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書店でよく目にする「仕事/生産性ハック」という言葉。生産性向上を目指すビジネスパーソンたちによって日々さまざまな手法が開発されているようだ。一方、生産性ハック情報の発信源である欧米では今、生産性ツールへの過度の依存が生産性を低下させるのではないかという問題が提起され、生産性ツールに向き合う姿勢を再考しようという動きが起こっている。生産性を最大限に高めるには何が必要なのか。そのヒントを探ってみたい。
生産性ツール依存がもたらす生産性低下リスク
日本の「生産性」はOECD諸国と比較すると低く、どのように生産性を高めるのかという議論が長い間続けられている。この影響からビジネスパーソンの間でも生産性は注目されるトピックとなっている。
ビジネス書籍やビジネスメディアでは「仕事/生産性ハック」という言葉が所狭しと並んでおり、ビジネスパーソンの主要な関心事になっていることが見て取れる。
生産性とは、投入する労働量に対して産出される付加価値のこと。生産性を高めるには、大きく2通りある。1つは投入する労働力や時間を少なくしつつ、同じ量の付加価値を維持すること。もう1つは、同じ労働量でも、多くの付加価値を生み出せれば、生産性は高まることになる。
この状況は海外でも同じだ。むしろ生産性ハック情報のほとんどが欧米発であり、日本よりその歴史は長い。英語圏のビジネスパーソンの間で、どのような生産性ハックが流行っているのかを見れば、最新の生産性ハック情報を知ることができる。
そんな欧米では、生産性ハックに関して最近面白い視点が提唱され、物議を醸している。それは、生産性ツールを使うことが本当に生産性を高めているのかという指摘だ。
英大手メディアのBBCは2021年2月10日に「Why relying on productivity tools can backfire(生産性ツール依存が危ない理由)」と題した記事で、生産性への執着や生産性ツールへの依存によって、生産性が損なわれ、燃え尽き症候群などメンタルリスクが高まる可能性を指摘している。このほかにも、生産性ツールへの過度な依存が生産性を下げる可能性を指摘する論者は少なくない。
ツールが多すぎると生産性が下がる理由
経験的に、生産性ツールを活用することで作業効率が上がったと感じることは多々ある。しかし、ツールが多すぎたり、ツールの使い方を間違えると生産性は下がるリスクを内包している。
米メディアTechRepublicが2018年12月にホワイトワーカーのツール利用に関する興味深い調査レポートを
紹介している。
この調査は、Pegasystems社がオペレーションサポート業務を担う人々のデスクトップ利用アクティビティ500万時間を分析し、一般的なホワイトワーカーが1日にどれほどのツールを使っているのか、またどれくらいの頻度で各ツール間を移動しているのかを明らかにしたものだ。
同調査によると、オペレーションサポート業務の人々は1日平均35個のツールを使い、各ツール間を1100回も移動していることが判明。この間、コピー・アンド・ペーストの回数は134回、キーボードの打ち間違いは845回に上った。また、6分ごとにEメールを確認しており、Eメール確認時間は1日のうち13%も占めていることが明らかになった。結果、付加価値を生み出す作業の割合は23%にとどまるものだった。
35個のツールを使っているということは、マルチタスク状態にあるということ。マルチタスクが生産性を下げる可能性を指摘する研究は枚挙にいとまがない。
たとえば、ミシガン大学の研究は、タスク間を移動する度に、脳は毎回ゴール設定とタスクルールを書き換える必要があり、それには多大な時間コストが必要であると指摘。またスタンフォード大学の研究では、マルチタスクに従事する人は、シングルタスクを好む人に比べ集中力が短いことが示唆され、サセックス大学の研究ではマルチタスクが脳機能を低下させる可能性が指摘されている。
【次ページ】進化する生産性ツール、便利過ぎることが諸刃の剣に
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