• 2024/05/31 掲載

アングル:アジアで進むドル離れ、米中対立が富裕層の背中押す

ロイター

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Paritosh Bansal

[29日 ロイター] - 香港に駐在する欧州系金融機関の富裕層資産運用担当者は先週、ある台湾の富豪に口座を開設してもらうために必要だった「きっかけ」を最近得ることができたと教えてくれた。それは、地政学リスクだ。

昨年、クレディ・スイスの経営危機が起きた後、この富豪はUBSとJPモルガン・チェースを資産の預け先にするとともに、3行目を探していたが、これ以上米国系との取引は増やしたくなかった。

同担当者によると、富豪の心配の種は米中両国の緊張がもたらす不確実性で、米政府が彼らのようなアジアの富豪に敵対的となったり、米銀が台湾事業撤退を迫られたりするのではないか、と考えているという。

近年、米中対立が深まるとともに、米国の関係者から再三聞いたのは、企業や投資家がいかに中国関連リスクの低減に取り組んでいるか、つまり彼らはサプライチェーン(供給網)強じん化を進め、中国との取引を減らしているなどという話だ。中国は無視、あるいは放棄するにはあまりにも大きな市場だが、「バックアップ」として「中国プラス1」の事業が求められると─。

しかし、ここ数日間に香港やシンガポールで十数人の銀行幹部や政府高官、投資家といった関係者に取材して回ったところ、リスク低減の熱意は全く同じだったが、その対象は中国ではなく米国であることがはっきりした。必要とされるのは「米国プラス1」なのだ。

先の台湾の富豪のようなアジアの金持ちは資産を分散化し、米国一辺倒にならないようにしている。各企業は米国以外の中東などでの資金調達を模索しつつ、東南アジアに工場を設立。同時にドル依存の縮小を検討中だ。

これらの関係者との会話からは、アジアにおいて地政学が投資判断に及ぼす影響力の大きさが分かる。不安が実際の行動につながる中で、世界経済の分断とその副産物としてのインフレ圧力の高まりも浮き彫りになってくる。

一方で、世界経済と国際金融資本市場におけるドルの支配的地位を踏まえれば、いわゆるデカップリングが完全に実現する公算はもちろん乏しく、分断が進むにしても何年もかかることがはっきりしている。

アジアのある有力バンカーは、この地域の企業と投資家は依然として、最も厚みがあり流動性の高い米国へのアクセスを望んでいると明言した。

とはいえ、関税や制裁措置などを通じた米中の摩擦はエスカレートしており、アジアの関係者の対応も急を要する。

シンガポールに駐在するバンカーは、ドルに代わる取引通貨を話題にする場合、以前なら念頭に置かれたのは20―30年という期間だったが、今は10―15年前後だろうと指摘した。

ロシアのウクライナ侵攻後に米国が発動した制裁を通じて、西側当局が紛争時に資産を差し押さえる可能性があることも痛感させられた。このバンカーによると、米国の債務の持続可能性を巡る懸念も加わり、人々の間で「なぜ、ドル建て資産を持ち続けなければならないのか」との疑問が広がっているという。

そうした疑念は、国際通貨基金(IMF)のデータからも透けて見える。世界の外貨準備高に占めるドルの比率は60%弱あるものの、準備通貨の分散化が徐々に進行してきているからだ。

国際銀行間通信協会(SWIFT)のデータでも、ドル建ての金融取引比率は84%に上る半面、中国では人民元が初めてクロスボーダー取引で最も広く利用される通貨に躍り出たことが分かる。

アジアでのドル依存脱却の動きは増えている。例えば、中国と香港、タイ、アラブ首長国連邦(UAE)の各中央銀行は、金融機関が取引を自国通貨建てで決済できるシステムを開発中で、今後進展すればより多くの中銀の合流が期待される。

さらに中国の企業は資金調達先として中東などに目を向けている、とグローバルクラスの銀行で中国を専門とする投資銀行業務に従事する人物が明かした。

この人物が一つの例として挙げたのが、新興電気自動車(EV)メーカー、蔚来汽車(NIO)がアブダビ首長国の投資家から22億ドルの追加出資を取り付けた件で、かつてならこうした取引は米国で進められただろうとの見方を示した。

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