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日本航空(JAL)では、Twitter/Facebook/Instagramなどの各種SNS、さらに自社コミュニティサイト「trico」を運営し、ユーザーとのコミュニケーションおよび自社ブランドの向上に取り組んでいる。同社 広報部 Webコミュニケーショングループ長
山名 敏雄氏が、緻密な分析に基づいたファン拡大戦略の全容を明らかにした。
※本記事は2020年10月7日開催「CMO Japan Summit 2020(主催:マーカスエバンズ)」の講演を基に再構成したものです。
「顧客はどうやって航空会社を選んでいるか」という問い
「世界で一番お客さまに選ばれ、愛される航空会社へ」をスローガンに掲げる日本航空(JAL)。その実現に向けて、同社では「顧客はどうやって航空会社を選んでいるか」を社内で議論してきた。
日本航空 広報部 Webコミュニケーショングループ長 山名 敏雄氏によると「シートが広くて座り心地がいい、機内食が美味しいなどのソフト面、ハード面で選ばれるというのがこれまでの通説だった。しかし、社外に広くリサーチをかけた結果、そうしたサービスの観点だけはなく、『何となく好き』という気持ちの面で航空会社を選んでいる顧客が多いことが明らかになった」という。
また山名氏は、航空業界について「利用頻度はそれほど多くないため、ブランド認知度は高いものの、日常的に体験したり、見聞きする機会が少ない商材を扱っている業界」と分析。「搭乗しないときに何もしないと、いざ飛行機に乗る機会に真っ先にJALを思い浮かべてもらえるかが疑問である」との見解を示す。
その上で、JALにおけるマーケティング施策の方針について「空白の期間にどれだけアピールできるかという点を踏まえ、忘れられないようにコミュニケーションを継続し、いざという時に選んでもらえるような地道な活動に取り組んでいる」と説明する。
3大SNSをどのように使い分けているのか
現在、JALでは「Twitter」「Facebook」「Instagram」などのSNS公式アカウントを開設している。山名氏は、それぞれのSNSにはメインアクティブユーザー層や特徴が異なると考えており、それぞれに合わせた施策を展開していると説明する。
2011年4月に開設したFacebookは、199万以上のフォロワー数を抱える(2020年11月1日時点)。2010年1月の経営破綻によってブランドイメージが低下した中、再生に向けて世の中に発信するためのツールとして活用を始めた。「共感」をキーワードに新生JALの舞台裏を紹介することを目的として、開設当初は有志によって運営された。
同社のFacebookアカウントの特徴として、山名氏は「実名顔出し」というスタイルで、顧客に対する想いを“自分の言葉”で伝えることに注力している点を挙げる。実名投稿によるリスクについては危惧する声も上がったが、「リアルとネットの違いはあれ、Facebookが実名制のSNSである点を踏まえて社内で了承を得た」と同氏は振り返る。たとえば、開設2日目には復興最中の羽田・山形線の臨時便を乗務した機長が記事を投稿。復興にかける思いなどを自分の言葉で伝えた。
「パイロットという存在は、なかなか顧客と直接接する機会は限られるが、投稿後は今までとは違って親近感がわいたと好評だった。私たちが目指しているコミュニケーションの形の1つだ」(山名氏)
JALのInstagram公式アカウントは、2015年8月に開設された。20~30代をメインターゲットに、国内外の旅するユーザーから愛されるアカウントを目指して、旅先の風景写真や航空機の写真を投稿している。山名氏は「飛行機での旅の楽しさを感じられる写真を共有して気づきや旅行喚起を起こすなど、ライトなコミュニケーションを目指している」と位置づけを説明する。
また、Twitterでは「JAPAN AIRLINES【JAL】」「JAL 運航情報【公式】」の2つのアカウントを運営している。お得な情報や運航情報などの購買につながる情報や、航空業界の豆知識や小ネタなどを発信している。
「ソーシャルリスニング」などデータ分析にも注力
山名氏によると、同社では「ソーシャルリスニング」分析にも注力しているという。ソーシャルリスニングとは、顧客のSNS上での発信を分析することだ。投稿内容にJALが含まれているものについて、同社のWebコミュニケーショングループがツールを活用して毎日収集し、関連部署などへの社内展開を図っている。
ソーシャルリスニングを実施する理由について、山名氏は「生活者が本音で自由に意見しているため、気づきが非常に多い。サービス改善・向上のヒントが含まれている。また、知らないところでの投稿について、リスク管理の観点でも活用している」と説明する。それをもとに、商品サービスやリスク管理部門と連携し、改善対応などを各部門にて検討・実施している。
毎日自社に関する投稿1500件、競合他社に関する投稿1500件程度を収集してピックアップし、担当者の判断で内容を精査する。それらの情報をもとに毎日配信する「日報」、週ごとに目だったトピックスを配信する「週報」などで社内で共有しているという。JALでは、ソーシャルリスニングで収集したデータに加えて、各種メディアにおける掲載情報やその他の発信状況などをまとめてBIツールで分析している。
山名氏は「通常、見るツールが異なったり、指標がバラバラになることが多く、各施策を総合的に評価することが難しい。JALでは独自のツールで集約管理して分析することで、共通の指標を作ってスコア化し、それを積み上げて施策結果の可視化にも取り組んでいる」と自社の取り組みを紹介する。また同社では、SNS内でのフォロワーとのコミュニケーションも重視。ポジティブな投稿に関しては、可能な範囲で公式アカウントからリプライするという。
「一般のフォロワーさんにとって、公式アカウントからの返信はとても好意的に受け取ってもらえる。再度投稿してもらえたり、他のフォロワーさんに波及することもある。いい相乗効果が生まれ、ファン度が上がっているのでは」と、山名氏は手ごたえを感じているという。
【次ページ】自社コミュニティサイト「trico」を運営、艦これとの異色コラボも
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