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- 2023/11/16 掲載
ウーバーCEOらが驚きの行動、“現場を知る”ため変装まで? 米国で広がる「ボス潜入」
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
世界で絶大人気の「アンダーカバー・ボス」
そのようにして失われた共通体験を再びつくり上げ、CEOと社員を等しく初心に帰らせる。これが『アンダーカバー・ボス』の人気の秘密だ。英国で2009年から放映され話題になった後、米国や日本、フランスやドイツなど、地元のCEOが出演する各国版が制作され、成功を収めている。
たとえば、カジュアルレストランチェーンの米ボストンマーケットを取り上げた米国版(2013年2月放送)では、実在する青年ウェイターのロニーが、自分と共に働く「レイチェル」に対して、「世の中で1番キライなのは、客だよ。めちゃくちゃ嫌いだ」と本音を吐露してしまう。
だが、実のところ「レイチェル」は、CEOによって送り込まれたブランド担当役員のセラ・ビットーフ氏だったのだ。ビットーフ氏はロニーに自分の身分を明かした後で、「私たちの仕事は、お客さまのおかげで成り立っているの。この仕事は、本当にあなたに向いているのかしら」と諭して内省を促し、最終的には解雇した。
ただしこのようなエピソードは例外だ。多くの放送回ではCEO自らが覆面調査し、問題があれば改善を命じるなど徹底的に指導するが、叱った後はヨーロッパ旅行など気前の良いボーナスをプレゼントし、やさしさも見せるところもウリである。時にはCEOが奇抜でおかしな変装をするため笑いを誘い、高視聴率をキープしている。
このように『アンダーカバー・ボス』は、経営者と従業員の距離を縮めることで自社の課題を特定し、そして従業員とのコミュニケーションによって経営の初心に立ち帰る。さらには、番組で自社のイメージを高める広報効果も狙えるのだ。各国版ともリアリティーショーであるため、一部はヤラセだが、台本にはないハプニングも起こり、CEOもいろいろ苦悩して解決策を模索するのが評判の秘訣だ。
一方、米国では“リアリティー番組”ではなく、アップルやウーバー、スターバックスなど大企業のCEOが実際に現場に出て働く“リアルな”姿が紹介され、話題になっている。
【アップルCEO】まさかの「問い合わせ対応」
CBSは9月17日、テキサス州オースティンのキャンパスを視察するアップルのティム・クックCEOの様子をとらえたドキュメンタリーを放映した。この中でクック氏は、従業員と交わりながら、一緒に自撮り写真に納まるなどコミュニケーションを図った。さらに、iPhoneの買い替えを考える女性顧客からの問い合わせ電話に対し、次のように対応した。
「(現在のiPhoneより)もっと大きな画面がいいんですか。なるほど。じゃ、専門家(コールセンターの従業員)に代わりますね。お話しできて良かったです」
この通話の後で、当時発売が間近に迫っていたiPhone 15を勧めたのかと聞かれたクックCEOは、「いや、実はしなかったんですよ」と答えた。この動画で映し出されるのは、クック氏の来訪を喜ぶ様子の従業員たちと、出しゃばらずに「専門家に代わります」と顧客に告げ、社員の職務・職域を尊重するトップの姿勢だ。現場の空気を体験し、士気を高める姿勢は素直に評価されて良いだろう。
こうした動きはゆっくりと広がりを見せている。 【次ページ】スタバやウーバーのCEOらが「現場」に立つ思惑とは
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