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「コンベンショナル(在来型)な自動車を作っていた以外の人たちが席巻してしまうかもしれない」。これは
「Bloomberg」記事内での、日本電産:関社長の発言である。同社は、モータ、インバータ、減速機を一体化したEV(電気自動車)向けの車載モジュールで、2030年には世界シェア40~45%を目指すという。アップルがEV市場に参入するとの報道に対するコメントだが、未来の自動車産業において存在感を発揮する企業の中には、当然同社も含まれる見込みだろう。自動車産業のみならず、部品メーカーが躍進し製造業の主役交代を引き起こす可能性の1つである、「モジュール化」について解説する。
そもそも「モジュール化」とは何か
「モジュール」とは、ある機能や性能を実現・実行するためのユニットを指し、「モジュール化」はそうしたユニットを活用して開発していく手法だ。
製造業におけるモジュール化を説明する前に、プログラミングにおけるモジュールを紹介しよう。プログラミングにおいては、ライブラリやAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)が、モジュールにあたる。簡単に説明すると、ライブラリは汎用性の高い複数のプログラムをまとめたもの、APIはソフトウェアの機能を共有するための仕組みである。
たとえば、グーグルでは、GoogleMapsナビなどで用いられる経路探索機能をAPIとして提供している。A地点からB地点へ向かう経路を探索する経路探索プログラムを一から作り上げようとすれば、多大な工数を費やしてプログラミングする必要があるが、グーグルが提供するAPIを利用すれば、工数を大幅に抑えて、経路探索機能をシステムに実装することができる。
こうしたモジュールを利用してシステムを作り上げる手法を「マッシュアップ」と言う。音楽において、複数の音源を組み合わせることで、新たな楽曲を作り上げる手法である「マッシュアップ」に由来する。
10年以上前のことであるが、筆者が初めてマッシュアップを得意とするというプログラマーと出会ったときの衝撃は忘れられない。当時私は、ある営業施策を実現するためのWebアプリケーションの開発に課題を抱えていた。営業施策のスケジュールを考えると、Webアプリケーションは1ヶ月以内で開発をしなければならない。だが、社内のプログラマーに工数を算出させると、3ヶ月はかかるという。
悩む私の前に現れたのが、マッシュアップを得意とするSEであった。彼は、公開されているライブラリを利用し、3ヶ月はかかると算出されたWebアプリケーションを、なんと1週間で完成させたのだ。しかも、その出来栄えも優れたものであった。
驚く私に、彼はこともなげに「世間で求められている機能を実現したライブラリって、ゼロからプログラミングするよりも、よほど良くできているんですよ。ただ私は、それを組み合わせただけですから」と答えた。
繰り返しになるが、マッシュアップにおけるAPIやライブラリが、すなわち今回のテーマとなるモジュールにあたる。私が経験したように、モジュール化は、高性能な機能を低コストで、製品に組み込むことができるというメリットを持つのだ。
自動車業界におけるモジュール化
それでは、自動車産業におけるモジュール化の例に目を向けてみよう。
2012年以降、国内および欧州の自動車メーカーは、相次いでメガプラットフォーム戦略を打ち出した。
フォルクスワーゲン・グループのMQB(Modulare Quer Bukasten)、ルノー・日産陣営のCMF(Common Module Family)、ボルボのSPA(Scalable Product Architecture)、トヨタのTNGA(Toyota New Global Architecture)、マツダのCA(Common Architecture)などだ。
そもそも、それ以前から自動車メーカー各社は、スモールカー、コンパクトカーといった車両セグメントごとの共通化を推し進めていた。メガプラットフォーム戦略は、そうした共通化をさらに一歩進めて、車両セグメントのみならず、ブランドやメーカーの枠を超えて部品の共通化を進めていこう、という野心的な戦略だ。
その理由の1つがコスト削減だ。自動車に限ったことではないが、現在、消費者のニーズは多様かつ高度化している。そのニーズにそのまま応えようとすれば、手間がかかる分だけコストに反映され、販売価格も上げざるを得ない。部品の共通化とモジュール化が進めば、コストの上昇を抑えることができる。
また、時流を見ると、自動車メーカーは研究開発、もしくは設計に携わるリソースを、自動運転も含めたEV化などの新技術の開発に割かざるを得ない。モジュール化が進むことによって部品メーカーに負担を分散させられることも、メリットである。
その自動車部品メーカー各社も、モジュール化にビジネスチャンスを見出している。
たとえば、2017年に日産系列から離脱し、独立系部品メーカーになったマレリ(旧社名:カルソニックカンセイ)では、コックピットモジュール(CPM)に商機を見出している。もともと、マレリは日産にCPMを長年にわたり納品してきた実績がある。独立系部品メーカーとなった今、販路を拡大しようというのは、当然であろう。
エンジン系部品を手掛けてきたケーヒンは、自動車EV化の流れを受け、パワー・コントロール・ユニット(PCU)や、電池管理システム(BMS)に期待をかけている。ケーヒンも、PCUについては、過去30年近く、累計100万台の累計出荷実績を持つ。今後、ケーヒンでは、実績のあるPCU、BMSに加え、EV自動車に向けて、電池、モーター、エンジン・コントロール・ユニット(ECU)、熱管理システムなどを総合的なシステムとして提供することを目論んでいるという。
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