- 2008/02/22 掲載
【横田由美子氏インタビュー】女性ルポライターが見た「男社会を生き抜くための女の武器」とは(2/2)
――そうした苦労の中で女性政治家は「男女平等社会」を訴え続けているわけですが、企業社会は依然として男社会のまま変わりません。これはやはり、男性の理解不足が原因でしょうか?
横田氏■企業社会でいうと、女性の社会進出を阻む一番の原因は、女性側の意識の低さにあると思います。1999年に男女雇用機会均等法が改正されて以来、企業側もポジティブアクション(注5)といった子育て支援を積極的にするようになった。企業はイメージ戦略の一環として、女性が活躍できる職場であることをアピールしなくてはなりませんからね。しかし、最近ではそれに女性が甘えてしまっているという側面が多く見られます。たとえば、子どもが熱を出したからという理由で会議を休んでしまったり。同僚や上司たちは、しょうがないかなと思っていても、心の底では面白くないと思っているわけです。そんなに甘くないと思うんですよ、仕事って。子育てという大義名分の下、仕事に支障をきたす行為を堂々とするママキャリたちを、同僚や上司たちが許容することはできないというのは、仕方のないことだと思います。
――仕事をしながら子育てをすることを社会が認めてくれていると思っている女性側と、建前ではそうだとしながらも、本音では仕事に支障なく働いてほしいと思っている企業側に意識のずれがあるということですね。
横田氏■女の人の意識だけが先に行ってしまっているんです。結婚と子育てと仕事、すべてが両立できる社会じゃないとおかしいと女性が思ってしまっている。だけど、企業にはそんなに余裕があるわけではない。表面的な仕事しか与えないのは当然です。女性社員には「勝負をさせない」し、「泥水を飲ませない」。大企業で女性が失敗して大きく左遷されたという話を聞くことはありませんよね。人は失敗を通じて仕事の経験値を上げていくものですから、いつまで経っても、仕事のできる女性が育たない。結局、男社会のままなんです。
――そのことには、女性の側も気づきはじめた感もありますね。以前は、若さと美しさを兼ね備えたキャリア女性が脚光を浴びていましたが、今はそれに「子育て」の要素も加わっている。キャリア女性であり、美しい女性であり、母であるという「サイボーグのような女性」が憧れの存在になっています。
横田由美子氏 |
――そんな状況が続くと、キャリア志向の女性はどんどん減っていってしまうのではないでしょうか。最近は商社を中心として、一般職の正社員採用が復活し、女子大生の間で人気の就職先になっていると聞きます。
横田氏■二極化していくのではないでしょうか。先日、いわゆる有名大学に女性のキャリア形成についての講義をしにいったんです。驚いたのが、多くの女子大生が会社をキャリア獲得のツールだとしか考えていなかったこと。彼女たちのキャリアのゴールは、結婚でも社内の出世でもなく、起業家になることなんです。そのためにどうしたらいいか、スキルを磨くにはどうしたらいいか、みんな必死で聞いてくる。「自分探し」ばっかりしていた私たち、団塊ジュニアとは大違い(笑)。
考えてみると、1991年のバブル崩壊時に、彼女たちは小学校低学年。物心ついたころから不景気しか知らないんです。当然、将来に危機感をもっているし、親たちのリストラを見て育っているわけですから、企業に対して不信感がある。どんなことがあっても一人で食べていけるだけのスキルをもちたいと願うのも当然です。
――「自分探し世代」から、「キャリア探し世代」になったということですか。20代前半の人たちに「プロフェッショナル」志向があるのはそのせいかもしれませんね。一方で、団塊ジュニアはいまだに「自分探し」がやめられません。横田さんご自身も、「仕事をするのは自分を探すためだ」と書かれていますが。
横田氏■学生時代をバブルで過ごした団塊ジュニアは、本当の意味で生活に窮した経験がありません。「仕事=食いぶち」という発想が生まれづらい。じゃあ、何のために仕事をするのか、自分の生きる意味は何だろうかと、自分探しの旅に出かけるわけです。旅に出られない場合は、仕事で探す(笑)。
