• 2006/11/28 掲載

【岡部敬史氏インタビュー】殺人事件2.0!? ミステリー小説でネットの潮流を読み解く(2/2)

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情報発信者になる障壁をとりのぞくWeb2.0

Web2.0殺人事件
岡部敬史氏
――『現代用語の基礎知識 2007』(自由国民社)で、「ブログ・SNS」の項の用語解説を書かれたそうですね。相変わらず変化の激しいインターネット界隈は、これからどうなるとお考えですか。

岡部敬史(以下、岡部)■
 「これからネットがどうなるか」というより、「こうなってほしい」と僕が思うのは、やっぱり「もっとみんなが参入してほしい」ということに尽きますね。「Web2.0なんて、さっぱりわからん!」って思っていたおじちゃん・おばちゃん・子どもとかが、ネットに書くようになっていけば、より面白いことになると思うんです。

これまで、ウェブサイトを作るというのは、それなりの技術が必要で、発信者になるには障壁があったんです。でも、Web2.0によってその障壁がなくなると、ネットでの意見というものが、一般化するんです。これまでは、たとえばネットに強い30代の男性とかだけの意見ばかりがネット上に出ていたりしたのですが、Web2.0の普及でいろんな意見が出てくるようになるわけです。

いろんな人が発信するようになると、情報の価値が向上して、質のいい、面白かったり役立ついろんな情報が手に入るようになる。それは、世の中にとって良いことだと思うんですよ。

他のメディアって、「ブログ炎上」とか「個人情報流出」とか、インターネットの危険性やネガティブな部分を、わざとクローズアップして書いていることが多い気がするんです。僕はそのイメージを中和したいんですよ。これからネットを始める人が怖がらなくて済むように、インターネットの「良い部分」というか、ポジティブな部分を意識的に書こうとしています。

ネットって、危険がないとは言いませんけど、普通に使っていれば、そんなに危険な目には遭わないんですよ。あえて危険に曝されるようなことをすれば別ですけど。それは、車に乗っていて、わざと危ない運転をしているのと同じことです。そういった危険な部分だけを強調する風潮はどうかと思いますね。


――ただ、怖くないとはわかっても、いざブログを書くとなると、何を書けばよいのかわからない人は多いと思うんです。

岡部■
 ミクシィの日記なら、「友人のみの公開」もあるので、ハードルが低いですよね。いきなりブログで全世界に向けて発信することに抵抗がある人は、そこから始めてみるのもいいと思います。別に「みんなが世の中に対して、ものを言わなければいけない」というわけではなくて、ミクシィの日記で止まっても別にいいんですよ。

そこから「もっと何か言いたい」と思うとか、元から「いろんな人に何かを言いたいけれども手段がなかった」という人は、「ネットでものを言うのは技術的に難しいことだと思っているかもしれないけど、実は簡単なことなんですよ」と、知ってもらえたらと思いますし、『Web2.0殺人事件』がその一助になれば嬉しいです。


Web2.0時代のメディアリテラシー

Web2.0殺人事件
Web2.0殺人事件

――書きたいことがあっても、文章を書くのが得意でない人もいます。出版に長年たずさわってこられた目から見て、一般人が書くブログの文章というのはいかがですか。

岡部■
 「文章の素人だからどうこう」ということはまったくないですね。ただ、メディアリテラシーの問題はあります。たとえばこの前、テレビのクイズ番組で優勝した少年が、「予選の筆記試験でカンニングをしていた」とミクシィ日記に書いていたことが発覚して騒がれたことがありました。あるいは、未成年なのに「お酒飲んで酔っ払った」と書いてしまうとか。そういうのを目にすると、「書くべきでないことがわかってないな」とは思いますが、素人が書くから内容が面白くないとかいうことはないです。


――岡部さんは編集者でもありますよね。ネットの普及によって、出版の危機が言われていますが。

岡部■
インターネットが流行ることによって雑誌が廃れる、というのはある程度はあるでしょうね。でも、ネットには「編集」の代替行為があまりないんですよ。だから、編集者がいる出版には、依然として存在価値があるわけです。

むしろ、ネットの出現で表現する場の選択肢が増えたのは、いいことだと思います。だから僕はこれから、面白いブログを書いている人の出版プロデュースなんかもやりたいなと思っているんです。ブログの文章をそのまま本にしても、あまり意味があるとは思えないのですけど、編集者がまずブログを読んで、「この人にこういう本を書いてもらうと面白いんじゃないか」とブログの作者に提案することによって、これからどんどん面白い本は出てくると思うんですよ。

これからネットの新しいサービスがいろいろと普及すると、ますますテクノロジーの話ではなくなっていって、人間の密な交流が出てきます。「インターネットを使っている」という意識が特別なものでなくなってくると、絶対会わなかったであろう人どうしが出会って、そこに何らかのドラマが生まれる。そういう、インターネットを使った生身の人間の話が、もっと出てくると思いますね。

(執筆=茂内克彦

●著者紹介
岡部敬史(オカベ・タカシ)
エディター/ライター。
宝島社で編集者として多くのムックを手がけた後、現在はフリーでネットからサブカルチャーまで幅広いテーマを中心に活動している。
著書に『ブログ進化論』(講談社+α新書)、『Web2.0殺人事件』(イースト・プレス)がある。
公式サイト:岡部敬史の編集記

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