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  • 2023/02/05 掲載

世界4位「サッカー超強豪国」ベルギーの人材育成はどこがスゴいのか?

連載:トップアスリートの仕事哲学

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カタールW杯にも出場した、FIFAランク世界4位のサッカー強豪国 ベルギー。そのベルギーの一部リーグ「シント=トロイデンVV」でユースの育成やクラブのフットボール戦略を手掛ける髙野剛氏は、日本人で初めて欧州最高位の指導者ライセンスを取得するキャリアを持つ。現地で選手育成に携わる髙野氏だからこそ知る、ベルギー流の人材育成術について話を聞く。
聞き手・執筆:吉田育代、聞き手・構成:編集部 髙橋諒

聞き手・執筆:吉田育代、聞き手・構成:編集部 髙橋諒

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サッカーベルギー1部リーグ
シント=トロイデンVV(STVV)
ヘッド・オブ・フットボール・ストラテジー & ディベロップメント
マネージング・ダイレクターオブユース
髙野 剛氏
サッカー指導者。2005年にサンフレッチェ広島F.C U15コーチ。2011年にアジア人初のイングランドプレミアリーグコーチ。2018年に日本人初のイングランドサッカー協会UEFA Proライセンス取得。2021年7月から現職。アカデミーの責任者として、フットボールフィロソフィーや戦略、選手育成の仕組みづくりを行っている
(Photo/©STVV)

メンタル面での指導の重要性

 サッカーにミスはつきものですが、選手としてはできるだけパーフェクトにプレーしたいという気持ちがあります。勝ちたいという気持ちが強くなればなるほど、パーフェクトにプレーしたいという思いが逆にプレッシャーになったりします。

 そのために自分たちの持っている力が出しきれないことが僕にとっては一番心配なので、ポジティブに、アグレッシブに、気持ちを持っていけるよう目先を向かせることに腐心しています。たとえば、U-21の選手がトップチームでの途中出場機会を得たとします。

 そのとき必要以上に力まずに、試合の中で特定の技術に集中してみるとか、1対1のマッチアップだけは絶対負けないと思ってやるとか、そういうことは将来的にも大事なことなので、意識してアドバイスしています。

若手指導、立場に応じた声掛けを

 育成年代の若手は3つのカテゴリーに分けられます。一つはU-7からU-18までの子どもから大人になっていく過程の選手たちで、現在280名ぐらいいます。

 次はU-21、極めてトップチームに近いBチームといってもいい選手枠で、約20名います。最後の一つは1軍でプロ契約をもって、たまにトップチームの試合メンバーには入ったり、入らなかったりする若手の選手たちで、これは5~6名います。

 指導で意識するポイントはカテゴリーごとに異なり、U-7からU-18で大事なのは、毎日元気に正しい生活しながら頑張り続けることです。児童・生徒でもあるので、人としての成長も重要です。普段のあいさつや感謝、謝罪といった社会生活も含めて総合的に指導しています。

 一方U-21世代は、自分たちが育成年代の最終節に来ていることを理解しており、実際いつトップチームから声がかかってもおかしくない時期にあります。しかし、ここで契約を勝ち取れなければプロへの道は断たれ、その後はアマチュアとしてサッカーをすることになります。

 U-7頃からサッカーを始め、U-21まで到達した選手たちは最大10数年プロを目指した活動を続けているわけで、そのあたりのメンタルケアにはかなり時間を割いています。彼らは隣の選手が上に上がっていく姿を見ると、自分にチャンスはめぐってこないのでは、と思い落ち込むときがあります。

 しかし、週末は試合があるので、準備しなければなりません。そういう彼らのメンタル面をきちんとサポートし、健全なマインドで毎日を送れるように、そして週末の試合に向けてモチベーションを維持できるように、少しずつジャブを打つようにサポートすることを心がけています。

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アカデミーでは、年代ごとの立場にあった指導を心がけているという
(Photo/©STVV)

 そして、トップチームで契約を持っている選手は大体プロ1~3年生で、彼らにはプロとしてあるべき姿や生活を説きます。ベンチに入れなくて腐る気持ちになりますが、強みはどんどん強くしていかなければなりませんし、弱みに関しても何らかのケアが必要です。成功からの逆算で気持ちのマネジメントすることが重要です。

 話を1時間聞いてあげるだけでもすっきりして帰っていくこともあるし、こちらから「こういう前例があるよ」「こういうところが求められているのだけどできてないよね」とこちらから言ったりします。

 最近は携帯でのコミュニケーションも多くなっているので、「元気?」「最近どう?」と連絡したり。ちょっと個別練習をしたり、話をしたり、質問したり、心のありどころを探りながら接していく、いわばメンター役ですね。

 僕がメンター役を引き受けるのは、クラブが育成型のクラブをめざしているからという理由もあります。クラブとして若手に投資をしている以上、何らかの取り組みをして成長の後押しをしていくべきだとシント=トロイデンVVでは考えています。実際、ちょっとしたアドバイスで、パフォーマンスをぐっと上げる選手もいます。

多様なバックグラウンド、重要なのは「マインドセット」

 ベルギーではさまざまな文化や価値観が混在しています。そんな環境において、重要なのはマインドセットです。われわれにとってこれが大事な価値観だ、ということをはっきり統一させることが重要です。

 特にチームとして戦うのであれば、同じ価値観を持って取り組むということは非常に大事です。ですから、いつもシーズンの始まりにはっきりマインドセットを行います。最終的に優秀な選手と判断する基準はこうです、その基準をもとにクラブに推薦しますと、U-15からU-21までの選手までには全員話します。その判断基準は、4段階のピラミッドから成っています。下から、マインド、体力、戦術、技術です(図1)。

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図1 マインドセットでベースとする4つの判断基準

 マインドで重要なのは、ハードワークとお互いをリスペクトする気持ちです。それらがなければ、いくら体力があっても100%チーム力を発揮できない。100%チーム力を出しきれなかったら、どんなに戦術を覚えていても意味がないし、戦術のトレーニングを怠ればいくら技術を持っていても発揮できない。そういうロジックです。

 ということで、一番下のマインドのハードワークとお互いをリスペクトすることができなければ、選手としては認めないし、週末の試合の選手選考もこれらが判断基準だよ、とは彼らにはっきり伝えています。

【次ページ】ベルギーの人材育成で見習うべき点
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