- 2005/12/22 掲載
『業界勢力マップ』の著者が語る!(2/3)
歴史と経済構造がわかれば
業界が見えてくる
-マップの制作はどのように進められたのでしょう?
[オバタ]まずは、取り上げる業界についての書籍を集めます。業界を概観しているものや、鋭いルポを厳選して読み、業界を大まかに把握します。次に、雑誌や新聞の過去記事をひたすら集め、年代別・分野別に整理して読み込んでいくわけですが、この分量は膨大ですよ。平行して、企業が出している社史などの資料や専門誌の情報も集めます。この際、インターネットはあまり使わないようにしています。企業の公式ウェブページを確認するくらいでしょうか。ネットの情報は、2次、3次情報や噂話が多いので、それに振り回されてしまうんですね。
『業界勢力マップ』は、集めた資料を元にしてほとんどの部分を作っています。誰でも手に入る資料ですから、手間暇かければ誰でもできますが、割が合わないので誰もやらないわけです(笑)。
マップを描く前には、まず業界の年表を作ります。そうすることで、その世界が見えてくるんですよ。業界の中では、新製品が発表されたり、特定の企業が勢力を強めたりとさまざまな事件が起こります。これらは、その業界がどうやって儲けているのかという下部構造と、明治時代、時には江戸時代から続く歴史的な過程が合わさって起きているのです。これはすべての業界にいえることです。
歴史的な流れを自分で確かめていくと、業界の感触がつかめてきます。そして、主な企業についてより詳細に調べていくうちに、「この業界の中心はこの企業だな」といった構造がモヤモヤと頭に浮かんできます。
例えばハンバーガー業界の場合、マクドナルドが業界を牽引してきましたが、その対抗軸としてモスフードサービスが常にありました。マクドナルドが低調になってきた結果、モスの高級路線が他社を引っ張っています。それならば、とりあえずマクドナルドを安売り系に置き、モスと対比させることで、その他の企業の位置づけが決まってきます。
-経済ジャーナリストのアプローチとはだいぶ違いますね。
[オバタ]知らない業界については、経済ジャーナリストの方にガイダンスしていただくこともあります。ただし、彼らはその世界に日々接しているため、意外と対象化できていないんですよ。取材対象は社長と広報ですし、働く個人の視点に立つことはありません。
僕の場合は、『会社図鑑!』の取材でも一般社員にしか取材しません。そうしないと、業界や会社を突き放して見られず、その業界が喧伝しているトレンドにからめとられてしまうからです。「そんなトレンドなんて初めて聞いたよ」というくらいのスタンスでいた方が全体像がよく見え、一般の人に伝えやすいという確信はあります。
-『業界勢力マップ』や、何千人もの社員にインタビューしている『会社図鑑!』のお仕事を何年も続けていると、日本経済の現状を肌で感じていらっしゃるのではないでしょうか。今の経済状況をどう見られていますか?
[オバタ]金融や商社については政府見解と重なる部分もありますが、それ以外、特に小さな業界については業界によってまったく違いますね。「日本経済」というとらえ方がいかに強引であるかということです。
元気のある業界として挙げられるのは、宅配便や人材派遣でしょうか。これは、規制緩和でいろいろなサービスが可能になったためです。中食業界の盛り上がりは、自宅で食べる節約志向、そして個食化の表れでしょう。デパートだけでなく商店街も含めて、市場が拡大しています。コーヒーショップ業界はやや曇りで、スターバックスは頭打ち感、ドトールは相変わらず調子がいいですね。元々この業界はドトールが作ったということもありますが、出店場所の探し方もうまい。
大手の総合商社に関していえば、鉄鋼や石炭など中国関連のエネルギー関連が伸びて最高益を更新しています。しかし、バブルを経験した社員に話を聞くと、いまだに「バブルの時代はよかった」としか言わない。給料も減ってはいないんですが、仕事が相当きつくなっているようです。
-『会社図鑑!』では、本当にいろいろな人にインタビューされていますね。
[オバタ]当初は、あらゆる年代の人に話を聞いていましたが、そのうちコツがわかってきました。まず、女性は自分の半径5mのことしかわかっていない人が多い。大企業に勤める25歳くらいまでの男性は、まだ仕事がわかっていません。
逆に、35歳を超えるとみな広報しゃべりになります。立場があるからというよりも、会社を語る上での思考回路が広報と同じになり、相対化できなくなっているようです。ですから、25から35歳くらいの男性に集中して話を聞くようにしています。この年代の男性は迷い、揺れていますから。
-匿名とはいっても、みなさん実によく話されています。
[オバタ]話すのを断られる方もいらっしゃいますから、そこでふるいがかかっているという部分はあります。話してくださるのは、お願いした方の1/3くらいでしょうか。お会いする場所にも気を遣います。
しかし、いったん話し始めると、愚痴やいろんなものがワーと出てきて、短くても2時間、平均で3時間くらいは話されます。
インタビューが終わると、みなすっきりした顔をして、10人に1人は「ありがとうございました」と頭を下げて帰って行かれます。けっきょく人間がいちばんエネルギーを使っているのは仕事じゃないですか。それなのに、これについて話す相手は、社内はもちろん、得意先でも無理、家族でもないし、友人でもイマイチ。意外といないんですね。だから、利害関係のないところで、自由に思っていることを言語化していく喜びがあるのだと思います。
PR
PR
PR