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10年後の近い未来、クラウドやグローバル化がさらに進んだ世界で、組織のイノベーションを支えるために、IT部門は今何をすべきなのだろうか。ライオン 統合システム部の森山卓也氏は「ビジネスの差別化とリスクに応じて、IT部門の業務内容をテーマごとに明確にすれば、具体的な方針が見いだせるのではないか」として、3つの視点でテーマを分解した。この3つのテーマを軸に、人材育成に取り組むカシオの事例、トライブ型プロジェクトで案件化を進めるラックの事例などについて紹介する。
参考記事:
ITR 内山悟志氏:ITは10年変わらず、変革するキーワードは「トライブ」と「予測市場」
IT部門が変わるための3つのテーマ
少子高齢化やグローバル化が進み、クラウド化はますます浸透して、さらなる新技術も台頭する。そんな10年後の世界で組織が成功するために、IT部門は今どのような取り組みをすべきなのか。
アイ・ティ・アール(ITR)エグゼクティブ・フォーラム「IT Trend 2013」の特別セッション「未来を担うものからのメッセージ~10年後のIT部門に渡すべきバトン~」では、そんな新鮮で熱い提言が内山塾の卒業生たちから語られた。
内山塾は2008年1月から開始されたITR主催のフォーラムで、企業のIT部門に所属する20~30代の若手社員のための勉強会だ。すでに16期開催されており、のべ320人の塾生を輩出しているという。
今回の発表内容は、昨年のIT Trend 2012閉会後、内山氏がこれまでの成果をプレゼンテーションしてみないかと提案。それを受けて有志が集結してアフタースクールを開催、「10年後のIT部門にバトンを渡すために、今何をすべきか」を1年間かけて議論し、まとめたものだという。
プレゼンテーションの最初に登壇したライオン 統合システム部 森山卓也氏は、IT部門に求められる役割をブレーンストーミングで洗い出すことから始めたと説明した。ルーティン業務の省力化、人材の有効活用、トライブなどのキーワードが次々と提示された。
こうしたキーワードを整理した結果、3つのテーマが浮かび上がってきたという。
A:安全・確実なビジネス推進(ルーティン業務の省力化、セキュリティとBCP、コミュニケーション基盤)
B:競争優位性の向上(コラボレーションの促進、ビジネススピードUP、人材の有効活用)
C:新たなビジネス価値の創出(“トライブ”によるイノベーション、気付きを与える支援、R&D)
これらについて、森山氏は「現在は社内リソースの大半がAの“守りのIT”に集中しており、組織の成長を促すBやCにはあまりリソースが割かれていない」と指摘。「10年後には競争優位性、守りのIT、ビジネス価値の創出の順番で分配されるのが理想だ」と述べた。
しかし、人材も予算も足りず、新しい挑戦がなかなかできない現状で、どうすれば10年後の理想的な配分にステップアップできるのか。
これに対して森山氏は、「ビジネスの差別化とリスクに応じて、IT部門の実際の業務内容(企画・開発・運用)を、IT部門、事業部門、社外の役割分担をテーマごとに明確にすれば、具体的な方針が見いだせるのではないか」とした。
事業部門が主体となり、IT部門はガバナンス面でサポートする
まず、Aの安全・確実なビジネス推進について、森山氏は「差別化にはつながらないが、企業としての一定のリスクを与えるビジネス」と定義。それは今日のビジネスが依存する情報システム基盤であり、IT部門は企画・開発・運用まですべて背負い込んで対応、予算の大半もそこに割かれていると指摘した。
だが、こうした自動化やアウトソース可能なルーティン業務にリソースや予算を割くのは理想的ではない。IT部門は企画の一部を担当し、あとのルーティン業務は極力アウトソースする形を目指すべきと森山氏は提案する。
「まずは非コア業務を明確にし、アウトソースのために的確な技術評価とコスト管理を確立して、ベンダー/プロジェクトマネジメントの手法を整備する。そうすることで、より事業戦略やイノベーション面でIT部門が動きやすくなるはずだ」(森山氏)。
続いて、Bの競争優位性の向上だが、「明らかな差別化要素があり、他社との競争優位が維持できる」分野であり、事業部門が積極的に関わるべきテーマである。もっとも、現状は事業部門が企画を出し、その後の開発や運用はIT部門に押しつける形が多い。
10年後のあるべき姿は、表のとおりだ。事業部門が主体となり、IT部門はガバナンス面でサポートする。「10年後には技術が進歩し、事業部門でもビジネスツールを開発・運用できるようになっているだろう。そして、そのための知識と経験を得るために、積極的な人材交流が進むと考えられる」。そのためにも、意思決定プロセスを簡素化できるフラットな関係を構築し、社内のタテヨコ方向のコミュニケーションを活発化させたいと、森山氏は述べる。
このテーマに現在取り組んでいるのが、ユナイテッドアローズだ。同社はこれまで、POSシステムから在庫確認ができず、販売機会を失いがちという課題を抱えていた。そこで、ユーザー部門からの提案でiPhoneによる確認システムを導入、店員はその場でリアルタイムに在庫状況を確認できるようにした。
「当初は在庫確認メニューが4つだったところ、事業部門からの提案でさらに便利で充実したメニューが組み込まれたと聞く。IT部門と事業部門がコミュニケーションをとりながらシステム開発を実施した好例だ」(森山氏)。
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