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新型コロナウイルスの影響で、今までの当たり前が通用しなくなってきた。感染防止の観点から、基本的に患者と医師が対面で実施してきた「診療行為」にも新しい様式が求められている。そうした中、ビデオ通話やチャットなどデジタル技術を活用する「オンライン診療」へのニーズが高まってきた。オンライン診療サービスの市場調査を行っているシード・プランニングのアナリストへの取材を基に、その定義や導入メリット、主要なプラットフォームサービス、普及課題や今後の展望などを網羅的に紹介する。
監修:シード・プランニング 大谷 真理子、執筆:翁長潤
監修:シード・プランニング 大谷 真理子、執筆:翁長潤
「オンライン診療」とは何か?
厚生労働省が2018(平成30)年に公表したガイドライン「
オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、オンライン診療は以下のように定義されている。
“遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為”
この指針で定義されている「遠隔医療」とは「情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為」を指す。この遠隔医療にはオンライン診療以外にも「オンライン受診勧奨」「遠隔健康医療相談」などが含まれる。
【オンライン診療以外の遠隔医療の対象範囲と定義】
- ・オンライン受診勧奨:
遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して患者の診察を行い、医療機関への受診勧奨をリアルタイムにより行う行為であり、患者からの症状の訴えや、問診などの心身の状態の情報収集に基づき、疑われる疾患等を判断して、疾患名を列挙し受診すべき適切な診療科を選択するなど、患者個人の心身の状態に応じた必要な最低限の医学的判断を伴う受診勧奨。
- ・遠隔健康医療相談:
- (医師)
遠隔医療のうち、医師-相談者間において、情報通信機器を活用して得られた情報のやり取りを行い、患者個人の心身の状態に応じた必要な医学的助言を行う行為
- (医師以外)
遠隔医療のうち、医師又は医師以外の者-相談者間において、情報通信機器を活用して得られた情報のやり取りを行うが、一般的な医学的な情報の提供や、一般的な受診勧奨に留まり、相談者の個別的な状態を踏まえた疾患のり患可能性の提示・診断等の医学的判断を伴わない行為
この内、ガイドラインの適用範囲は「医師-患者間(DtoP)」において診断などの医学的判断を含む領域である「オンライン診療」と「オンライン受診勧奨」の2つとなる。両者は「診断や医薬品の処方等を行うかどうか」で区別される。医学上の指示や診療に関わる行為は実施しないという前提の下で一般的な情報提供の範囲である「遠隔健康医療相談」は、同ガイドラインの制約は受けない。
シード・プランニングの大谷 真理子 氏は「オンライン診療に係るオンライン診療サービス範囲については、サービス提供各社での捉え方が異なることもあり、その範囲自体が定まらないまま関連技術が進歩している状況にある」と説明する。
同氏によると、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」におけるオンライン診療の定義は、提供者の視点に立って医療行為として定められている。しかし、オンライン診療を取り巻くサービスは、診療だけでなく、予約・予診・診察・診断・決裁、処方など診療行為だけでなく、さまざまな医療提供の段階において提供されているという。
たとえば、予約システムソフトウェアや予診アプリケーション、オンライン上での診察だけを目的としたWebツールといった、機器やアプリケーション、オンラインプラットフォームなどのさまざまなサービスが単独機能、もしくは複合的な機能を持っており、それらがオンライン診療に関連づけられて提供されている。
オンライン診療システムが提供する主な機能
オンライン診療システムの機能を端的に表現すると「PCやスマートフォン、タブレットなどを用いて、医療機関の予約からビデオ通話(音声および画像)を通した遠隔での診察、処方、医療費の決済までをインターネット上でリアルタイムで実施するもの」と言える。
たとえば、SkypeやZoomなどのビデオ会議システムを利用してもオンライン診療は可能だ。また、オンライン診療サービスには、予約受付管理機能、会計機能、薬局の処方システムとの連携機能といった付属機能が提供されている場合もあるが、それらを使用するか否かは医療機関側に委ねられる。そのため、ビデオ会議システムや予約システム、会計システムなど「診察予約のみ」「診療のみ」、2020年9月の改正薬機法の施行で解禁された「オンライン服薬指導」、それに伴う薬局のシステムとの連携機能なども含まれる。
