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  • 2022/02/16 掲載

強すぎる「日本テレビ」と返り咲けない「フジテレビ」、2社の決定的な違いとは?

【連載】エンタメビジネスの勝ち筋

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2021年の年間個人視聴率ラインキングで日本テレビが11年連続「三冠王(全日、ゴールデンタイム、プライムタイムのすべてで在京放送局5社のトップ)」を獲得しました。朝の情報番組「ZIP!」や「世界の果てまでイッテQ」、「ぐるぐるナインティナイン」など、人気番組での安定した視聴率獲得が結果につながっているようです。このように、日本テレビ1強時代になる前、放送業界最強の座に君臨していたのがフジテレビです。なぜ、フジテレビは転落し、日本テレビの独走を許してしまったのでしょうか。それは、フジテレビと日本テレビの「マーケティング戦略」の違いにあります。本記事では、フジテレビと日本テレビの戦略の違いを徹底解説します。
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図表1:1980年~2021年までのフジテレビと日本テレビの首位攻防戦
(出典:「日本テレビの『1秒戦略』」岩崎達也 著(2016),小学館,P32、視聴率三冠王発表データを元に筆者作成)
 

フジテレビと日本テレビ、2強時代の終焉

 2011年から11年連続「三冠王」を達成した日本テレビですが、それ以前の20年間、1980年代から1990年代まではフジテレビが高視聴率を独占し、1990年代から2010年代まではフジテレビと日本テレビとが首位争いを繰り広げてきた歴史があります(記事冒頭の図表1)。

 フジテレビと日本テレビが放送波で首位争いを続けていた1990年代後半から2010年までは、世界中でインターネットが急速に普及をした時期です。そしてこの20年間は、技術革新とともにマーケティングにも大きな変化がありました。

 この日本の放送局の首位争いをマーケティングの変遷で読み解いてみると、デジタルやネットワークを前提としたビジネスモデル革新を行わなければならない今、何をすべきかの大きなヒントが見つかります。

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なぜ、日本テレビは強いのか?秘密は番組コンテンツだけではなく、同社の「マーケティング戦略」にある?
(写真:西村尚己/アフロ)
 

マーケティング発展と共に成長してきた「テレビ放送」

 ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院SCジョンソン特別教授のフィリップ・コトラーは、マーケティングの変遷を、各時代の特徴に合わせて1.0から5.0までの5つに分類しています。

 コトラーによると「マーケティング1.0」は、製品中心の時代とされています(図表2)。産業革命により大量生産・大量消費を可能にする仕組みが整った時代、企業の目的は機能性の高い製品を開発・製造して大きく販売することにありました。企業にとっては、いかにコスト効率をあげるための資源管理を行い収益を増やせるかが重要なポイントでした。

 そんな製品中心の時代、メーカーとともに成長したのが広告ビジネスです。無機質な製品に物語性や人格を持たせるような広告、消費者が憧れるライフスタイルを製品とともに語り購買欲求を高める広告を、テレビや雑誌などのマスメディアに出稿し、生み出した製品を大量に販売する仕組みが生まれました。

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図表2:製品中心からデジタル・プロダクト時代のマーケティングへの変化
(出典:フィリップ・コトラー他(2010)『コトラーのマーケティング3.0 ソーシャルメディア時代の新法則』朝日新聞出版,P19 表1-1、フィリップ・コトラー他(2017)『コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則』朝日新聞出版を引用し筆者が加筆して作成)

 日本でテレビ放送がスタートしたのは1953年。テレビは国内製造メーカーの躍進を土台にした高度経済成長期に、製品中心のマーケティングとともに成長した産業です。家族がお茶の間で囲むようになったテレビが、「マーケティング1.0」における企業と消費者との交流チャネルとなり、「1対多数の取引」を支えたのです。

 テレビ局もまた、無形の「コンテンツ」という製品を生む製造業です。1966年に普及率0.3%だったテレビ受像機は、10年後の1976年には93.7%と驚くべきスピードで普及しました。同じ時代に普及した冷蔵庫や洗濯機と比較すると、その勢いが分かります(図表3)。

 テレビの普及と同時に、ドラマやバラエティー、歌番組といった「国民的」番組が生まれました。視聴率の測定が始まったのは1966年で、「世帯視聴率」つまりテレビを所有している世帯を単位として、各放送局のチャンネルがいつ、どのくらい試聴されるかを測定していました。

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図表3:耐久消費財の世帯普及率の変化(テレビ、冷蔵庫、洗濯機 1957年~1980年)
※数字データ出典:内閣府「消費動向調査」
(出典:帝国書院HP「耐久消費財の世帯普及率の変化」を参照し筆者作成
(最終確認日:2022年1月25日))

フジテレビ黄金時代のマーケティング戦略

 その後、日本がバブル経済に沸いた1980~1990年代、放送に「ブランド」という新たな価値が生まれました。製品を安く売るだけでは不十分となり、消費者にとって何が必要であるかを分析して「消費者を満足させ、つなぎとめること」が重要になる「マーケティング2.0」の時代に突入したのです。

 このバブル期に、在京放送局「三冠王」の座に君臨していたのはフジテレビです。月曜21時に放送される「月9」枠で、1980年代には浅野ゆう子さんや浅野温子さんに代表されるトレンディードラマ、1990年代には木村拓哉さん主演の恋愛ドラマが、特に若い女性が憧れる住まい、ファッション、職業を映像の中で見事に描いていきました。「月9」は若い世代が知っておくべきトレンドを発信する番組という認知が浸透して、主演する俳優や、映像の中に映し出される街、製品のステイタスが番組と一緒に高まりました。

 コトラーは、「マーケティング2.0」で注目すべきターゲットは、「マインドとハートを持つ、より洗練された消費者」だとしています。製品には、これまでのような機能的な価値だけではなく、「感情的価値」が必要になるということです。

 実際に、バブル時代のトレンドを発信する「ブランド力」のある「月9」のスポンサーには、コスメ、旅行、グルメといった感情をゆさぶる製品や企業が名を連ねていました。この時期のフジテレビは、この感情的価値に訴える製品(ドラマなど)に溢れ、在京放送局の首位に君臨できていたのです。

 ところが、消費者のニーズを分析するという消費者志向や、競合分析などを通じた差別化というポジショニング志向が欠けていたのかもしれません。次第に「マーケティング2.0」における消費者志向、ポジショニング志向、消費者との「1対1」の関係が重要視されるようになると、1990年代半ばには日本テレビが視聴率王者の座を奪還することになります。

 日本テレビはどのようなマーケティング戦略をとり、どのような番組を作っていったのでしょうか。

【次ページ】強すぎる日本テレビのマーケティング戦略

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フジテレビと日本テレビのマーケティング戦略の違いとは?(次のページで詳しく解説します)
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