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日本ではシステム開発・運用・保守など全般で、ITベンダーに依存するケースが少なくない。では日本企業のIT部門は、ITベンダーと良好な関係を築き、最適なIT投資を実現できているのだろうか?ガートナー リサーチ ジャパン リサーチ部門代表 バイスプレジデント 山野井聡氏は「今付き合っているベンダーとうまくいっていないのではないか」と指摘、「ベンダーマネジメント」の重要性を説く。(2017年09月15日更新)
ベンダーマネジメントの課題、なぜうまくいかないのか
「ユーザー企業の多くが、今付き合っているベンダーとうまくいっていないのではないか」、ガートナーソーシングサミット 2011で講演したガートナー 山野井聡氏は「ベンダーマネジメント2011」の講演でこう切り出した。というのも、ここ1年、山野井氏のもとにはベンダーマネジメントについての問い合わせが増加しているからだ。企業が今、ベンダーマネジメントで実行すべきポイントは何か、また同様に回避すべきポイントは何だろうか。
山野井氏がベンダーマネジメントを最適化する手法として紹介したのが、ベンダーマネジメントのフレームワークだ(
図1)。これは大きく4つの軸で構成されている。
左から順を追って説明していこう。1つめが「ベンダーマネジメント(VM)プログラムの立案・準備」である。ガートナーの調査によれば、従業員1000人以上の日本企業において、現状、IT部門内に専任のVMO(ベンダーマネジメント組織)を設置している企業の割合は23%で、設置を検討中の企業は10%、未検討は67%だった。設置済み、あるいは設置検討企業はまだそれほど多くないが、「2011年3月時点の調査だが、昨年と比べるとかなり増えてきている」のだという。
これからVMOを組織編成するにあたって、もっとも重要なポイントは、VMO編成のゴールを「調達最適志向」か「戦略連携志向」のどちらにするのか、ということだ。
「調達最適志向」とは、VMO設立の第一目的をITコスト削減(最適化)とすること。「日本企業の8割がこれに該当する」という。この目的を実現する組織に要求されることは、企業内に点在するITのアセットを棚卸しし、集約化や標準化によって、ボリュームディスカウントなどを実施してもらうことにある。そのため、経営層からのバックアップ、お墨付きが必要になるほか、各事業部、支所のIT予算の権限をすべて「召し上げる」といった豪腕が求められるという。
そして、残りの2割の日本企業に該当するのが「戦略連携志向」だ。この企業にとってのVMOは、ビジネスの新しい価値やサービスをITベンダーとともに創出していくための組織体となる。そのため、目的/プロジェクトごとに組織体を分けていくことが重要で、「プロジェクトを経験した人をVM担当者とすることがキモ」だという。
このように「調達最適志向」か「戦略連携志向」かによって、その後の対応方法や手段が大きく変わってくる。そのため、ベンダーマネジメントでは、まずはこの2つを切り分けて見ていくべきなのだという。
VMO(ベンダーマネジメント組織)の3つの役割
次に実際のVMOの業務だが、これは「最低限3つのカテゴリに絞りこむべき」だと山野井氏は指摘する。
VMOが担当すべき業務の1つめが「契約管理」だ。RFPや見積精査、契約交渉をリードする役割を担い、経済合理性や透明性の高い契約・価格方式を追求する業務で、「VMOの一番の腕の見せ所」となる。
2つめが「パフォーマンス管理」。SLA(サービスレベル合意)や生産性など社内プロジェクトを標準化できるように評価指標やゴールを設定し、関係各位と合意形成を図って、さらにそれをPDCAサイクルへと落とし込む。
3つめは「関係管理」で、これはベンダーから「重要なお客さまだと思ってもらう」活動などが該当する。たとえば、新技術の早期採用やケーススタディへの露出、あるいはより多くの支出によって、関係の改善につとめることでベンダーの“やる気”を引き出していく。「値引き要請しかしない顧客にはサービス品質などがどうしても落ちていく」(山野井氏)
こうしてVMOの役割や業務範囲を定めたあとは、VMO導入の効果を明確化する作業が必要になる。「契約管理」であれば、契約コスト削減額や契約締結スピードなどをKPIに、「パフォーマンス管理」であればサービス品質、SLA遵守度などがKPIにして、VMO導入の効果をホワイトボックス化する。「関係管理」は数字で管理するのが難しいが、「エンドユーザー満足度調査」などがKPIとなりうる。さらに「年に2回ぐらいベンダー側にも満足度調査をしたほうがよい」(山野井氏)という。
VMOを立ち上げるとなると、社内抵抗が少なからず出てくる。そのため、ステークホルダーに対して、VMO活動のブラックボックス化を回避し、サクセスファクターをあらかじめ決めておかないと、VMOそのものが短命に終わってしまう可能性が出てくるのだという。
ベンダーの優先順位を設定するフローチャート
ベンダーマネジメントのフレームワークの2つ目に挙げたのが、「ベンダーの取捨選択」だ。「網羅的なベンダー管理を行おうとすると、管理のための管理になって手間がかかりすぎる」のだという。次の図はどのベンダーを管理するのかを選定するための考え方を示した分岐図となる。
この図で示したように、選定の前に、まず市場調査やマーケティングによって、IT産業のマクロ動向を見極めてベンダーを選定、強みと弱みを押さえ、これをベンダー管理データベース(DB)に入れていくという作業が必要になる。ベンダー管理DBはExcelでも何でもよいので、必ず作ったほうがいいという。
そして実際に選定していく際の最初の関門が「実績」だ。付き合っている企業の規模や契約数など、過去に遡ってどれだけ実績があるのかをみる。そのうえで、実際の取引額の上位3社の企業を選定する。さらに、そのうち「戦略」を共有している企業がもっとも重点的に管理しなければならないベンダーとなる。それに続いて、上位3社の企業のうち、コスト追求型の付き合い方をしている企業が2番目に重要な企業となる。「ベンダーマネジメントをはじめるには、当初はこの2種類の企業だけでよい」と山野井氏は解説する。
ただ、取引額が低くても、特別なスキル、たとえばスマートフォン向けサイトのユーザーインターフェイスに携わる企業などは発注金額が小さくても管理の対象とするべきとした。
【次ページ】選定した企業と契約交渉に臨む際の留意事項
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