女性の場合はもっと複雑で、母親の影響も多分に受けています。団塊の世代の女性は専業主婦がほとんどですが、多かれ少なかれ「本当は専業主婦じゃない方がよかったんじゃないか」「もっと自分は輝けたんじゃないか」と思っているお母さんが多いわけですよ。それで娘には男に頼らないような生き方を勧めてきた。でも、一方で母親たちは、自分の歩んだ道を完全に否定しきれないわけです。経済力をもちなさいと言いつつも、女は子どもを産んで家庭を守るのが幸せだとも言う。母親がすでに自己矛盾を抱えているわけでしょう。そんな親に育てられた団塊ジュニアは、やはり自己矛盾を抱えやすい、迷走の世代といえると思います。
――だからこそ、すべてを兼ね備えた「サイボーグ女性」にあこがれるわけですね。最後に、最上志向の強い女性読者に向けて、トップに上りつめるために必要なことを教えていただけますか。
横田氏■失敗経験でしょうか。小池百合子議員にせよ、高市早苗議員にせよ、数々の失敗経験を経て、あそこまで上りつめたんです。お会いしたときも、それぞれが自分の魅力を最大限に使って相手を包み込み、とりこにしてしまう術がある。彼女たちは戦い慣れているんですよ。いろんな相手と戦って失敗を繰り返して、自分たちの戦術を身につけていった。失敗は、すればするほど対応力や決断力が磨かれていくんですね。女性政治家ほど、世間からたたかれる仕事はないと思うのですが、それだけに胆力が鍛えられる職業だと思います。
女性がキャリアを積んでいきたかったら、あえて厳しい環境に身を投じたほうがいい。それこそ、会社から左遷されたら「ありがとう」です。そのぐらい言えるようになったら、かなりのところまでいくと思いますよ。
(執筆・構成=高嶋千帆子)
※注1 男女雇用機会均等法
男女の雇用上の差別をなくすために1985年に施行された法律。正式には「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」という。1985年の段階では、男女の機会均等は事業主の努力義務とされていたため、1997年に雇用上の募集・採用、配置・昇進・教育訓練、福利厚生、定年・退職・解雇採用、昇進、教育訓練、退職など、あらゆる雇用管理に関して男女の差別的取り扱いの禁止が定められたほか、職場におけるセクシュアル・ハラスメントの防止に向けた事業主の雇用管理上の配慮義務などについても規定する大幅な改正が行われた(施行は1999年)。2006年には、妊娠を理由とした職種、配置転換などの禁止を盛り込んだ男女雇用均等法の改正案が閣議決定され、2007年より施行された。
※注2 ダイバーシティ
人種、国籍、年齢、性別など、あらゆる差別をなくすために、アメリカで始まった考え方。ダイバーシティとは「多様性」を意味し、多様な個性をもった従業員全員それぞれが、高い意欲をもち、能力を十分発揮していくことが企業の発展に役立つとされている。
※注3 テレポリティクス
テレビを中心とするメディアを利用した政治のこと。一般的には国内向けの戦略に用いられる。アメリカではその研究がかなり前から進んでおり、選挙ではどのようにメディアを利用するかが勝敗を分けるとまでいわれている。そのため、メディアに取り上げられそうなスローガンや発言を意図的に発することもあり、批判も多い。
※注4 劇場型政治
カリスマ性のある政治家が、一般大衆と同じ立場であることをアピールし、民衆の支持を得る政治手法。テレビなどのメディアを通じて行われる。2005年の「郵政民営化問題」に端を発した郵政解散、その後の総選挙時の小泉純一郎内閣総理大臣のメディアを利用した政治手腕は「小泉劇場」といわれ、流行語にもなった。
※注5 ポジティブアクション
これまでの慣行や性別による役割分担意識などにより、男女労働者の間に差が生じているとき、それを解消するために、企業が自主的に行動をおこすこと。
●横田由美子(よこた・ゆみこ)
ルポライター。
青山学院大学卒業後より、ライター活動を本格化。週刊誌、月刊誌で、女性のキャリア、起業家、官僚に関する記事を多数執筆。著書に『私が愛した官僚たち』(講談社)がある。今年4月には政治を題材にしたムックを発売予定。今、最も活躍が期待されている女性ルポライターである。
ブログ:ペコちゃん日記
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