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人間とAIはどちらが優秀なのか。しばしば議論になるテーマだが、人間の店長とAI店長をコンビニ経営で対決させた企業が中国にある。中国のコンビニチェーン「便利蜂」(ビエンリーフォン)は、わずか5年で2800店舗を展開する成長ぶりを示した企業だ。同社の強みは、自社で開発したAI意思決定システムによる徹底したデータ駆動経営にある。だが、その成長が頭打ちとなり、「未来型コンビニの限界到来」をささやかれる事態に陥っている。背景にある、コンビニ業界だけでない産業界全体の難題とは。
未来型コンビニを運営する高度IT人材集団「便利蜂」
中国では2017年頃から無人コンビニビジネスが投資家から注目され、起業ブームが起きている。コンビニというビジネスは、売り上げは大きいのに、運営コストも高いために利益は薄い。「無人化をして運営コストを低く抑えれば利益が出る」というのが無人コンビニの発想だ。
さまざまな企業が挑戦したが、コンビニを真の意味で無人化することはできなかった。商品の搬入をはじめとする商品管理は人がやらざるを得ないからだ。
2016年に創業した便利蜂(ビエンリーフォン)も、店舗運営コストを抑えて利益を出すという狙いは同じだったが、無人コンビニよりも現実的な解を追求した。レジはセルフレジまたはアプリによるセルフ決済で、店舗スタッフは1人以上常駐するが接客はせず、商品管理に専念する。そして、業務効率を極限まで高めるため、すべての意思決定をAIアルゴリズムにより行うという徹底したデータ駆動経営を行っている。
こういった経営方針から、便利蜂社内では定期的に数学の試験が行われる。内容は大学レベルの高等数学で、あくまでも希望者のみだが、この試験に合格しないと上位の職位に就くことはできない。さらに、百度(バイドゥ)、美団(メイトワン)、ケンタッキーフライドチキンなどから、データサイエンスやAIのCTO(最高技術責任者)級人材をスカウトしていった。
「人間店長 vs AI店長」対決から得た結論
便利蜂は、こうして生まれたAI意思決定システムと人間店長の店舗運営対決を実施した。セブン-イレブンなどで店長経験がある10人に経営データを渡して1人1店舗を任し、1週間をかけてSKU(商品品目)を10%削減するという内容だ。
結果は、人間店長は平均して売り上げが5%低下した。しかし、AI店長は0.7%しか低下しなかった。つまり、AI店長はコストを下げながら、以前の売り上げをほぼ維持したのだ。利益は大きく増えたことになる。
この実験により、便利蜂はある結論を得た。それは「人間が意思決定に介在すればするほど業務効率は確実に低下していく」というものだ。ここから便利蜂の徹底したデータ駆動経営が始まった。
徹底したデータ駆動経営による店舗運営の仕組み
多くのコンビニと同じように、便利蜂の店舗には倉庫はなく、搬入された商品はすべて指定された商品棚に直接並べられる。発注は、搬入時に商品棚の空きがどの程度になっているかをAIが予測して行う。それも単なる売上数だけでなく、季節、気温、周辺のイベント情報なども考慮した機械学習モデルが使われている。
また、段が複数ある商品棚では、売れるものを消費者の目につきやすい上段に、動きの悪い商品は下段に入れ替える作業が行われる。これも単に販売数で判断するではなく、それぞれの商品の利益率を見て、AIが利益を最大化する商品棚の配置を考える。
しかし、商品棚の配置換えが必要だと判断されても、AIはすぐには店舗スタッフに指示は出さない。配置換え作業の時間には標準時間が定められているからだ。作業に必要な人件費コストを勘案し、店舗の総合的な利益を増やすのであれば配置換えを指示するが、利益を減らしてしまうのであれば指示を出さないという仕組みだ。
AIがすべて「利益を最大化できるかどうか」という観点で判断し、必要な作業を店舗スタッフに指示をしていく。
【次ページ】店舗スタッフの本音が物語る、AIが全決定権を持った末路。「私たちはアルゴリズムの奴隷です」
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