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  • 2024/03/21 掲載

終身雇用制度は時代遅れ?ガートナーが説く「人的資本の価値を最大化させる」人材戦略

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日本で長く続いてきた終身雇用制度は採用の前提ではなくなり、ジョブ型雇用や役割給制度を採用する企業が増えている。いまや高度な専門性を持つIT人材の獲得や育成は人事部門に任せておけば良いというものではなく、企業全体が「人的資本経営」と連動する人材採用・育成を戦略的に進める必要がある。ガートナーのシニア ディレクター/アナリスト 一志 達也氏が、人材の新常識を基に、人的資本の投資対効果を最大化させる方法を解説する。
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人的資本経営には一体何が求められるのだろう
(出典:ガートナー(2023年11月))

「人的資本経営」に欠かせない人材戦略とは

 「組織運営の中で、人間に関する問題が非常に大きいものになってきています。ビジネスの成功を目指すためには、個人プレーだけではなく、チームの総合力を高め、勝てる戦略を考えてプレーすることが重要です」と語るのは、ガートナー シニア ディレクター/アナリスト 一志 達也氏だ。

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ガートナー シニア ディレクター/アナリスト 一志 達也氏

1ページ目を1分でまとめた動画
 一志氏によると、人材戦略とは「チームの総合力をどうやって高めるか、どのような人材をこの先に必要とするかから始まり、それをどうやって育てていくのか」であるという。

 昨今では多くの企業・組織が「人的資本経営」の重要性を認識している。経済産業省の定義によると、人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方である。

 そこで、一志氏は、人的資本経営のアイデアがまとめられている「人材版伊藤レポート2.0」(経済産業省)における人材戦略に必要な「3つの視点」を挙げた。

  • 経営戦略と人材戦略の連動
  • Asis-Tobeギャップの定量把握
  • 企業文化への定着

「人的資本経営を行うには、経営戦略と人材戦略を一致させることが必要です。その主要な役割を担うのがCHROという役職者であり、CHROは従来言われる人事部長とは異なり、経営者の一員として振る舞うことが求められます」(一志氏)

 主眼をITに置くと、IT戦略を経営戦略とつなげて実現する人材戦略が求められ、CHROがいない組織では人事部長と連携してITにおける人材戦略の実現に協力してもらうことになるという。

 そのためにはまず、「経営戦略の理解」が重要となり、会社は何を目指しているのか。何を優先して取り組んでいるのかを理解し、それに紐づいたIT戦略を策定する必要がある。

「経営戦略とIT人材戦略が連動しなければ、最終的に皆さんが採用して育成した人材が活躍する場所がない状況が訪れます」(一志氏)

 その上で、「多くの日本企業はこれまで中途採用に関して消極的、あるいはメンバーシップ型雇用・終身雇用を前提とした企業文化を作ってきました。人材版伊藤レポートでは、新しい企業文化を構築し、それを定着させる必要性を説いています」と説明した。

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人的資本経営を行うには、経営戦略と人材戦略を一致させる必要がある
(出典:ガートナー(2023年11月))

ジョブ型雇用が人材戦略の入り口に

 次に一志氏は、人材版伊藤レポートで掲げられている「人材戦略に求められる5つの共通要素」を挙げ、「いわゆる役割定義(ジョブ型雇用)が今後さらに重要となり、より細分化した解像度の高い役割を定義していかなければなりません」と強調した。

  • 動的な人材ポートフォリオ
  • 知・経験のD&I
  • リスキル・学びなおし
  • 従業員エンゲージメント
  • 時間や場所にとらわれない働き方

 その一例として、データ分析に関する役割を挙げた。データエンジニア、データサイエンティストなどデータ分析関連のポジションが多様化している現状では「ゼネラリスト=何でも屋」では対応できないという。

「まずは『誰が何をするのか』という明確化から始めてみることが大切であり、これが人材戦略、人的資本経営の入り口となります」(一志氏)

 続いて、一志氏は必要な人材戦略を作る際に出てくる「Asis-Tobeギャップ」を埋めるためには人材を採用・育成する必要があり、その人材の種類には大きく「内製」と「外注」があると説明する。

 特に昨今、システム開発の内製化ブームが起きているが、「現状の不足分を埋める時には、必ずしも内製化である必要はありません」という見解を示した。

「強いチームを作る際は、自分たちに足りていない戦力を外部から補ってきても、教えを乞うても良いのです。ただし、すべて丸投げではなく、独力では難しいことへの助けを得る、つまり、競争優位の源泉や存在意義に関わらないところで頼ることも重要です」(一志氏)

 一志氏によると、必要な人材を内製(育成・採用)するか、外注するかについては、3種類の人材を定義して判断すべきだと説く。3種類の人材とは「社内人材(業務知識・社内人脈が豊富:育成する余裕がある)」「有期契約社員(条件が自社の制度と合わない、永続的な活躍や役割の存続に懸念がある)」「社外人材(技術・経験、緊急度が高い)」を指す。

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3種類の人材を定義することで、どのような判断ができるのだろうか
(出典:ガートナー(2023年11月))

 そして、「高度な人材ほど役割を明確にし、組織のどこでどのように働き、どのような成果を求めるかを組織と人材の間で合意しておく」こと、「人材の成長度合いや成果に応じて、本人の望む報酬を与える」こと、「適正に評価する仕組みと同時に報酬面を含めた制度を整備する」ことなどが必要だと述べた。

 さらに「まずは理由付けをしっかりと考えてほしいです。戦略的にIT人材の選抜や育成をしていくことがとても重要です」と念押しした。

“選ばれるため”に企業が理解すべき人材像

 次に一志氏は、適切な人材戦略や人材ポートフォリオを策定してギャップを埋める際の重要なキーワードとして「選ばれる会社」を挙げた。そして、そのために理解しなければいけないのが「人材の多様化」であると説明する。

 一志氏によると、これまでの一般的な人材像としては「終身雇用を前提とした安定志向/大企業、有名企業なら安心」という“勤め先選び”や、「総合職として複数の部門や勤務地を経験したのちに昇進していく」という“キャリアパス”、「年功序列、役職で変化して実績での変動は小さめ」の“給与”などのイメージがあったという。

 ただ、IT人材が多様化する中で、現在の人材像の中には勤め先選びの条件として「転職を前提とした成長志向を持ち、成長性、挑戦的、共感を優先する」という人も多くいる。また、「役職をむやみに求めない、管理職にはなりたくない」ことや、「専門性を突き詰めていくと管理職以上の給料がもらえる」ことが当たり前となったのが現在であると指摘する。

 その上で「個人の矜持としてプロのプレーヤーとして、どのような成果をどうやって残すのか、自身の強みと弱みを知り、活躍の場を求め、能力を高めるのは当然のことと捉えてほしいです。また、雇用側もそうした人材に活躍してもらうための用意をすべきで、組織も個人も覚悟が求められています」と語る。

 「プロの人材を入れて強いチームになるためには、募集の仕方も変えていく必要があります。ぼうっと採用募集をかけているだけでは人は集まりません」(一志氏) 【次ページ】優秀な人材を逃す「運頼み」な採用の特徴
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