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  • 2016/11/21 掲載

クラウドへの移行方法をガートナーが解説、ベンダー選択で大切なたった1つのこと

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企業のIT戦略において「クラウド」はもう無視できない存在となった。しかし、IaaS一つ取ってみても数多くのプロバイダーが存在し、AWSでもEC2やS3、Redshiftなど多様なサービスを展開するなど、最適なサービスを選び取るのは困難な状況にある。さらにそのEC2でも、インスタンスタイプは40にのぼり、安いもので3年間3万円、高いものなら3年間で3,000万~数千万円にもなるなど、投資額に及ぼす幅も大きい。そこで、ガートナー リサーチ部門 ITインフラストラクチャ バイス プレジデント 兼 最上級アナリスト 亦賀 忠明氏に、これからのクラウド戦略の立案方法と、具体的なクラウドの選択術を解説していただく。
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企業のクラウド戦略はどうあるべきか

企業のクラウド戦略は「2つのモード」で考える

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 クラウドに限らず、新しいテクノロジのインパクトは増してきている。最も目につくものはDisruptive、つまり「破壊的である」ということだ。新たなテクノロジは単に破壊するだけでなく、新たな産業やビジネスを生み出していく。

 こうしたトレンドを理解した時、企業は利用するITを2つの視点で捉え直す必要がある。ガートナーではこれを「バイモーダル」(2つのモード)という言葉で表現している。モード1はメインフレームや基幹系システムなど、「現状のシステムをどうするか」という視点に立ったもの。モード2は、人工知能やブロックチェーンなど、「新たなテクノロジを使ってビジネスをどう作っていくか」、あるいは「どう成長させていくか」という視点に立ったものだ。

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既存システムをどうクラウド化すればよいのか

 モード1とモード2では要件が異なる。まずモード1は、業務維持とコスト削減に主眼を置いたもので、しっかり作って、きっちり運用するという世界だ。ここでのクラウド化の議論は、今のシステムをクラウドに載せていかにコストを削減するのかという話になる。しかし、そのクラウドの選択肢は数が多く、最適な選択は相当な困難を要する。ガートナーがIaaS選定時の重要項目を聞いたところ、1位は「プロバイダー自身による本質理解」との答が得られた。また、日本における主要IaaSの利用状況は以下の通りだ。こうした項目をIaaSの評価ポイントに加えていただきたい。

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IaaS選定時の重要項目トップ10と日本における主要IaaSの利用状況
(出典:ガートナー)


 モード1でのクラウド化を行う際には、パブリックにするか、プライベートにするかといった議論から入るのではなく、まずしっかりと現行システムの仕分けから始めることが肝要だ。

 いわばシステムの棚卸で、求められる要件や価格が高いシステムから、たとえば松、竹、梅という区分けを行うのである。絶対に止まってはいけない業務システムなら松、標準サービスでいいなら梅という具合だ。これはクラウド化する、しないに関わらず、自社のシステム環境を見える化するためにも絶対にやっておいたほうがいい。

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システムの仕分け例
(出典:ガートナー)


 たとえばコストを削減したいなら、梅のクラウドを意図的に増やしたほうがいい。ここで利用するクラウドがAmazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureなどで、標準サービスとして提供されているものだ。梅は基本的にアウトソースする領域である。

 これに対して、作り込んだ基幹系システムは松に相当するもので、ここで選択するのはクラウドではなく、クローズドなオンプレミス環境かもしれない。いずれにしても、システムの仕分けをしない限り、クラウド化の議論もできない。対象システムの要件を考えることなく、いきなりクラウドサービスの比較表を作ってはいけない。

クラウド開発パートナー選びで大切なたった1つのポイント

 モード2は、ビジネスの成長と革新を支援するためのITで、短くなってきているサービスデリバリーのサイクルに対応するために、システム開発をアジャイルで進めるといった手法が採られることになる。

 ここでの重要なポイントは、モバイルアプリケーション開発やIoTプラットフォームなど、モード2で利用される新しいテクノロジのほとんどがクラウドから提供されているということだ。ユーザー企業が最新のOSSを利用して新たなシステムを実装するスピードよりも、クラウド上からサービスが提供されるスピードほうが速くなっているのである。

 企業は今後、こうしたクラウドの使い方を思案しなければならない。新たなクラウドサービスと連携を取るためのAPIをインフラ担当者が学ぶなど、新たなスキルも企業側に必要になる。その比重は2017年にかけて高まってくるだろう。

 その際には、クラウドをサービス部品の集合体と捉えることが必要だ。たとえば一口にAWSといっても、EC2やS3、あるいはRedshiftというように多様なクラウドサービスが提供されている。

 要はこれらの部品をどのように組み合わせて、ビジネスで利用するサービスを作り上げていくかが重要なのだ。そのためには1つ1つのサービス部品を理解する必要がある。しかしそれは簡単なことではない。

 それというのも、たとえばEC2ならインスタンスの数は40もあり、安いもので3年間3万円、高いものなら3年間で3,000万~数千万円にもなる。40のインスタンスのうち、どれを使うかで必要となるコストはまったく異なる。しかもEC2だけではダメで、S3など他の部品についてもこうした理解を深めなければならない。これはMicrosoft Azureなど他社のクラウドサービスについても同様だ。

 こうしたサービス部品をまず理解し、それらを組み合わせて「回路設計」をした上で、サービスとして機能させる必要がある。モード2のクラウドでは、こうした新しいスキルが求められるということを理解しておいていただきたい。

 参考までに、そこまで自社で手に負えないという場合、サービス部品の目利きや回路設計を外部のサービスベンダーに任せるというのも1つの選択肢だが、その際には注意すべきポイントがある。

 たとえばAWSのパートナーは過去1年間で急激に増えたが、その中には目利き力や回路設計のスキルを持っている企業と、持っていない企業が混在している。

 よくある質問として「どんなパートナーを選べばいいか」というのがあるが、小さくてもAWSならAWSに特化している専業のインテグレーター、たとえばクラウドワンやサーバーワークスといった企業は高いスキルを持っているので、そうした企業に指南役として入ってもらうのがよいだろう。

【次ページ】「要注意」なクラウドサービスプロバイダを見分ける方法
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