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- 2012/05/11 掲載
なぜ山形県の米沢工場がマザー工場なのか、グローバル化の大波が寄せる現場で見たもの
中堅・中小企業市場の解体新書
レノボと提携後もNECを支える米沢工場は“日本的な工場”
米沢駅周辺は高い建物もなく、観光地米沢のお土産物や米沢牛の食堂やレストランが立ちならぶ静かな町だ。奥羽山脈に三方を囲まれ、遠くに天元台のスキー場が見える、風光明媚な盆地に、同社社屋がほぼ街並みに同化して存在している。実際に町の人々に話を聞いても首都圏に本社のある遠くの会社ではなく、地元にある昔からの工場という存在だった。
米沢駅から徒歩5分で正門を抜けて米沢工場の正面入口に入る。以前紹介した甲府事業所と共通する親しみやすい雰囲気だ。オフィス入り口正面には大きな液晶ディスプレイがあり、「ようこそノークリサーチ様」の言葉で出迎えてくれた。極めて日本的な工場のエントランスと言える。
NECパーソナルコンピュータは、従来のNECの完全子会社から2011年7月にNECと中国レノボの国内PC事業を統合して設立された合弁会社「Lenovo NEC Holdings B. V.」の100%出資会社として、新たなスタートを切る形になった。レノボとの事業統合が発表された当初は、米沢工場は存続できない、あるいは大幅な体制変更を懸念する声もあったわけだが、“日本的な工場”はそのまま踏襲されたことになる。その理由の詳細はあとで触れるが、現地のエントランスからも日本型工場として継続していることが見て取れたわけだ。
そんな米沢工場の人員数は1100名。ラインでのスタッフはほとんどが地元の協力会社の社員である。生産能力は年間ピーク約300万台で、現状では1万台/日が生産可能最大数となっている。
米沢工場は、おそらく世界でもっとも古くからパソコンを作り続けている工場の1つだ。特にPC9800から伝統を引き継ぐことになるビジネスパソコンは同工場で作り続けている。現在、同工場ではNECのパソコンのうち、クライアントPCの製造を行っている。製品で言うと、デスクトップPCの「Mate」とノートPCの「VersaPro」の2種類だ。一部液晶一体型のコンシューマ向けのパソコンも生産している(※NECのコンシューマ向けパソコンは基本的に中国生産となっている)。
かんばん方式採用も商品サイクルの長い自動車とは異なる独自進化
NECパーソナルコンピュータは、次の3つのNo.1を経営目標に掲げて強く意識している。2.スピード(業界最短納期)
3.シェア(日本国内でのシェア1位)
自動車の商品サイクルは数年と長いが、PCは年に数回の商品入れ替えがある。受注モデルは半年で2万モデル以上の変更がある。そのためパソコン生産用にトヨタ式カイゼン活動を変革させることが大事であると考えた。同時に工場の生産だけではなく、市場の販売状況を見ながら、サプライチェーンまでを含めた包括的なパイプラインを敷くことが肝要とし、日々の生産改革は今でも進行中だ。
米沢工場の生産は、基本はセル生産方式(※少数の作業者で製品の組み立てを完成まで行う生産方式のこと)なのだが、ラインにいる他のメンバーとはリレー生産方式をとっている。つまり組立、検査、梱包を3~4人で行い、各人員が自身の作業を完了したら、隣を手伝い、スピードの維持、向上を図っている。1人が数を多くこなすというより、与えられたラインの総数を決めて、その数を達成するためにどうするかを優先させる。
このように一定の濃度で効率的な生産を行うために、臨機応変に同じラインでサポートできるようなラインの平準化を図るシステム、これを「米沢生産方式」と呼び、調達→生産→出荷、のすべての製造工程で採用している。セル生産方式の1つであるのだが、PC向けに改善した独自のセル生産方式と言えよう。
実際の工場をみると、1Fの製造フロアはデスクトップPCの生産ラインでライン数は25本、2FはノートPC生産ラインでライン数は35本となっている。いずれのフロアにも、部品のストックストアが備えており、甲府工場同様、みずすましが部材を運ぶ。しかも部材を運ぶキャリアは自動で動く、センサー付き台車である。この自動配送の台車は自前で作っているそうだ。
生産は、組立15分、エージングと検査で4時間。梱包を入れても4時間半で完成する。パソコンはデスクトップとノートパソコンの2分野だが、内部のスペックの組み合わせで考えれば2万種類の組み合わせのハードウェアである。ここではその2万種のパソコン生産を最速3日で納品できるところが肝である。
【次ページ】なぜ山形県の米沢工場がマザー工場なのか
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