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  • 2016/05/25 掲載

モバイルアプリ開発ツールの選定方法、JAめむろが人間関係を改善させたアプリ開発とは

ガートナー 小野知道氏が解説

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ガートナーでは2014年、世界の顧客企業に対して「どんなカスタム・モバイル・アプリが自組織の成功にインパクトをもたらすか」を聞く調査を実施した。その結果によると、顧客エンゲージメントやリアルタイムデータの収集/追跡/分析、データへの動的なアクセスといった回答項目が約19%と高い比率を占めたが、これらのアプリに共通しているのは、いずれも既存のビジネスプロセスに何らの改善を加えることをテーマにしていることだ。ではビジネスプロセスを改善するためには、どのようなポイントを押さえたモバイル・アプリを開発すればいいのか。ここではこの点について考えてみたい。
ガートナー リサーチ部門 主席アナリスト 小野知道

ガートナー リサーチ部門 主席アナリスト 小野知道

ガートナー リサーチ部門 Web/モバイル・アプリケーション開発 主席アナリスト。ガートナー ジャパンにおいて、Webとモバイル・アプリケーション開発の国内の市場動向や開発手法について調査と分析を担当している。ガートナー ジャパン入社以前は、ERPコンサルティング、E-Commerce、モバイルCRM、モバイルSNS、携帯向けWeb、Javaアプリケーションの開発などに従事。2014年4月より現職。

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ビジネスプロセスを改善するためのモバイル・アプリ開発とは


JAめむろが人間関係を改善したコンバイン稼働システム連携

 ビジネスプロセスを改善するためのステップは、大きく2つある。短縮化ステップとスキップ・ステップだ。仮に1→2→3→4という業務フローがあった時、短縮化ステップとは3つめのプロセスを短くすることで、スキップ・ステップとは3つめのプロセスを丸々省くことだ。その短縮化やスキップを支援するのがモビリティである。モビリティは、既存のプロセスを改善することができる。たとえばモバイルメールの価値は、既存のビジネスプロセスをスピードアップするところにある。

 この他にも、最後のプロセスの後に、新しい“終わりのステップ”を追加する、あるいは最初のプロセスの前に、新しい“始まりのステップ”を追加することで、ビジネスプロセスを拡張することも可能だ。その際にもモビリティは有用である。

 ここで1つの例を紹介しよう。JAめむろがモビリティによってプロセスの改善を実現したコンバイン稼働システム連携のB2E(Business to Employee)事例である。

 北海道の十勝平野にある芽室(めむろ)町では、広大な小麦畑が秋になると一斉に収穫の時期を迎える。これを2週間で刈り取らなければならない。そこでコンバインの稼働率を最大限に引き上げることが必要になってくる。

 その際にJAめむろでは、刈り取り順位の決定→コンバインへの給油→実際の刈り取り作業というプロセスを採っている。そこでは、だれの畑を最初に刈り取るべきかの競争があり、人間関係があまりうまくいっていなかったという。

 そこで衛星画像によるリモートセンシング技術を使い、畑の状況を見える化するモバイル・アプリを開発。コンバインの中でも「今、どの畑が刈り取られるべきか」を客観的に判断できるようにした。これによって刈り取り順位の合意形成は非常にスムーズになり、作業効率もアップし、人間関係も改善された。

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コンバイン稼働システムと連携しているB2Eの事例:JAめむろ
(出典:ガートナー)


 またコンバインへの給油も、以前は刈り取りの合間にコンバインがガスステーションまで移動して給油を行う必要があったが、モバイル・アプリの導入で、どのコンバインの燃料が少なくなっているかを管理センターで把握できるようになり、給油が必要なコンバインのところまで給油車が出向くというプロセスに変更した。これによってコンバインの稼働率も大きく高めることができた。

 こうした取り組みの結果、JAめむろでは1台 数千万円もするコンバインを毎年2台削減することができている。コンバインの受け入れ施設も、7か所から1か所に減らすことができた。「コンバインによる畑の刈り取り」というビジネスプロセスを、モバイル・アプリによって大きく効率化した好例だ。

 このようにモバイル・アプリを開発する際には、どんなビジネスプロセスを、どう改善するのかを想定し、いつ、だれが、どんな場面で、どのようにアプリを使うのかを理解する必要がある。そこで役に立つのが、ユーザーIDやGPS情報、あるいはカレンダーや加速度計などモバイル・アプリに集まってくるさまざまなデータだ。これらデータを活用してユーザーのTPOを推測し、PDCAサイクルを回していくことでモバイル・アプリの改善を図っていくことも重要な取り組みだ。

アナリティクスで「使われる」モバイル・アプリへと進化させる

 モバイル・アプリは、ユーザーに使ってもらわなければ進化しない。そこで利用を促進するための工夫が求められることになる。

 たとえば、先に紹介したようなB2Eのモバイル・アプリは、いくつかの課題を抱えている。音楽アプリやゲームアプリと比べて、ユーザーが使いたいと思うモチベーションが低いことだ。そのためにキーボードだけでなく、音声やタッチでの入力も可能にするなど、簡単に使えるものにしなければならない。

 その際には、モバイル・アプリが目的志向で、機能が明確であること、異なる役割とユースケースをサポートすることが、アプリ成功の鍵を握ることになる。

 また開発者の多くは、アプリにさまざまな機能を盛り込みがちだ。しかしその結果、ユーザーに多くの選択肢を与えてしまうことになり、想定通りに利用されないといった状況や、集中活用の妨げを生むことになってしまう。システムサイドとしても、アプリを維持し続けるために監視やテストなどの負荷が増えることになる。

 つまりモバイル・アプリにとって、機能を足し続けることがいいことではなく、1つの機能をよりよいものにすることが、いいモバイル・アプリの条件だということになる。

 現在、エンタープライズモビリティは、依然として初期の段階にある。そのため、モバイル・アプリがどのように使われているかを正確に予想することは難しい。ただしモバイル・アプリ内のアナリティクスツールを利用すれば、そのアプリが実際によく使われているか、あるいは予想より使われていないかを発見することができる。

 こうしたツールを使って、たとえばアプリを使っているのはだれか、どんな機能にアクセスしているか、どの画面が使われているかなどを把握し、アプリの改善や次の新たなアプリ開発へとつなげていくことが大切だ。

 言い換えれば、アプリを継続的に改善してデリバリしていく中で、どこをどう改善すべきかの指針としてアナリティクスを活用し、現状を分析して、次の行動に移していかなければならないということである。特にEコマースアプリは、アプリの出来・不出来が売上に直結するので、UX(ユーザーエクスペリエンス)やアナリティクスが非常に重要となる。

 あと組織の話として、モバイル・アプリの開発プロジェクトにスピード感を持たせるMCOE(Mobile Center Of Excellence)について触れておきたい。MCOEは、社内のすべてのモバイルプロジェクトを評価する組織で、モバイル・アプリの開発/デプロイを行うための全社ガイドラインを確立し、またシステム統合やマーケティング、UIおよびUX、テストなど各領域の専門家をアテンドする役割も担う。

 またMCOEはITのことだけを考える組織ではなく、業務部門によるRMAD(Rapid Mobile Application Development)ツールを利用したアプリ開発をサポートする役割も果たすことになる。その際にIT部門には、開発者から、物事を円滑に進めるためのファシリテータへと変化していくことが求められることになる。

【次ページ】モバイル・アプリ開発ツールの具体例と選定方法
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