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カーシェアリングや電動キックボード、電動バイクなど移動手段(乗り物)を共有するシェアードモビリティが注目を集めている。中でも、日常の足として手軽に利用できるのが自転車のシェア=シェアサイクルだ。都内では、「ドコモ・バイクシェア」と「ハローサイクリング」の2社が多くの自転車、ポート(ステーション)を抱える。今回は、後発の「ハローサイクリング」がどのような戦略でシェアを伸ばしてきたか、運営のOpenStreet 執行役員COOの林亮氏、執行役員CFOの岸田高明氏に話を聞いた。
拡大中のシェアサイクル「ハローサイクリング」とは?
まずは、聞き慣れない方のために「シェアサイクル」について説明しよう。自転車の貸し借りというと「レンタサイクル」のイメージもあるが、レンタサイクルは、借りた場所に返さなければならない。一方で、シェアサイクルは複数の自転車ステーションで利用し、返却可能なサービスだ。たとえば家の近くから乗り、駅前や勤務先のステーションで返す、といった使い方もできる。
OpenStreetが運営するハローサイクリングの場合は70円/15分、1000円/12時間(東京都内の場合)で、電動アシスト付き自転車を利用できる(2021年11月時点)。ソフトバンクグループの社内制度「ソフトバンクイノベンチャー」から生まれた事業だ。
無料の会員登録が必要で、予約やステーションの検索はアプリから行う。利用時は、インターネットに接続するスマートロックを、発行されるパスコードや、SuicaなどのICカードで解錠する。
2019年3月時点での資料では、「ドコモ・バイクシェア、OpenStreetの2者で、システム提供者の約5割、自転車の約6割、ポートの約7割を占める」と記載されている。
「2021年10月現在、ステーション(ポート)数は関東だけで約3200カ所、全国では4100カ所に上ります。ユーザー数は非公開ですが、ユーザー数、利用頻度ともに毎月過去最高を記録している状況です」(林氏)
ユーザー数が右肩上がりで伸びている要因として、コロナ禍などによって、自転車そのものの価値が見直されてきていることを林氏は挙げる。
「平成30年には『自転車活用推進計画』も閣議決定され、中には、シェアサイクルの普及も盛り込まれています。コロナ禍で、デリバリーや密を避けた自転車通勤といった需要も生まれました」(林氏)
期待されるシェアサイクルの可能性、課題は採算性か
もっとも、シェアサイクルはまだまだ発展途上の交通インフラであり、課題は山積み。
シェアサイクルという事業全般に関して特に指摘されるのは採算性の問題だ。使いたいとき利用できない状態が続けば、ユーザーは離れていき、収益は上がらない。そうならないように、自転車の台数やステーション数を確保するための投資が必要だし、バッテリー交換や修理などのメンテナンス、自転車の再配置(駐輪台数が特定のステーションに偏らないよう調整する必要がある)などランニングコストもかかる。
実際、シェアサイクルの収支がマイナスになっている都市は少なくない。補助金で賄っているのが現状であり、この点は政府も
課題視している。
こうした声に対して、「社会がシェアサイクルを必要としていることは明らかで、だからこそ短期間でここまで普及した。採算を取れるか、取れないかは時間軸の問題」と林氏は語る。
現状では地域により、自転車の台数もステーションの数も不足しているが、これは過渡期であるためで、後述する拡大戦略も含めて設備の整備は解決可能だと、同社は見る。むしろ、「景観を損なわないように、また自転車転倒によるリスクに配慮して、ステーションに止められる台数に制限をかけています」(林氏)というように、目先の採算にとらわれない施策も重要だ。
また、利用料以外で採算を支える付帯収益は、シェアサイクル普及のカギになりそうだ。
「広告モデルをシェアサイクルに入れている事例もありますが、私たちは自転車の媒体価値を提供すると、自転車に乗る体験価値を高めたいと考えています。たとえば過去には、小売店とコラボレーションして、対象自転車に乗ったユーザーにドリンクをサービスするキャンペーンを行いました」(林氏)
「自転車に乗ることが単なる移動だけでなくなるような、新しい交通と経済の仕組みを作りたい」と林氏は将来を見据える。
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