こういった機能の一部のみが利用される場合もある。こういった付属機能は単独で提供される場合もあれば、オンライン診療サービスに包括されている場合もある。
オンライン診療の導入メリット・デメリット
患者側・医療機関側の立場からオンライン診療を利用する主なメリットを紹介していく。
・患者側の主な導入メリット、デメリット
患者側のメリットとしては、従来からの目的であった離島やへき地などでも適時・適切な医療を専門家から受けられることに加えて、医療機関までの通院費用、通院手段、時間などが確保できないなど、これまでの通院で抱えていた、さまざまな物理的・心理的な「不便さ」を解消できる点が挙げられる。
- ・通院にかかる時間負担の軽減
- ・場所・時間が制約されない(自宅や外出先など好きな時間・場所で診察を受けられる)
- ・アクセスに係る利便性の向上、病院受診に対する心理的障壁の軽減(24時間いつでも予約可能)
- ・院内感染・二次感染のリスクを減らせる(他患者との接触がない)
- ・会計の待ち時間や手間が少なくなる(診療以外で費やしていた事務手続き時間の削減、長時間の待ち時間によるストレス、および身体的負担の軽減)
- ・転居や単身赴任などによって住む場所が変わっても、かかりつけの医療機関で受診できる
また、対面ではないことで診療時に感じる患者の心理的な負担を抑えることも可能だ。たとえば、医師に直接診察されることで緊張状態になり、普段の状態が正しく観察されないという「白衣症候群」のリスクを下げることもできる。また、「医師の前では緊張してしまいうまく話をすることができないという患者もいるが、オンラインでは患者自身がリラックスできる環境で診察を受けることもできる」(大谷氏)
・医師・医療機関側の主な導入メリット
医師や医療機関側のメリットとしては、診察予約や問診、診察、処方、会計などの業務がオンライン上で完結できるため、そうした業務に伴う作業の負荷軽減や業務効率化などが主に挙げられる。オンライン診療により来院の必要性、重症化リスクのアセスメントが行われれば、長時間の診察や適切な処方が行われることとなり、医師の労働時間の削減による働き方改革や医療費の抑制などへの現代医療が抱える課題点に対しても効果・影響が期待される。
- ・診察に伴う医療事務の負担軽減・業務の効率化
- ・時間、距離、費用などにより通院(治療)継続が難しい患者に対する手段となり、診察・治療の継続率向上につながる
- ・リラックスした状態で患者が診察を受けることで、医師―患者間におけるコミュニケーションの増加が期待され、患者情報がより正確に把握できるようになる可能性がある。よりよい患者理解や状態把握の一手段となり得れば、診断・診療の質の向上などにつながる
また、非対面であることから、昨今のコロナ禍では「うつし・うつされるリスクの低減」などへの効果も期待される。一次感染予防、二次感染予防にもつながる。さらに、軽症者の受診をオンライン診療で可能になれば、重症化を未然に防いだり、総合病院など重症患者を診察しなければいけない医療機関に軽症者が受診することを防ぐ効果もある。問題視されている医療体制の崩壊を防ぎ、重症者を取り扱う医療機関への負担を軽減させることもメリットと考えられる。
2030年のオンライン診療関連市場は、292億円まで成長
調査会社シード・プランニングでは2020年7月、オンライン診療サービスの現状と将来の市場に関する調査の結果をまとめた「2020年版 オンライン診療サービスの現状と将来動向」を発刊した。ここからは、その調査結果を基にオンライン診療の関連製品・サービス市場の最新動向を見ていく。
同社では、医療機関の収入である「保険診療」分野、「自由診療」分野、民間企業の「オンライン診療システム」分野、「遠隔医療相談サービス」分野の4つの市場を合わせた範囲をオンライン診療サービス市場として市場規模を算出した。
各種統計データを基にオンライン診療サービス市場規模を予測したところ、同市場の規模は「2018年の123億円から、2030年に292億円市場になる」(大谷氏)という。
大谷氏は「保険診療分野は診療報酬改定に関する今後の動きがポイントになるので予測は難しいが、4分野ともに縮小することはなく、それぞれが伸長する」と予測。また、コロナ関連の特例措置によりオンライン診療が医療機関に急速に認知・受容され始めた点を踏まえて、「コロナの感染がある程度収束したポストコロナ時代でも各市場の伸びは期待できる」との見解を示す。
【次ページ】7つの国内主要プラットフォームと、オンライン診療の課題
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