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コロナ禍の影響を受け、採用市場はこれまでの売り手市場から一転して採用数を減らす厳選採用へと変化しています。しかし、企業にとってはそれだけ慎重に人材を見極める必要があり、依然として採用難易度は高いままです。採用が大きな課題となり続けるなか、多くの企業では離職を防いで人材の定着と活躍を支援するオンボーディング施策に注目するようになってきました。今回は、期待できる効果やオンラインを含めた具体的な施策例、日本オラクルやビザスクなどの企業事例を紹介し成功のポイントをお伝えします。
オンボーディングとは何か?
オンボーディングとは、船や飛行機に乗っていることを意味する「on bord」を語源とする言葉です。船や飛行機の乗組員が迅速に仕事に馴染めるようにサポートすることから転じて、企業の新規入社者を支援する教育プログラムを指す言葉としても使われるようになりました。
オンボーディングの対象は、一般の新入社員や中途入社者のほかCXOなどのエグゼクティブ層も含みます。また、オンボーディングは、日本企業で一般的な入社後に行う短期の一斉研修ではなく、数ヶ月から1年間ほど定期的、継続的に行う支援を指します。
日本ではまだ耳慣れない方も多いかもしれません。しかし、元々日本より転職が一般的で頻繁に人が入れ替わる欧米などのトップ企業では以前から広く実施されています。ただし、オンボーディングという言葉は使わなくとも、これまでもしっかりと目的意識を持って新規入社者を支援するプログラムを行ってきた日本企業はあるはずです。
企業がオンボーディングを重視しはじめた理由
企業がオンボーディングを重視するようになった背景には、企業が持つ「離職率の改善」と「人材の早期戦力化」という課題があります。一般的に新卒の離職率は、「3年3割」と言われるように非常に高いものです。大卒求人市場は2013年頃から右肩上がりの曲線を描いており、企業にとっては自社に合った優秀な人材を確保しづらい売り手市場が長く続きました。直近は新型コロナウィルスの影響によって変わっていますが、先が見えない状況から厳選採用にシフトする企業が増えており採用の難易度が高いことは変わりません。
新規の人材確保が難しいなか、採用できた優秀な人材を定着させ、早期に戦力化していくことがますます重要になっているのです。実際にリクルートキャリアが2018年に行った「
中途入社後活躍調査」では、中途入社者の定着・活躍には「定期的な人事面談」や「定期的な上司面談」が有効との結果も出ています。こうしたことから、多くの日本企業が新規入社者に対してより丁寧な教育プログラムを行うようになっているのです。
オンボーディング実施のメリット
また、オンボーディングの実施には、先程説明した「離職率の改善」と「早期戦力化」のほかにもさまざまメリットがあります。
企業側のメリット:
- ・新規入社者の離職率の改善
- ・新規入社者の定着と早期戦力化
- ・離職者が減ることによる採用コストの削減
- ・入社者の活躍による社内全体のパフォーマンス向上
- ・社員の定着、活躍による社員全体のエンゲージメント向上
社員側のメリット:
- ・仕事、会社に馴染みやすくパフォーマンスが発揮しやすい
- ・働きがい向上による会社へのエンゲージメント向上
オンボーディングは新規入社者を対象とする施策ですが、実施するためには人事や配属先の上司、メンバーをはじめ社内の多くの人々が関わることが一般的です。そのため、新規入社者だけではなく、会社全体の一体感やパフォーマンス向上へと波及しやすいのです。逆に言うと、オンボーディングに広く社員を関わらせることで上記メリットを狙うことができるとも言えます。
オンボーディングの実施プロセス
オンボーディング施策を成功に導くためには、まず自社のオンボーディング施策の目的を明確にすることが重要です。オンボーディングの目的は各社によってさまざまです。
入社者に歓迎の気持ちを伝えることのほかに、一般的によく見られる各社のオンボーディングの目的には、次のようなものがあります。
【オンボーディングの目的・例】
- (1)社内ルールやツールの使い方、仕事の手順を覚えて1人で仕事ができる状態にする
- (2)(1に加え)企業カルチャーを理解して、会社が持つ価値観に沿った行動が自発的にできる状態にする
- (3)(1・2に加えて)入社者自身のキャリア展望と会社の期待をすり合わせ、キャリアのゴール(注)を明確化して実現に向けてPDCAを回せる状態にする
注:入社1ヶ月後、半年後、1年後、3年後、10年後など、企業によって短~中長期までさまざま
この目的は、人材育成をどの程度重視するかや企業の持つ価値観、入社者に任せる業務内容などによって異ります。
上記を見ていただくと分かる通り、(1)から(3)になるにつれて入社者への期待値は上がっています。(1)から(3)のそれぞれによって目的を達成するための施策も異なります。多くの工数がかかるため、現状では、(3)までしっかり視野に入れてオンボーディング施策を行っている企業は多くないと思われます。
まずは自社が新規入社者に求めることを明確化して、目的に合った施策を実施することが重要です。たとえば、上記(3)が目的の場合のオンボーディングの実施プロセス例は以下のようになります。
【オンボーディング施策の実施プロセス・例】
本人要望と会社要望(期待値)のすり合わせ
↓
目標・評価基準の設定
↓
研修、OJTなど各施策の実施
↓
振り返り
↓
評価・改善
オンボーディングの具体的な施策例とは
次に具体的な施策内容を紹介します。オンボーディングの具体的な施策内容も企業によってそれぞれですが、成果を出している多くの企業が実施しているのは以下のカテゴリーに関する施策です。
【オンボーディングの施策カテゴリー】
- (1)歓迎の気持ちを伝える
- (2)社内ルール・ツールなどの理解、習得を支援する
- (3)業務スキルの取得を支援する
- (4)社内のリレーション構築を支援する
- (5)企業文化、価値観の理解を促進する
- (6)入社者のキャリア像の明確化と実現を支援する
そして、上記各カテゴリーにおける具体施策例は以下のとおりです。
【各カテゴリーの具体的な施策・例】
(1)歓迎の気持ちを伝える
- ・歓迎会
- ・歓迎カード
- ・企業グッズのプレゼント など
(2)社内ルール・ツールなどの理解、習得
- ・ルールやツールの利用方法を一覧化
- ・オリエンテーション など
(3)業務スキルの取得
- ・動画やテキストで学べる教材を用意
- ・OJT
- ・メンター、バディ制度
- ・人事、所属部署の上司などとの定期的な1 on 1
- ・関係部署社員との面談
- ・業務日報
- ・課題図書
- ・外部研修 など
(4)社内のリレーション構築
- ・部門や社内全体の交流イベントの開催
- ・部活動など仕事以外の社内コミュニティへの招待
- ・Zoom、Slackなどオンラインでの仕事、仕事以外の相談・雑談制度 など
(5)企業文化、価値観の理解促進
- ・経営層との面談
- ・企業のミッション・ビジョン・バリューなどが書かれた冊子の配布や説明 など
(6)入社者のキャリア像の明確化と実現支援
- ・目標設定シートの用意
- ・人事、上司との定期的な1 on 1 など
【次ページ】オンボーディングの実施タイミング
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