擦を経てやがてバブル崩壊をもたらし、その矛盾が露呈した。日米経済摩擦から始まる外国との本格的な競争時代に入ると、これまでの方式が通用しなくなっていた。これに拍車をかけたのが、冷戦構造の崩壊である。国際政治上の多極化現象と連動して経済面での多極化が始まったのである。
先の大戦の歴史から、戦略や情報、現場を生かす組織論、責任論やリーダーシップなどの視点から日本人の常識として組織の中に存在していた事柄を吟味していくと、日本人の持つ文化の中に硬直した世界観と組織観があったことに行き着く。
いずれも日本人の歴史だから当然のことだが、先の大戦の敗戦は前半の快進撃から後半の苦戦と閉塞感、迷走までが驚くほど現代の日本企業、日本人組織の課題と似ている。この硬直化した考え方の組織運営であれば、「想定外」の事態にはほぼ対処不能となる。
現在日本は、少子高齢化社会という人類史上類を見なかった未知の世界に入ろうとしている。当然のことながら若者が少なくなることで労働力が不足し、生産力が下がる。消費意欲の乏しい老人の増加で国内消費が減少し、国内市場そのものが縮小していく。日本が経済大国であった時代が終焉し、出口の見えない長期不況の中で、これまでのやり方が通用せず、日本は今、想定外の危機的な状況に陥っている。
太平洋戦争での日本軍は初期の快進撃から一転守勢に立たされたのは、これまでの戦闘の方法が通用しなくなったからだ...という現実認識ができず、それまでのやり方からすれば「想定外」の状況の連続に大混乱を起こし、突破口を見つけることができず敗戦を迎えた。
この事例も日本軍が「想定外」の新しい状況に対応できず敗れ去った日本型組織の失敗例と言えるだろう。このように、現代起きているさまざまな事象は元を辿れば、太平洋戦争で露呈していた日本型組織の欠陥が未だ"亡霊"のように生き残っていると言わざるを得ないのである。
1947年高知県安芸郡生まれ。1971年明治大学政治経済学部政治学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了。政治学修士。国士舘大学政経学部政治学科講師。ジャーナリストとしてアメリカ、アフガニスタン、パキスタン、エジプト、カンボジア、ラオス、北方領土などの紛争地帯を取材。TV、新聞、雑誌のコメンテイター、各種企業、省庁などで講演。著書に『戦争民営化』(祥伝社)、『国際テロファイル』(かや書房)、『「極東危機」の最前線』(廣済堂出版)、『軍事同盟・日米安保条約』(クレスト社)、『熱風アジア戦機の最前線』(司書房)、『「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質』『日本人だけが知らない「終戦」の真実』(SB新書)など多数。
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