医者の家系の「はみ出もの」が生んだ新感覚SNS「Pinterest」

　Pinterestは、好きな写真やポストカードをコルクボードにピン留めで飾るように、気に入った画像を「Pinボタン」で「ボード」にまとめたり他のユーザーと共有したりして楽しむ、画像共有型SNSだ。2010年に開始した同サービスは、今では個人ユーザー以外にも、美術館や有名シェフ、アパレルなどの法人ユーザーも多く利用し、ピン付けされた画像は3000万を超える。

「特に社長になりたかったわけでもなく、社員を動かしたいとも思っていなかった」。そう笑う同社の共同創業者兼CEO、ベン・シルバーマン氏は、戦略的に計画したうえでの起業ではなく、解雇や倒産など外的要因をきっかけに起業する「Necessity Entrepreneur」（必然的な起業家）とも言える。

　同氏は、医者の家系に生まれた。両親、祖父母、二人の姉妹は医療に従事しており、当然シルバーマン氏も医者の道に進むと誰もが疑わなかったという。「でも、僕は技術に興味があった。自分の開発した製品を誰かが楽しんで使っているところを見たい。そう思っていた」と語る。

　Pinterestの発想は幼少時代に遡る。子供の頃、虫や切手などを収集していた同氏は、コレクションを多くの人に見てもらいたい、他の人のコレクションを見たいと常日頃思っていた。それを実現するプラットフォームとして誕生したのが、Pinterestだ。

「Pinterestは、ただの画像コレクションサービスではない。ビジュアルディスカバリツールだ」。そう定義するシルバーマン氏は、ディスカバリ（発見）の新しい手法と説明する。


「今度の長期休暇にどこかへ行きたいなど、欲求が漠然としている場合、具体的な検索用語を必要とする従来の検索エンジンは、なかなか使いづらい」。画像は、そんな曖昧さを許容し、しかも膨大なコンテキストを瞬間的に処理できる。気付けばイメージが具体化されていることもある。

　また、サービス内で検索した画像からピン付けされたボードを辿ると、新たな刺激があると同氏は言う。「蝶で検索した先で、今まで気にも留めなかった折り紙やモビールの蝶と出会い、新たな情熱が生まれることもある。新しい発見を創出する仕掛けとして、Pinterestは魅力的なサービスだ」（シルバーマン氏）。

月間1億2000万のユーザーが利用する地域口コミサイト「Yelp」

　もう一人の登壇者で、Yelpの共同創業者兼CEO、ジェレミー・ストップルマン氏もユニークな起業家だ。

　イリノイ州立大学でコンピュータ工学を学んだあと、シリコンバレーでインターネット向け金融サービス「X.com」（その後PayPalが買収）に就職。その後、ハーバードビジネススクールへ通いながら、2004年にYelpを創業する。

　「X.comの面接で創業者のイーロン・マスク氏に会ったとき、28歳の若さで2つ目の会社を起こした彼に瞬く間に魅了された」。そう振り返るストップルマン氏は、彼の下で学び、いつか自分もと思うようになった。

　2004年、ドットコム企業のバブル崩壊の影響がまだ残る中、次に来る大きな波は何かと友人と議論した。そのとき、「craigslist」（クレイグスリスト）というサイトを知ったという。craigslistは、世界各国のローカル情報を「コミュニティ」「サービス」「出会い」「売買」などの項目で分類、紹介する総合リンクカタログだ。ほぼ無償で提供されており、情報発信の在り方に一石を投じた。

　同じ頃、ストップルマン氏は歯医者に通っていたのだが、「それがひどい藪医者で、最悪な経験を多くの人に伝え、警告したいと憤っていた」。そのとき、ふとローカルビジネスに関する口コミをうまく取り込み、オンラインで検索できるサービスはどうかと思い付く。こうして、ローカルビジネスと人をつなげる口コミ情報サイト「Yelp」が誕生した。


　最初に選んだ都市は、サンフランシスコだ。2005年に入ってから徐々に浸透し始め、少しずつ都市を増やしていった。さらに、2008年にはiPhoneブームを見越し、App Store開始と同時にiPhoneアプリを提供、続けてAndroidアプリを開発、提供した。市場への機敏な対応により、多くのユーザーを獲得した。

　そして2012年、熱い注目を集めるまでになったYelpは、GoogleやYahoo!からの買収話を一蹴し、株式を公開した。

　創業から約10年、月間1億2000万の訪問者が利用するサイトに成長したYelpは、20か国へ進出。つい先日（2014年4月）、日本でもサービスを開始した。「世界中で利用されるサービスに育てるのが、僕の夢だ」（ストップルマン氏）。

【次ページ】幸せホルモンがもたらすビジネスメリットとは