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  • 2014/10/17 掲載

なぜテスラモーターズは、アップルから人を引き抜いてまで直営店を展開しているのか

連載:トヨタに学ぶビジネス「改善」の極意

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かつて大手電機メーカーは競って自前のチェーン店(街の電気屋さん)を育て、自社の製品を熱心に販売していたものだが、ある時期からスーパーや家電量販店に販売の多くを任せ、いつの間にか量販店のほうが強くなり、価格決定権を握られるという状況に陥ってしまった。メーカーにとって「モノを売る」ことは、「モノをつくる」ことと並んで、あるいはそれ以上に大切なことだ。モノを売ることを他人に委ねてしまうと、いつの間にか消費者との接点が薄れ、自社製品がその他大勢の中に埋もれる危険がある。

なぜテスラはアップルから人を引き抜いてまで直営店を展開するのか

 今から10年くらい前のことだが、ある大手電機メーカーの幹部に「量販店を買収して自前の販売網を強化したらどうか」と提案したことがある。

 もちろんすべての製品を自前で売る必要はないが、できるなら量販店の一つも自前で抱えてお客さまとの接点を強化してはどうかというのが筆者の提案だった。

 残念ながらこの提案に賛同するメーカーはなかったが、日本の電機メーカーの競争力低下の背景には自前の販売網の軽視も影響しているような気がしてならない。

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ニューヨークにあるアップルストア
(出典:アップル)

 日本の大手電機メーカーとは逆の動きをしたのがスティーブ・ジョブズ時代のアップルだ。ジョブズがCEOに復帰した頃のアップルのパソコン市場でのシェアは5%足らずである。そんな小さなシェアでは量販店の店員は本気でアップル製品を売ろうとは考えない。ジョブズはこう嘆いた。

「販売員が気にするのは50ドルの売上げ報奨金だけだ」

 アップル製品の機能には自信がある。しかし、デルやコンパックが幅を利かす量販店で高価なアップル製品をあえて薦める店員などいない、ということだ。

 アップルが勝つためにはイノベーションは欠かせない。かといって、消費者に伝えることができなければ、イノベーションで勝利できないというのがジョブズの考えであり、そこから生まれたのが自前の直営店アップルストアという考え方だ。

 2000年1月、ジョブズはアップルストアの計画に本格的に着手、2001年5月にヴァージニア州タイソンズコーナーに1号店をオープン、大成功を収めることになった。

 もちろん今でもアップル製品の多くは量販店などで売られているが、アップルストアという直営店を全世界に展開することでアップルブランドを強化、消費者との接点を強めたことがその後のアップルの成功に大きく貢献しているのは間違いない。

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アムステルダムにあるテスラの店舗
(Photo by harry_nl

 同様のやり方を試みているのが電気自動車「ロードスター」や「モデルS」で注目されるテスラモーターズの創業者イーロン・マスクである。

 マスクは全米にいくつもあるディーラーに頼るのではなく、自前の直営店を展開することによる販売を重視している。なぜなら、ガソリン車に比べて電気自動車は高額であり、充電などに関する説明も必要になる。また、電気自動車の利点を強調することは、既存のガソリン車の欠点を指摘することでもある。これでは既存のディーラーに任せての販売は難しい。

 マスクはアップルストアの構築に関わったジョージ・ブランケンシップ氏をスカウト、自前の直営店をアメリカや日本に設けることで電気自動車の販売を促進しようとしている。

 ジョブズもマスクも自分たちがつくる製品には絶対の自信を持っている。他社製品とは違うという自負もある。だからこそ自前の直営店をつくり、その利点や理念をしっかりと伝え、ファンづくりにも力を入れている。モノづくりにはこうした「いかに売るか」という視点がとても大切なのである。

【次ページ】販売にも先行投資が必要である
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