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2023年12月末、ニューヨーク・タイムズがOpenAIとマイクロソフトを著作権侵害で訴える訴訟を起こした。著作権で保護されている同社の記事がAIのトレーニングに無許可で利用されただけでなく、オリジナル記事の「丸写し」が生成されたと主張し、同社のコンテンツを含むAIモデルとデータセットの破棄を要求している。ChatGPTはなくなってしまうのか。生成AI業界に与える影響は甚大だという本訴訟の現状と注目点を探ってみよう。
ニューヨーク・タイムズが訴訟するに至った背景
2024年も「生成AI」に関連する話題が目白押しだ。特に2023年12月27日のニューヨーク・タイムズによるOpenAIとマイクロソフトを相手取った
提訴が、今後の生成AIと著作権の関係を形作る動きになるとして特段の注目を集めている。
著作権を巡っては、これまでもOpenAIに対していくつかの訴訟が起こっているが、一部の法律専門家らによると、今回のニューヨーク・タイムズによる訴訟が最も強力なものであるという。
もし裁判になり、判決が出た場合、その判決に関わらず生成AI業界は大きく変わることが予想される。もしニューヨーク・タイムズが勝訴した場合、OpenAIを含むAI企業はアルゴリズム開示が求められる可能性があり、これによりビジネスが大きな影響を受けるとされる。一方、OpenAIが著作権侵害の主張を退けた場合、大規模言語モデルの開発がさらに大きく進展する見込みだ。
ニューヨーク・タイムズは、OpenAIと同社株式49%を保有するマイクロソフトが、ニューヨーク・タイムズの著作権で保護されたコンテンツを使用し、GPT-4のトレーニングを行ったと主張。また、このGPT-4がChatGPTやBing Chat/Copilotのベースとなり、著作物を拡散、ときにはそのままの形で表記したと述べている。
また、これに伴い、本来ニューヨーク・タイムズが得るべきだった利益が毀損したとも主張している。
その上で、ニューヨーク・タイムズは「著作権で保護されたコンテンツを含むすべてのAIモデルとデータセットの破棄」を要求、また今後のスクレイピング行為の差し止め、利益返還、弁護士費用の支払いを求めている。
さらに裁判は、判事による裁判ではなく、陪審員による陪審裁判の開催を求めている。陪審裁判とは、一般市民から選ばれた陪審員が裁判判決に参加する裁判形態。一般市民で構成される陪審団は、技術的な詳細や法律的な観点よりも、倫理や道徳的な観点から判断を下す傾向があり、また公衆の意見や感情を反映する場合が多く、社会的関心を集める事案においては原告側に有利に働くことがあるといわれている。
OpenAIの「反論」の論拠はどこにあるのか?
このニューヨーク・タイムズの主張に対しOpenAIは全面的に争う姿勢を見せている。
OpenAIは2023年1月8日に自社サイトで、ニューヨーク・タイムズの主張に対する
反論を公開。AIトレーニングにおけるデータ利用は、著作権侵害ではなく「公正な利用(fair use)」にあたると主張、またデータがスクレイピングされないように設定できる「オプトアウト」を提供している点を強調した。
さらにニューヨーク・タイムズの主張の核心となっているコンテンツの「丸写し(Regurgitation)」に関しては、まれに起こるバグであり改善に取り組んでいると主張。また、この問題に関して、OpenAIはニューヨーク・タイムズがすべてを明らかにしていないとも述べている。
米国では一般的に、訴状の提出後、被告側の答弁書の提出、事前審理、証拠開示、和解交渉、裁判、そして判決という流れになる。今回、裁判になる前に和解となるのかどうかも注目点の1つだ。
【次ページ】GPT-4の著作権侵害主張の根拠を示す「証拠品J」
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