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2020年12月、日本自動車工業会(自工会)の会長を務める、トヨタの豊田章男社長が記者会見で、国内すべての車が電気自動車(EV)になったと仮定すると、電力供給や充電のために、原子力発電所10基分に相当する発電能力の強化が必要になるという趣旨の考えを示し、話題になった。それからおよそ2年、岸田政権で原子力発電を推進する動きもある今、EV普及に伴う電力設備増強は本当に必要なのかを改めて考えたい。
豊田章男社長の発言を考える
日本自動車工業会の豊田章男社長は、2020年12月の記者会見において、「すべて電気自動車(EV)になるとどういうことになるかを試算した」とし、「国内での年間の乗用車販売(約400万台)がすべてEVになり、保有台数(現状6200万台規模)もすべてEVになると、電力ピーク時の発電能力は現状より10~15%増強する必要がある」とした上で、「その能力増は、原子力発電だと10基、火力発電だと20基程度に相当する」と述べた。
加えて、EV普及に伴う充電設備については、14~37兆円のインフラ投資が必要で、EVに搭載するバッテリーの供給能力は現状より約30倍(設備投資額は約2兆円)、EVの完成時に充電する必要電力は1家庭で1週間分の消費分に相当するなどの試算結果も明らかにした。
この発言について、検証してみよう。
豊田社長が、どのような数値を基に試算したかは知る由もない。だが、たとえば東京電力の柏崎原子力発電所の1基あたりの出力は、110万~135.6万キロワット(kW)である。出力に幅がある理由は、110万kWが沸騰水型軽水炉で、135.6万kWは改良型沸騰水型軽水炉であり、改良された原子炉のほうが出力は高くなっている。
関西電力では、大飯発電所がそれらに近い118万kWである。以上は国内の代表例だが、既存の原子力発電所の出力は、110万kW規模と見当をつけることができる。それが10基となると、総発電量は1100万kWになる。
国内における1日の消費電力量は、2001年に最高に達し、以後、やや低下傾向となり、2022年1月には1億5100万kWであった。その1/10(10%)は、1500万kWになる。豊田社長が述べた、既存の原子力発電の10~15%という性能とほぼ一致する。
次に、EV1台当たりのリチウムイオンバッテリー容量は、車種により幅があるものの、たとえば日産リーフの標準車の場合、40kWh(キロ・ワット・アワー)である。仮にそれを基に、発電能力を増強した分で満充電にできるEVの台数を試算すると、割り算によって27万5000台と計算できる。これは、国内保有台数6200万台(豊田社長が語った現状)の0.4%にあたる。
この試算が、豊田社長が試算した数値と条件で一致するかどうかはわからない。しかし、国内保有台数の6200万台がすべてEVとなったと仮定し、その充電に必要な電力量が1日の最大使用時間帯に不足し、発電所の増強が必要だとの警鐘は、その超過電力量がEVにして1%以下の台数であったとしても、念頭に置いておく必要があるだろう。
ただし、保有台数のすべてがEVになる時代は何年後だろう? それに備え、準備を始めればよいという話であり、今、衝撃として捉える必要はない。
また、たとえば、
VPP(バーチャル・パワー・プラント)が実行されれば、発電所の数を減らすことが可能かもしれず、EVの充電に必要とされる余剰電力は、駐車場に停車中のEVから供給を受け、電力ピーク時をしのぐこともできるかもしれない。
すべての車がEVになったとき、充電設備にはいくらかかる?
次に、すべてEVになった際の充電設備として、14~37兆円の社会基盤整備が必要だとの説について考えたい。これも、急速充電器と普通充電機では1基あたりの設備投資額が異なる。急速充電器は1基あたり600万円相当の費用がかかるとされ、普通充電器であれば20~40万円ほどで、200VのEV用コンセント設置だけなら10万円前後だろう。
国内の保有台数6200万台すべての200Vコンセントを一例とすれば、1つ10万円として6,200億円になる。600万円の急速充電器で考えるなら、233~616万基の設置と計算できる。
既存の充電器の設置は全国で2万弱の拠点数であり、このうち急速充電器は7900基以上、100Vを含め200Vの普通充電器は1万3000基以上となっている。
ガソリンスタンドの軒数には及ばないが、バブル経済期に過去最大で6万軒あったガソリンスタンドがすでに3万軒を割っているのに対し、徐々にではあるが、充電器は増加している。一部で充電機の数が減っているとの報道もあったが、それは、経済産業省の補助金政策のなかで、利用が限られると考えられた場所へも設置が進められたためだ。現状の充電器数に対し、EVの新車販売における市場占有率は、国内でまだ1%を切っている。
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