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シェアリングエコノミーなどの新たな経済圏の台頭によって「モノの所有」から「モノの利用」へと価値基準がシフトしている。ビジネスモデルもサブスクリプションをはじめとする新たな潮流が注目を集めるが、その定義は曖昧だ。サブスクリプションとは何か、従来の定期販売の違いや、ビジネスを構築するマーケティング手法のポイントなどについて、オイシックス・ラ・大地 執行役員CMT(Chief Marketing Technologist)の西井 敏恭氏が語った。
※本記事は2020年10月7日開催「CMO Japan Summit 2020(主催:マーカスエバンズ)」の講演を基に再構成したものです
サブスクリプションの定義に感じる「違和感」
デジタル化によって、生活のあらゆるシーンにおいて「質の変化」が生じている。このほど都内で開催された「CMO JAPAN SUMMIT」に登壇した西井氏は、旅行を例にとって説明した。
「たとえば、2003年当時は、旅行者はガイドブックを携えて旅行をしていましたが、2013年にはスマホ1つで宿の予約から目的地までの経路検索まで、何でも行えるようになり、以前は1年かけた行程を3カ月で回れるようになりました」(西井氏)
デジタル化によって情報の量や質が変化し、これによって旅行という体験の「質も目的も大きく変化」したわけである。西井氏は、オイシックス・ラ・大地(当時はオイシックス)において、2016年頃にビジネスモデルを定義した。
「豊かな食卓を創造する」ミッションの実現のために、「食×サブスクリプションの圧倒的ナンバーワンプレーヤーをめざす」というもので、同社はいわば「サブスクリプション」をビジネスに取り入れてきた先進企業の一つだといえる。
しかし、サブスクリプションという言葉が定着するにつれて、「ある違和感を覚える」と西井氏は述べる。
「サブスクリプションの定義を見ると、『顧客がサービスの利用期間に応じて料金を支払うビジネスモデル』などとされ、定期購読や予約購買などと言い換えられていますが、これには少し違和感があります」(西井氏)
これのどこに、西井氏は違和感を覚えているのか。
サブスクリプションの本質は「マーケティングの変革」にある
西井氏は「サブスクリプション」と従来の「定期販売」の違いについて説明した。たとえば、「Netflix」などの動画配信サービスと、従来のケーブルテレビのビジネスを見ると、「月額いくらの定額サービスという点では同じだ」という。あるいは「NewsPicks」などのニュースサービスの有料会員と、新聞などの従来メディアの違いはどこにあるのか。
西井氏は「単にオンラインで商品やサービスを定期販売するのがサブスクリプションかというと、私は違うと思う」と指摘する。
また、最近注目を集める「D2C(Direct to Consumer)」と「製造小売(Specialty store retailer of Private label Apparel:SPA)」の違いについても、「D2Cはブランドの立ち上げから情報発信、広告、マーケティング、購入までデジタルで完結しており、SPAは実店舗を持っている点が異なるといわれるが、私はもっと本質的な違いがあると考えている」とした。
西井氏は、サブスクリプションのビジネスモデルの基本は「LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)がCPO(Cost Per Order:新規顧客の獲得単価)を上回ることにある」と述べる。これは「1人の顧客が、将来的に自社にどれだけ利益をもたらすか」が「新規顧客に自社商品を購入してもらうために要した費用」を上回ることだ。
しかし、従来の定額通販ビジネスがWeb化、デジタル化するに際して「CPOが高い」「LTVが低い」という議論になることが多いと西井氏は話す。これは、デジタル化によって、ユーザーはスマホ1つで簡単に買い物が行えるようになり、「定期的に商品が届くことがユーザーにとっての利便性につながらなくなってきた」ことが背景にある。
顧客にとっての利便性が少なくなり、かつ、広告によって商品の差別化が難しくなったことで「従来のビジネスモデルよりもLTVが低くなり、CPOが高くなった」というのだ。
では、Webで定期販売のモデルを成功させるにはどうしたら良いか。西井氏は「成功のカギを握るのはマーケティングだ」と述べる。
サブスクリプションは、「定期通販とビジネスモデルは同じでも、マーケティング手法が異なる」と西井氏は話す。すなわち、サブスクリプションとは、「デジタル(データ)の活用によってマーケティングが変革することだ」というのだ。
【次ページ】「サービスを使い続ける気持ち」を高めるオイシックスの施策
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