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経済産業省は2020年12月28日、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速に向けた研究会の中間報告書「DXレポート2(中間取りまとめ)」(以下、DXレポート2)を公表した。2020年8月に立ち上げた「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会」と各ワーキンググループによる議論の報告書である。本稿では、DXレポート2に記載されている「企業が取り組むべきアクション」や「CIO/CDXOの役割再定義」「DX成功パターンの策定」などの要点をまとめる。また、企業が目指すべきデジタル企業に向けた展望を解説する。
DXレポート2とは何か?
DXレポート2 は、経済産業省は2020年12月に、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速に向けて設立された「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会」の中間報告書である。2018年10月に経済産業省が発表し、議論を巻き起こした『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』(以下、DXレポート)の続編にあたる。
前回、経済産業省が2018年に公表したDXレポートでは、老朽化・複雑化・ブラックボックス化した既存システムがDXを本格的に推進する際の障壁になるという意味で「2025年の崖」という表現により、警鐘を鳴らした。また、「2025年までにデジタル企業への変革を完了させる」ことを目指して計画的にDXを推進するように促してきた。
一方、DXレポートでは「DXとは、レガシーシステムの刷新を指す」という解釈を生んでしまうという状況もみられた。実際にはそれは本質ではないが、DXレポート2では、DXそのものを加速するための具体的な方向性を示した内容となっている。
具体的には、企業のDX推進状況についての現状認識と、コロナ禍で顕在化した本質的な課題を挙げ、企業の目指すべき事業変革の方向性やDXの加速に向けてた企業の段階的なアクションと関連する政策の方向性を示している。
DX未着手企業やDX途上企業など企業の状況別に、状況を踏まえ、企業が直ちに取り組むべきアクション、DX推進に向けた短期的、および中長期的な対応、政府の支援策などを示している。段階的にデジタル企業に変革するための「DX推進シナリオ」と位置付けられる。
以下では、DXレポート2の内容をダイジェストで紹介する。
DXレポート2が示す「DXへの取り組み」の現状
経済産業省では、これまで「DX推進指標」による自己診断の促進やベンチマークの提示による“企業内面への働きかけ”を進めてきた。また、「デジタルガバナンス・コード」や「DX認定」「DX銘柄」などでステークホルダーとの対話を促進して市場環境を整備する“企業外面からの働きかけ”なども両面から展開してきた。
しかし、情報処理推進機構(IPA)がDX推進への取り組み状況を調査したところ、2020年10月時点で回答企業約500社のうち、95%の企業は「DXにまったく取り組んでいない」(DX未着手企業)、または「取り組み始めた」(DX途上企業)という段階にとどまっていることが分かり、変革への危機感の低さが垣間見える結果となってしまった。DXレポート2では「全社的な危機感の共有や意識改革のような段階に至っていない」と指摘している。
また、新型コロナウイルス感染拡大による2020年4月の緊急事態宣言を受けて、多くの企業が「テレワーク」をはじめとして社内のITインフラや就業規則などを迅速に変更するなどの環境変化に対応してきた。この環境の変化に迅速に適応していくためには、DXの本質となる、ITシステムのみならず、企業文化を変革することが企業の目指すべき方向性であるという認識も高まりつつある。
DXレポート2が示す「DX加速シナリオ」とは?
DXレポート2で示されるのは経済産業省による「DXの加速シナリオ」である。
コロナ禍を契機とする「企業が直ちに取り組むべきアクション」として、DXレポート2では「DX加速の認知や理解を深めたり、IT製品・サービスを活用する事業継続への取り組みが、DXのファーストステップになる」と解説している。
事業継続を可能とする最も迅速な対処策としては、市販のIT製品やサービスを導入することを挙げている。たとえば、テレワークシステムなど「業務環境のオンライン化」、紙書類の電子化やRPAを用いた定型業務の自動化といった「業務プロセスのデジタル化」、「従業員の安全・健康管理のデジタル化」、そして、電話応対業務の自動化・オンライン化といった「顧客接点のデジタル化」などである。
こういった製品導入による変革を「経営トップのリーダーシップによる企業文化を変革する小さな成功体験」とし、その変化を受容し歓迎する組織文化への転換の起点とすることが望ましいと説いている。
また、DXについて認知し理解を深める上では、経済産業省が公表しているDXレポート、DX推進指標とそのガイダンス、デジタルガバナンス・コードなどが参考になるという。
DXレポート2に見るすぐ取り組むべき「DX施策」
DXレポート2では、DX推進に向けたロードマップを提示している。その中で「短期的対応」「中長期的対応」の具体的な内容を言及している。短期的対応では本格的なDXを進めるための体制整備や実践などがポイントとなるという。同レポートで掲げられた「DX推進体制の整備」や「DX戦略の策定」、「DX推進状況の把握」などを詳しくみていこう。
<DX推進体制の整備>
DX推進体制の整備で重要となるのは、DX推進に向けた「関係者間の共通理解の形成」だ。経営層、事業部門、IT部門が対話を通じて同じ目線を共有し、協働してビジネス変革に向けたコンセプトを描くことが重要となる。
また、まずは「DXとはどういうもので、自社のビジネスにどのように役立つか、どのような進め方があるのか」など関係者間での対話の仕組みや中身について共通理解を形成することが重要だという。
関係者間において業務変革のアイデアを提示したり、仮説検証などの協働を促したりするためには、俊敏に適応し続ける精神の「アジャイルマインド」や、失敗を恐れない/失敗を減点としないマインドを大切にする雰囲気づくりなども求められる。関係者の心理的安全性を確保することも必要不可欠だ。
DXの推進に当たっては、経営資源の配分について経営トップとの対話などを通してデジタルを戦略的に活用する提案や施策をリードする旗振り役の存在も必要となる。具体的には「CIO/CDXO(Chief DX Officer)、CDO(Chief Digital Officer)」などを任命し、その役割や権限の明確化することも重要だと説いている。
<DX戦略の策定>
DX戦略の策定では、業務プロセスの再設計が求められる。コロナ禍前の「人が作業することを前提とした業務プロセス」を、デジタルを前提とし、かつ顧客起点で見直しを行うことで、大幅な生産性向上や新たな価値創造が期待できるという。
経営者は「経営とITが表裏一体である」との認識を持ってDXに向けた戦略を立案する必要がある。その際には、DXの取り組み領域や具体的なアクションを検討する際の手がかりとなる「DX成功パターン」を策定することが望ましい。これらを活用して企業は、DXの成功事例の中から自らのビジョンや事業目的の実現につながるものを選択でき、具体的な取り組みに着手することもできる。
<DX推進状況の把握>
経済産業省が示すDX推進指標を活用することで、DXの推進状況についての関係者間での認識の共有や、次の段階に進めるためのアクションの明確化ができる。アクションの達成度を継続的に評価するためにも、DX推進指標による診断を定期的に実施することが望ましいとしている。
【次ページ】DX成功パターンの策定ポイント
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