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「奥さん、揚げたてから揚げ、1個99円ですよ」。TVプロデューサー、タレントのテリー伊藤の特大フィギュアが、店先で呼びかける。街で多く見かけるようになった、から揚げ専門店の中でも、特にここ1年店舗数を増やしている「から揚げの天才」。「和民」など数々の飲食店を手がけてきたワタミの運営するフランチャイズチェーンだ。ワタミ執行役員でから揚げの天才 営業本部長の分部 雅氏に取材し、華やかなプロモーションの裏に隠れた、ヒットのストーリーを紐解いていく。
フランチャイズ本格展開から1年で100店舗達成
「から揚げの天才」は、揚げたてのから揚げと、テリー伊藤氏プロデュースの玉子焼きを、イートイン/テイクアウトで販売する専門店だ。2018年11月、東京大田区に1号店がオープンすると、行列のできる繁盛店に。同社は、その後およそ1年半をかけて、フランチャイズモデルを開発した。
2020年4月時点では6店舗。その後フランチャイズ展開を加速し、翌年3月には92店舗まで拡大。7月には100店舗を突破した。
同社がうたっているのは「店舗面積約10坪で月商500万円を確保するフランチャイズモデル」だ。飲食店の月坪売上が20万円を超えれば繁盛店とされる中で、その倍以上の売上が見込まれる(月坪売上換算で50万円)。
コロナ禍で外食の機会が減り、テイクアウト需要が伸びたことは、業績好調を後押しした。しかし、前述の通り同社は2018年に事業をスタートしており、コロナはあくまで追い風のひとつだ。
からあげFCは飲食店の難題をクリアする
主に居酒屋チェーンを営んできたワタミが、なぜから揚げ専門店のフランチャイズ事業に参入したのか? 背景には参議院議員を1期6年つとめた会長兼グループCEO渡邉美樹氏の思いがあった。
「何一つ力を発揮することができなかった」
政治家の引退を表明した会見で、渡邉氏は悔しさをにじませた。政界でやり残したことのひとつが、中小企業および起業家の支援だ。渡邉氏は「社長を1000人つくりたい」と述べている。
同社の主戦場である飲食店は参入障壁こそ低いが、「3年で7割が入れ替わると言われる世界(分部氏)」。「事業継続」は業界がはらむ構造的な課題だ。これを解決するために、から揚げ専門店のフランチャイズは最適なモデルだという。
「から揚げの天才」は、から揚げと玉子焼きの実質2種類しかメニューがなく、フライヤーと専用の玉子焼き機だけあれば調理ができる。居酒屋や他の飲食店と比べ、圧倒的にコンパクトな設備、スペースで運営可能。飲食店のなかでも、少ない初期投資で開業でき、フランチャイズ向きのスタイルだ。
事業継続の点で大きいのが、調理や接客などのオペレーションがシンプルなことだ。未経験でもすぐに始められる上、メニューや商品が百~数千種類に及ぶ飲食店やコンビニなどと比較して、顧客満足を左右する要素が少ない。
要するに、「誰がやってもうまくいく可能性が高い」ビジネス。フランチャイズ本部が売れる仕組みさえ構築していれば、(フランチャイジー(加盟店)の経験やノウハウなど)不確定要素は少なく、比較的ダイレクトに店舗の売上に反映される。
また、から揚げはもはや「国民食」とも言うべき人気メニューだ。「から揚げの天才」の平均的な顧客は、月に3.9回来店するという。つまり、週に1度程度はから揚げを食べているのだ。
ブームが終わって閉店が相次ぐ「タピオカ」などとは、マーケットの大きさも、食生活への定着度もまったく違う。競合が増えても、安定した収益が見込める商材だ。
「コンパクトな店舗、設備」「シンプルなオペレーション」「安定したマーケット」。「から揚げの天才」が爆発的に店舗数を増やした要因を、ざっくり言えばこのとおり。
とはいえ、同じことは他店にも当てはまる。現にから揚げ専門店が乱立しているなか、「から揚げの天才」がヒットしているのはなぜか?
どうやら、35年間飲食チェーンを運営してきた経験が、強力な裏付けになっているようだ。
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