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- 2022/01/07 掲載
CESで問われるイーロン・マスクのトンネルの実力、現地で見えた課題と普及の可能性
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稼働から9カ月、正念場を迎えたマスク氏発案のトンネル
イーロン・マスク氏が発案したこのトンネルの正式名称はラスベガス・コンベンションセンター・ループ。現在ラスベガスの北部にある3つのコンベンションセンターを結ぶ路線で、2021年始めに開通した通称「テスラループ」だ。現地写真は記事の後半で、体験レポートとともに紹介する。本来は2021年1月のCESに合わせて開通の予定だったが、新型コロナウイルスの影響でCESがオンラインのみの開催となったため、華々しいデビューイベントは行われず、開通も遅れた。
稼働開始から9カ月経ったテスラループが、今年現地開催が再開されたCESで1つの正念場を迎えようとしている。
というのも、ボーリングカンパニー(The Boring Company、以下TBC)とラスベガス市との契約で、「1時間に4000人の輸送ができなかった場合、TBCはイベントごとにラスベガスに対し30万ドルの罰金を支払う」という項目がある。しかしこれまではCES規模のイベントが行われず、マックスの状態での運用はなかった。
元々60台ほどのテスラ車両が投入され、コンベンションセンター・ウエストからセントラル、サウスをつないでいた。ウエストとサウスは地上駅で、間のセントラルのみが地下駅。つまり、ウエストからトンネルを通ってセントラル経由でサウスへ、地上で一周りする形でサウスから逆方向にウエストへという2つの路線がある。
デビューイベントでは1時間に4000人輸送を達成したが、このときはモデルXやSも投入され、1台に3人が乗車していた。しかし実際には1台に1人ないし2人が乗車することもあるため、その後は最大で1時間に1500人程度の輸送実績が続いている。
現在の輸送車両はモデルXとモデルYで、CESに照準を合わせて車両数を追加し、およそ70台が稼働している。さらに、開催直前からの新型コロナウイルスの変異型「オミクロン型」の流行により参加を断念した企業も多く、例年世界から20万人が集まると言われるCESだが、今年はその半分程度の規模になっている。
結果的に並ばずにすぐに乗れるし、快適なライドと言えるが、稼働の最大値の検証という意味ではやや物足りない結果でもある。
すでに次のルートも承認済み、ラスベガス市が賭けに出る理由
2021年4月の時点でTBCは早くもラスベガスに対し「グレーター・ループ」としてコンベンションセンターからラスベガス・ストリップのホテル、フットボールスタジアム、最終的には空港を結ぶ全長29マイル(約46キロ)のルートを提案しており、ラスベガス側も2021年12月にこれを正式に了承した。実現すれば世界初のトンネルによる地下鉄ではないユニークな都市交通網となる。なぜラスベガスは賭けとも言えるこの新しい公共交通機関の開設に踏み切ったのか。まず、コストの問題がある。TBCとの正式契約が行われて以来、完成までに要した時間は18カ月、総建設費用は5,250万ドルだった。
安くできる理由はウエスト駅の看板を見れば一目瞭然だ。看板には実際のトンネルにはめ込まれるプレハブのリングが利用されている。TBCの手法は地下を削岩したあと、このリングをはめ込んで一気にトンネルを完成させる。そのため完成までの時間も短く、コストも低い。
もちろんこれはコンベンションセンター間のループで全長わずか1.7マイル(約2.7キロ)のもので、グレーター・ループになると数字は跳ね上がるだろう。
しかし巨大なコンベンションセンターが3つ立ち並ぶラスベガスでは、人々をスムーズに移動させることが以前からの課題だった。コンベンションビジネスはラスベガスにとって一大産業であり、長過ぎる移動距離への不満解消が必要だったのだ。
たとえばミニモノレールなどの地上での移動機関の場合、建設費だけで2億5,000万ドルと桁違いの見積もりとなり、工期も長い。また、ラスベガスにはMGMグランドからコンベンションセンターまで既存のモノレールがあるが、赤字経営が続き2021年には破産申請が行われるなどの問題もあった。
【次ページ】ウーバーより低価格。タクシー/バス/地下鉄に比べ、ループの優位性は?
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