• 2010/03/30 掲載

【加野瀬未友氏インタビュー】無数にあるネットツールをどう使いこなすべきか?(3/3)

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ネットの関係、リアルの関係

――SNSやTwitterを使うかどうか考えた時に、一番気になるのがそこでの人間関係をどうしていくか、ということなんですが。

 加野瀬氏■そうですよね。結局、ツールを使うかどうかっていうことよりも、みんなそのツールの中で起こる人間関係に悩んでると思うんですよ。そのツールの中で起こる人間関係のマネジメントが難しいってことですよね。

 ブログのコメント欄に毎回書き込んでレスをもらってるから仲がいいんだ! と思う人もいるかもしれないけど、単なる義務としてレスしてる人もいるわけだし。「著名人とやり取りしてる私」を人に見せるためのやり取りをする人や、著名人に会ったりしたことをやたらと書く人がいますが、こういった他人にアピールするための人間関係を女性の「見せブラ」にひっかっけて「見せ人間関係」と僕は呼んでます。

 やり取りが可視化されているから、知らない人が見れば実状がどうであれ「この人、○○さんとよくコメントし合ってるから仲がいいんだ」という風に見えてしまう。ブログやTwitterでも「今日のイベントは○○さんが来てたのに、あいさつしかできなくて申し訳なかった」なんて書くと「仲いいのにあいさつしかできなかったんだ」と読む側は勝手に補完したりするわけですよ。

――ネット上のやり取りで相手の好意の度合いを計るのは難しく感じますね。相手がどの程度の気持ちの重みで発言しているのか、どの程度の反応を求めているのか、非常にわかりづらくて戸惑うことがあります。

 加野瀬氏■文字のコミュニケーションで相手との距離感を読むのは、ツールが何にせよすごく難しい。対面だったら表情なり何なり色んな情報があるから、そこから読み取れるものがありますけど、文字だけだとお世辞とか社交辞令を真に受ける人もいるし。文字で距離感を読むのと、実際に会っている状態で距離感を読むのはまったく別の技能なので、対面で距離感を読むのに慣れてる人でも文字だけから距離感を読み取ることは難しいんじゃないですかね。しかも文章だけじゃなく、反応が来るまでの時間とかもあるからさらに難しい。

 とくにTwitterだとすぐに反応しないと元の発言が流れていっちゃいますから、一日遅れっていうのがすごく遅い感覚になってきてる。一日反応しなかっただけで「ああ、もう関係が終わっちゃった」と思われたりして。まるで携帯メールです。まぁ半日以内ぐらいには反応を返すのがベターではあるかなって状態ですね。でも、そういうやり取りに必死になると日常生活に支障をきたすと思うんで、自分の生活基盤がどこにあるのかっていうことをちゃんと考えて、レスに必死になりすぎない方がいいですよ。

――でも確かに、有名人にコメントされたりしたら、返すのに必死になってしまいそうです。実際に会って仲良くなるのとは別なんでしょうけど、フォローされただけで友達になれたみたいな錯覚に陥りそうな……。

 加野瀬氏■人間関係の距離感は人それぞれですけど、ネットってとくに距離感の錯覚を起こしやすいツールなんですよ。例えばいつもテレビで見てる芸能人に直接会ったおばちゃんがいきなり友達モードで話しかけてきたりするじゃないですか。ああいう感じのことがネットでも起きちゃうわけで、毎日読んでるブログを書いてる人のことを、読んでる側が勝手に親しみを持っちゃうっていうのはしょうがないですよね。そういうネット上での距離感の難しさっていう問題は確かにあると思います。

 でも、ネット上の人間関係なんていうのはTwitterにしろmixiにしろ、薄い人間関係が多いんだから、悩むな! って言いたいですね。Twitter上でしか知らない人とケンカしちゃったとか、誰にマイミク切られたとかそういうことに悩むより、直接顔を会わせるようなの人間関係に重きを置いた方がいい。それが僕の今一番言いたいことですね。

――ちょっと北方謙三の人生相談みたいですね。

 加野瀬氏■「ソープに行け!」を「リアルに行け!」にしたような感じですかね。まぁ、ネットをやめろ、ネットから出ろっていう意味じゃなくて、ツールはツールでしかないのだから、それに振り回されすぎるなってことです。僕はネットでかなり恩恵を受けた立場の人間ですから、普通に生活していたら知り合えなかった人たちと知り合えたりするネットの可能性は信じています。でも、そういう人間だからこそ、言いたいんです。新しいツールの上での人間関係を特別新しいもののように思い込むことは錯覚だし、そこを重要視しすぎるのは良くないよ、と。ツールに依存した人間関係は簡単に切れるんですから。僕はネット上の公開の場で何度もやり取りをするよりも、私的な場でする一回のやり取りの方が重みがあると考えています。公開の場でしたやり取りって、結局は第三者の目を意識したやり取りでしかないから、本当に仲良くなりたいんだったら、メールなり何なり、個別のコンタクトを取って関係を作っていくのを勧めますね。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ネットでのコミュニケーションが活発になっている現在、ネットでのコミュニケーションを有効に活用してきた加野瀬氏の口からこういった発言が出ることは少々意外に感じられるかもしれない。「ネット上での公開のやり取りよりも私的なやり取りの方が重い」という言葉に反感を持つ人もいるだろうが、一度冷静に本文を読み直してほしい。加野瀬氏はネットでのコミュニケーションそのものを否定しているわけではない。そこに可能性はあるし、有意義な交流もあると認めた上で「ネット上のコミュニケーションだけを特別だと錯覚してしまう危険性」への注意を促しているのだ。楽しいはずの人間関係が苦痛になってしまったり、ツールを使うのに疲れを感じたりし始めたら、ネット上での人間関係を自分がどう捉えているのか、自分にとって快適なネット上での人間関係の距離はどういうものか、再考してみる価値はあると思う。

 (取材・構成:雨宮まみ

●加野瀬未友(かのせ・みとも)
編集者、ブロガー。 オタク文化やネット業界に精通し、ライターとしても活躍。 批評家の東浩紀氏が中心となって行われたプロジェクト「ised」の討議をまとめた『ised 情報社会の倫理と設計[倫理篇](仮)』(河出書房新社、2010年4月下旬頃に刊行予定)にも参加している。またルビコンハーツという同人サークル活動をしている。

サイト:ARTIFACT

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